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第196話

「やっぱりこの大陸は魔物が多いな」


「そうだね」


 俊輔が仕留めた熊肉を食べ終わる頃には日も登り始めた。

 そして、近くに人がいないか探し始めると、結構な数の魔物が俊輔たちに襲いかかってきた。

 人族大陸ではあまり見ない魔物がこの大陸では普通なのか、ランクが高めの魔物ばかりが現れる。

 とは言っても、俊輔たちにかかればすぐに物言わぬ骸になり果てる。

 あっという間に、魔物の山ができあがる。

 ほとんどが俊輔による結果だが、妻の京子と従魔たちも何体か倒している。

 俊輔たちはその山を見ながら、呑気に話し込んでいる。


「これだけ多いと住んでる人間は大変だな……」


 倒したのはいいが、解体している暇がない。

 なので、魔法の袋に収納するのだが、数が多いので結局時間がかかる。

 全て収納し終えると、俊輔は改めてこの大陸で生きることの大変さを感じた。

 俊輔たちならともかく、普通に生きている者がこんな数の魔物を相手にして生きていかなければならないなんて、過酷な大陸だというのは本当のようだ。


「数の問題だけではないのだが……」


 俊輔の呟きに、仲間に加わったばかりのカルメラは小声でツッコむ。

 たしかに数が多いのも問題なのだが、それ以上に強力な魔物だということが問題なのだ。

 俊輔はまるでゴブリンでも相手にしているかのように魔物を屠っているが、普通は逃げることも考えるような魔物たちだ。

 そこがズレるほど、俊輔にとってはたいした魔物ではないということのように聞こえる。






 両親を亡くした幼い兄妹は、薪となる小枝を集めるのが仕事だった。

 いつものように集めていたのだが、今日に限って村の近くには見つからなかった。

 他の人が持って行ってしまったのかもしれない。

 そのため、その出来事はいつもの道から少しずれただけで起こった。


「駄目だよお兄ちゃん!」


「すぐに戻れば大丈夫だよ!」


 村の大人たちからは、危険なので村から離れないように言われていたのだが、小枝が落ちている所を探しているうちにいつの間にか村から離れてしまった。

 不安そうな妹の忠告を聞かず、結構森の奥に来てしまっていた。


“ガサッ!!”


「「っ!?」」


 物音がしてそちらに目を向けると、赤毛の熊がいるのが見えた。

 あっちは兄妹に気付いていないらしく、別の方向に目を向けている。


「に、逃げるぞアイラ!」


「う、うん!」


 レッドグリズリーだ。

 村の周辺で最も危険な魔物だ。

 毎年数人は怪我をしたリ、命を落としたりと被害を受けている。

 まだ気づかれていないなら、逃げるのが一番だ。

 妹に小声で呟き、2人は少しずつ熊から離れようとする。


「ッ? グルル……」


 どうやら兄妹は風上にいたらしく、風下にいた熊は2人の存在を匂いで気付いた。

 完全にこちらに顔が向き、熊は兄妹に狙いを定めたようだ。


「くそっ!! 逃げろアイラ!! 俺が囮になる!!」


「やだよ!! お兄ちゃんも一緒じゃないと!!」


 熊に目を付けられたと分かった時には、2人は走り出していた。

 しかし、懸命に走っても熊の速度の方が圧倒的に早い。

 このままでは2人とも殺られると思った少年の方は、足を止めて熊の方に体を向ける。

 妹だけでも助けるために、自分を犠牲にしようと覚悟したのだ。


「か、かかってこい!! コノヤロー!!」


「ガァァーー!!」


 兄を見捨てることが出来ず、妹の方は動けなくなっている。

 どちらにせよもう逃げられる距離ではない。

 もう抵抗するしかなくなり、少年は枝を武器に熊へと構えた。

 そんな少年を餌としか見ていない熊は、鋭い爪で斬り裂こうと、前足を振り上げたのだった。


「そいっ!!」


“バキッ!!”


「「っ!?」」


 熊に殺られると思った瞬間、兄妹の前にいきなり人が飛び込んで来た。

 そして、熊に近付くと、軽い掛け声とともに蹴りを放った。

 蹴りを食らった熊の首は折れ曲がり、そのまま崩れるように倒れていった。


「大丈夫か? ボウズと嬢ちゃん」


「「……………………」」


 兄妹が熊に襲われている所を助けたのは俊輔だった。

 村を探して歩いていたら、少年少女へ向かって熊が襲い掛かっていくのが見えた。

 その瞬間、俊輔は駆け出した。

 そして、熊を倒したのだが、子供たちの反応がない。


「じ、人族……」


「んっ? 何?」


「近寄るな!!」


 少女の方が小さい声で呟いたのだが、俊輔の耳には聞き取れなかった。

 なので、近付いてもう一度何を言ったか聞きなおそうとしたら、少年が少女をかばうように立ち塞がった。

 俊輔に向けられている目は、さっきまで熊に対していたのと同じように思える。


「い、妹に手を出したら許さないぞ!!」


「…………いや、俺は……」


 ただ話を聞こうとしただけなのに、何だか様子が変だ。

 この少年は、明らかに俊輔のことを敵とみている。

 とりあえず落ち着いてもらおうと、少年に武器を下ろしてもらおうと腰を落とした。


「このやろー!!」


「おっと!」


 動いたことに反応したのか、少年は俊輔に襲い掛かった。

 当然子供の攻撃を受けるような俊輔ではない。

 枝で殴りかかってきた少年の攻撃を躱して、襟の部分を摘まみ上げる。


「離せ! 人攫いの人族め!!」


「……人攫い?」


 襟を摘ままれて持ち上げられた少年は、バタバタと暴れる。

 すると、不穏な言葉を投げかけられる。


「お兄ちゃんを離して!!」


「……………………」


 何のことだか分からず考え込んでいると、少女の方が俊輔の足に縋って来た。


「……何か、悪いな……」


 目に涙をいっぱいに溜めて少女に懇願され、俊輔は何だか分からないが申し訳なくなってくる。

 仕方がないので、少年の方を下ろしてあげると、2人は後退りし始めた。


「走れ! アイラ!」


「う、うん!」


 そして、ある程度の距離が開くと、俊輔に背中を向け、2人は急いで走り始めた。


「行っちゃった……」


 そのまま走っていってしまい、俊輔は置いてきぼりを食ってしまった。


「……どうしたの俊ちゃん?」


「子供に嫌われるのは思った以上に堪えるな……」


 子供に悲しい顔をされ、俊輔は思った以上にダメージを負っていた。

 そこに追ってきた京子たちが合流した。

 彼女たちは遠くから見ていたので、何があったのかよく分からない。

 そのため、俊輔に問いかけるが、何だか元気がない。

 別に感謝されたいと思っていた訳ではないが、せめて話くらい聞いて欲しかった。

 肩を落としながら、ちょっとの間俊輔はその場に立ち尽くしたのだった。



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