第1話
転生して3年がたった。
この間に俺は、自分とその家族の事とこの世界の事をなんとなく理解した。
まず俺の新しい名前は「俊輔」になった。
父親である田茂輔と、母親の静江の間に生まれた三男坊である。
2人の兄は現在、長男が龍之輔11才、次男が虎之輔で10才で、俺とはちょっと年が離れている。
俺が生まれた時ケツを叩いていた婆さんは産婆で、俺は逆子だったため難産で生まれ、最初息をしていなかったらしい。
その為逆さにして、ケツを叩いて息を取り戻したのだそうだ。
そしてこの世界の事だが、家族の名前など使われている言語が日本語の事から、また日本のどこかに転生したのではないかと思ったのだが、実際は日本に似た異世界に転生したようだ。
なぜそう思ったかというと、まず家族の着ている服がテレビの時代劇でよく見た町人が着ている着物であるという事、さらに電化製品の類いが一つもない事、しかしこれだけではまだ異世界と確信できずにいたら、母である静江が囲炉裏で調理をするの見ていたら、母は囲炉裏の炭に火を入れる時「着火」と言い、指先から小さい火を出したのである。
最初は何事かと思ったのが、何度も見ている内にどうやら生活魔法と言われる魔法の一つだと分かった。
前世では、漫画やラノベは沢山とは言わないけれどこの手の作品も読んだ経験はあった為、肉体はともかく精神は四捨五入したら40代のおっさんにも関わらず、テンションがかなり上がった。
俺は自分も使えないかと思い、真似してみたのだが何故か火はでない。
しかし母の魔法を集中して見ていたら、火を出す時指先に湯気のようなものを感じた。
もしかしたらと思い、自分の指先に集中していたら湯気のようなものを感じた。
どうやらその湯気のようなものが魔力のようだ。
それから色々調べて見たら、思ったとおり魔力が体の中を微弱ながら流れている事に気付いた。
そして何度も練習した結果「着火」の魔法を出す事に成功したが、テンションが上がって続けて二度、三度と魔法を使ったら気が遠くなり、意識を失い気絶してしまった。
「あれっ? 日付変わってる」
原因はいわゆる魔力の枯渇だ。
生まれて3年しかたっていない体に、魔力が大量にあるわけがないということを考えていなかった。
しかし気絶から目が覚めた時、今まで以上の魔力を体内に感じ取り、ラノベなどによくある魔力を使えば使うほど魔力の総量が増えるということなのだろうと結論付けた。
それからは、魔力枯渇手前まで生活魔法を使うということ毎日繰り返した。
この家は農家であまり裕福ではないようだが、両親と兄二人で色々な野菜を畑で育てているうえに、なんと言っても主食が米である為、食に関しての悩みは特に感じないでいた。
俺はあまり手が掛からないらしく両親からは結構放っておかれる事が多い。
その為結構長い間魔力の操作に時間を使えるのだが、最近では中々魔力を使い切れなくなってきた。
「このままだとつまらないなぁ……」
この村には娯楽が無い、皆無と言ってもいいくらいだ。
前世では平凡な人生を過ごしたとは言うものの、娯楽に溢れた世界で生きてきた自分には、魔力を使って過ごす事しか何もする事が無い。
「俊ちゃーん!」
一人の少女が俺をの名前を呼びながら走って来た。
この子の名前は「京子」、俺と同い年でこの村の村長の孫である。
「俊ちゃん遊ぼ!」
この村には他に同い年の子供はいないせいか、よく俺と遊びたがる。
「えー! 嫌だよ。どうせまたままごとだろう?」
この村で女の子の遊びはままごと一択しかないく、毎回付き合わされるのは精神年令38才のおっさんにとってかなりの苦痛である。
唯でさえ魔力の事で行き詰まっていて悩んでいるのに、ままごとの相手するのはさすがに勘弁してもらいたい。
「むー! あっそうだ、じゃあ家で本読んであげるよー!」
「えっ! 本があるの?」
いきなりの読書の誘いに驚いた。
俺は別に読書家というわけではないけれど、この村に本があることに驚いたのである。
学校もないこの村には、本もないものだと思っていた為である。
もちろん俺の家にはない。
そういえば村長が、月に二回くらいの割合で隣町から来る行商人と取引していたことを思い出した。
この村では読み書き等の教育は各々の家に任されていて、家は7才から教育することになっていて、母が文字の読み書きを、冬の収穫のない間兄達に教えていた。
村長の家では、孫である京子に早くから教育をしているらしい。
「うん! 行こう!」
京子に手を引かれ村長の家の本棚を眺めていたら、一冊だけ希望通りこの世界の魔法の事が書かれた本を発見した。
「ひゅうがのくに……」
京子は教わったばかりのこの国の物語を俺に読んでくれた。
しかし、魔法の本の方に興味を引かれていた為、本棚からその本を取り出してペラペラとめくり始めた。
「もー! 俊ちゃん聞いてよー! 大体俊ちゃん字読めるの?」
「んー、見てるだけー」
適当に返事を返しながら本の内容を暗記して行く、本はたいした量ではなかった為一通り覚えられた。
『よし! これでまたしばらく魔法で楽しめるな……』
心の中でワクワクしつつ、その後京子の機嫌を治してもらう為、改めて物語を読んでもらう事になった。