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第197話

「そうか、子供に逃げられたか? クク……」


「何だ? その嫌みったらしい笑いは……」


 魔人族の子供を助けた俊輔だったが、人攫いに間違えられ、女の子に悲しそうな顔をされてしまった。

 そのことでショックを受けていた俊輔に、カルメラは面白いものを見たといったように笑う。

 その笑いが、何だか馬鹿にされているような気がして、俊輔はムッとする。


「あれだけの強さを持っていながら、普通の感情を持っているのだな?」


「お前、俺を何だと思ってるんだ?」


 天才的な戦闘力を有していた兄のシモンを倒した俊輔。

 所属していた組織がなくなり、目的がなくなってしまった時、兄以上に強い男がどういう人間なのかという単純な興味を持った。

 尾行と監視をして様子を探ろうと思ったのだが、あっさりバレた。

 だが、その後、なんだかんだで同行できるようになったが、近付いたのはその強さに関心を持ったというのもある。

 短い付き合いだが、はっきり言って強さは化け物と言って良いレベル。

 まだ全然底が見えない。

 そして、行き当たりばったりを楽しんでいるおかしな人間という印象が強かった。

 そんな俊輔が、子供に嫌われた程度で落ち込んでいる姿が何だかおかしく、カルメラは思わず笑ってしまったのである。

 そして、何だか自分がまともじゃないように言われた俊輔は、全くもって心外だった。


「何言ってるの? 俊ちゃんは子供に優しいのよ」


「……おいっ、何を……」


 俊輔の感情を察してか、カルメラの発言を聞いていた京子は、擁護するような発言をする。

 しかし、俊輔からすると、自分の本質をばらされているようで、何だか気恥ずかしく感じる。


「私もそうだけど、シュンちゃんは基本可愛い物が好きなのよ」


「き、京子? そ、その辺で……」


 どちらかというと京子の方が小さかったり、可愛い物に反応するが、実は俊輔も嫌いではない。

 京子のように、態度に出して愛で始めるようなことはしないだけだ。

 自分のことは隠す傾向にある俊輔だが、小さい頃から一緒の京子には全部バレているらしく、それをカルメラに言いふらすような状態に俊輔は耳が赤くなる。


「ネグちゃんやアスルもそうだし……」


「ピー!」「…………!」


 俊輔の停止の言葉を聞き入れず、京子はそのまま話し続ける。

 京子の側にいるアスルと、その頭に乗っているネグロも、片翼を上げて「その通り!」と言っているようだ。

 生まれた時に目を合わせてからずっと側におり、自由に育てられてここまで強くなれたネグロは、とても俊輔に感謝している。

 同じ種族の魔物とは言っても、自分の行いで若干仲間外れにされていたアスルも、今では良くしてもらっているため俊輔が好きだ。

 だが、アスルの場合は、俊輔の作る料理がめちゃめちゃ美味いというのも入っているだろう。


「もういいよ! さっきの子供たちが行った方向に行ってみようぜ!」


「あっ! もう、まだ途中なのに……」


 恥ずかしさに耐えきれなくなった俊輔は、京子の話をぶった切るように大きな声を出す。

 さっきの子供たちが向かったということは、そこに他にも人がいるということだろう。

 なので、京子たちのことは気にせず、そちらへ向かって歩き出した。

 ご丁寧に転がっている熊を収納したのはご愛敬だ。

 勝手に進み始めた俊輔に、話を切られた京子は不満そうな表情と共に追いかける。

 カルメラとネグロとアスルは、その後ろに付いて行くことにした。


「……でも、大丈夫かな?」


「何が?」


 歩き出してすぐ、京子は疑問の声をあげる。

 何が気になっているのか分からず、俊輔は聞き返す。


「私たちを見て子供たちが人攫いと判断したということは、それだけ人族がここら辺に来ているって事でしょ?」


「そうか! そうなるな……」


 出現する魔物が強力とは言っても、多くの高ランク冒険者と共に集団で行動すれば、人を攫ってくることはできそうだ。

 出現するのがこれだけの魔物なら、魔石を幾つか拾って来るだけでも往復の資金なんて取り返せるだろう。


「そうなると、大人の人たちも私たちを同じように思うんじゃないかな?」


「…………そうだな」


 京子の尤もな考えに、俊輔は思わず足が止まる。

 あんな小さな子にまで浸透しているということは、人族=人攫いと言うような構図になっているのかもしれない。

 他の魔人の大人たちも、俊輔たちを見たら敵対的な態度をしてくることが容易に予想できる。

 決して俊輔たちはそんなことするつもりはないが、それを言ったところで証明にはならない。

 もしかしたら、相手が問答無用で俊輔たちを排除しようとしてくる可能性がある。

 その程度にもよるが、もしも仲間に被害が及びそうになれば、俊輔も抵抗しない訳にはいかない。

 抵抗して怪我でも追わせれば、彼らの敵対心をさらに上げてしまうという負の連鎖だ。


「今更だな……」


「……どういうことだ?」


 足を止めて悩み始める俊輔たちに、カルメラは若干呆れたように呟く。

 まるで、そうなるのが当然だと言うような物言いに、俊輔たちは理由を求める。


「我々の組織は、元々人族に連れ去られ無理やり奴隷にされた者たちが、運よく解放されて集まり、作られたという話だ。そして、組織は暗殺系の他にも、奴隷にされて苦しむ者たちを救うということも仕事としておこなってきた」


「……なるほど」


 カルメラのいた組織であるベンガンサ。

 敵対したことで、てっきり暗殺専門の組織なのかと俊輔たちは思っていたが、どうやら違ったようだ。

 ベンガンサ(復讐)という意味の本来の意味は、強制的に奴隷にされたことへの復讐だったのかもしれない。


「その仕事は僅かに減りつつあったが、組織が崩壊する前までも続いていた。つまり……」


 どういう訳だか、魔人大陸との係わりはないにもかかわらず、魔人奴隷の数はあまり変わっていない。

 魔人を呪われていると毛嫌いする人間もいるが、それはマイノリティだ。

 仲良くするつもりはないが、奴隷としては利用したいと考えている者は、表にも裏にも相当数いる。

 そういった者が冒険者を使って手にれるという行為は、裏の人間ならよく聞く話だ。


「魔人の人たちを強制的に奴隷にするという行為は続いていたということか……」


「そうだ!」


 カルメラの話を、俊輔は黙って聞いていた。

 魔人奴隷の解放が続いているということは、捕えられてくる魔人がまだ続いているということが容易に考えられる。

 その行為を平気でおこなって来ているのが、同じ人族の者たちだということに、俊輔は密かに怒りが込み上げてきたのだった。



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