第199話
俊輔があっという間に魔人たちを眠らせたころ、俊輔の仲間たちも魔人たちと戦っていた。
「最初から殺すつもりはないけど……」
囲まれないように周囲を動き回りながら、京子は魔人たちの動きから実力を計る。
本気を出していないとは言っても、移動速度に自信のある京子から離れずについてきている。
「う~ん。この人たち結構強そうだからな……」
その動きだけで、彼らが結構な実力の持ち主たちだということが分かる。
俊輔の指示では殺すなと言っていたが、気を失わせるようにしてたらこっちが怪我するかもしれない。
移動しながら、京子は彼らをどうするべきか思案する。
「余裕があるなら私を手伝え!」
並走するように寄ってきたカルメラが、余裕そうな京子に向かって抗議する。
カルメラからすると、彼らを殺さずに倒すというのはかなり難しい。
俊輔の指示なんて無視してやろうかとも思うが、そうなったらこの場で仲間から外されてしまいかねない。
どうしようもないので、逃げることしかできないでいた。
「10対2か……」
魔人たちは5人一組で動いているらしく、京子とカルメラを追って来ている人数が合わさり、余計に面倒なことになった。
この人数を相手にカルメラとの急造コンビでは、いよいよ手加減しているなんて出来そうにない。
「ん~…………、そうかっ!!」
「何だ?」
逃げ回りながらも考えこんでいた京子は、一つの方法を思いついた。
思いついたら即行動。
京子は反転して魔人たちへと向かって行った。
「お、おいっ!!」
京子の急な行動に面食らったカルメラも、慌てて京子の後を追った。
「ハッ!!」
「うっ!!」「がっ!!」
急に反転した京子に驚いたのは魔人たちも同じだった。
先頭を走っていた魔人が慌てて攻撃をしようとしたが、速度を上げて迫った京子に合わせることができない。
そのため、京子の攻撃が魔人たちにヒットする。
攻撃を受けた魔人たちは、強力な一撃に苦悶の表情を浮かべて蹲った。
「お、おいっ!!」
京子の攻撃を見たカルメラは、驚いた声をあげる。
さっき攻撃を受けた魔人たちは、明らかに骨をやられている。
ヒビで済んでいればいいが、様子を見る限り折れている可能性が高い。
「お、お前……、もしかして……」
さっきのを見る限り、気を失わせるなんて生易しい攻撃ではなかった。
そのため、カルメラは京子の考えに気が付いた。
「殺さなければいいんでしょ?」
「………………」
やはり、カルメラが思った通り、魔人たちを気絶させるというより、無理やり動けなくするという選択を取ることにしたようだ。
思いついてもそんな簡単に行動に移す京子に、裏社会の住人だったカルメラからしてもいかれた存在に思える。
しかも、それを京子は笑顔で平然と言うのだから、カルメラは背筋に冷たいものを感じ、少しの間無言になってしまった。
「ぎゃっ!!」
「カルメラも何人か相手してね」
「あ、あぁ……」
更にもう一人、俊輔特製の木刀で鎖骨を殴り折り、痛みで動けなくしてから京子はカルメラへ援護を頼む。
一応程度に色々な武器を使えるカルメラは、稽古用の武器を持っている。
その中から槍の稽古用の棒を取り出し、カルメラは京子の背を守るように立つ。
「ちょっと前は殺し合いをしていたやつの背中を守るなんて思ってもいなかったな……」
「人生には色々なことが起きるものよ!」
カルメラの言う通り、少し前には組織の一員として、暗殺の邪魔をする京子を排除しようと殺しにかかった。
結局返り討ちにあったのだが、その相手を今は守らなくてはならない。
そう考えると、今の状況を不思議に思ってしまう。
それをしみじみ言うカルメラに、京子はまるで知ったかのように言う。
「来るわよ!」
「あぁ!」
そうして、京子とカルメラは残りの魔人たちの相手をすることにしたのだった。
“ダダダダッ……!!”
「……………」
「ピィッ!」
ネグロとアスルの従魔コンビも、最初のうちは動き回っていた。
ダチョウそのもののような魔物のアスルの頭に乗り、丸い毛玉のようなカラスのネグロ。
ネグロはアスルの頭に乗って、追って来る魔人たちを眺める。
魔人たちの強さを見ると、アスルだけでは5人は厳しい。
なので、一緒にいることを選んだネグロは、自分がどうにかしないとと考える。
魔人たちから逃げ回るように、ネグロはアスルに指示を出して右へ左へ移動する。
「ピィ~……」
実は、ネグロも京子同様どうやって魔人の彼らを動けなくするか考えていたのだ。
魔法特化のネグロは、当然魔法で動けなくすればいいのだが、どんな魔法を使うか悩んでいた。
一番最初に浮かんだのは、氷で動けなくするという方法だが、追って来る魔人の中には結構年配の者も混じっている。
それをしてしまって、心臓麻痺でもされたら俊輔の指示を遂行できない。
電撃による麻痺も同じ理由で躊躇われる。
「ピッ?」
しかし、その考える時間もすぐに終わる。
何故か全員いっぺんに倒すことばかり考えていると、ネグロは気付いた。
別にいっぺんに倒す理由はない。
「ピィ!!」
“バリバリ……!!”
「「「「「「「「「ガッ!?」」」」」」」」」
年配の魔人以外をまずは動けないようにしようと、ネグロはすぐに電撃を放つ。
いきなり痺れるような電撃を食らい、1人の魔人を残して地面へと倒れていく。
「お、お前ら!」
いきなり自分以外が崩れ落ち、ヒクヒクと痙攣しているのを見て、年配の魔人は驚きと共に慌てる。
「っ!?」
それを行ったネグロの方にその魔人が目を戻すと、目の前にはアスルが迫っていた。
「…………」
“ドムッ!!”
「ウッ!?」
蹴り技による戦闘が得意なアスルの膝が、残った魔人の腹に入る。
ネグロの援護がある1対1なら、アスルでもなんとかなる。
アスルの膝の入った男は、そのまま腹を抑えて蹲った。
「…………!!」
ほとんどネグロのお陰だが、最後を自分がしめたことをアピールするように、アスルはガッツポーズをしたのだった。




