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第194話

「あれが魔人大陸か……」


「遠いわね……」


 人族大陸最西端の地にある岬にたどり着いた俊輔たち。

 その岬からは、確かに魔人大陸が霞んで見える。

 曇りの日であったなら確実に見えないであろうその距離を、俊輔と京子は遠い目をしながら眺める。


「「いく方法がない」」


「…………何か行く当てでもあるのかと思ったら、何もなかったとは……」


 近くの町に着いて分かったことだが、港にある客船はどこも魔人大陸に向かわないようだ。

 魔人との交易はどこの国もおこなっていない。

 そのため、魔人大陸へ向かう船が存在しないのは分かっていたことだ。

 なのに、まともに聞いて回っている俊輔と京子に、カルメラが呆れたような声で呟く。 


「どうしたものか……」


 見えているのに向かうことができないなんて、悩ましいところだ。

 遠くに見える魔人大陸を眺めながら、俊輔は渡るための方法を考え始めた。


「客船に頼るのが良くないんじゃないかな?」


「なるほど!」


 客船が堂々と交易のない所に向かって行くことはできない。

 宗教的なのか、元々魔人は呪われた人間だという考えがある。

 それにかかわるということは、呪いを人族大陸に持ち込むということだという考えを持っている者もいる。

 研究によって、魔人は人族と同じサルから生まれた、ただ肌の色が違うだけの人種でしかないということが公表されている。

 しかし、それを認めようとしない者も少なからずおり、なかなか魔人と交易をしようとする国が出てこないのが現状になっている。

 国としてかかわるのは不可能だとして、市民レベルでの関わりまで徹底して交易阻止をしているとは思えない。

 なので、京子が言ったように客船で行くということではなく、船は船でも漁船などならもしかしたら連れて行ってくれる者がいるかもしれない。


「そうと決まれば、行ってみよう!」


「うん!」「ピー!」


 可能性が見えたら動いてみるのが彼らのスタイル。

 客船が駄目なので、今度は漁船の船員に尋ねて回ることにした。






「見つかんないな……」


 俊輔たちは、漁船を持っている者を片っ端から尋ねていたのだが、結局誰からも良い答えをもらうことはできなかった。

 人族大陸最西端の港町であるコンシーマという町の宿屋に戻った俊輔たちは、上手くいかないことに頭を悩ませていた。


「何人か反応がおかしかったよね?」


「うん。たぶん密かに交易している人間なんじゃないかな……」


 漁船の持ち主の中には、俊輔たちの頼みに反応が遅れた人間が何人かいた。

 その反応を見ると、何のかかわりもないというようには思えない。

 そういった者は、たいして魚を取れていない割には、どういう訳だか羽振りがいいという特徴があった。

 恐らく何か、裏で何かおこなっているに違いない。


「殴って吐かせるか?」


「……馬鹿正直に魔人大陸に連れていけなんて言って、誰も連れていってくれるわけないだろ」


 その疑わしい奴らに対して、ちょっと過激な手を使おうかという考えが浮かんできたところで、1人どこかにいなくなっていたカルメラが、俊輔たちの所へ戻ってきた。


「……お前どこ行ってたんだ?」


 いなくなったので、もしかしたら俊輔たちと魔人大陸に行くのが馬鹿らしくなっていなくなったのかと思っていた。

 そもそも、何でついてきているのかがいまいち分からないため、いなくなっても別ん構わないのだが、いなくなるならいなくなると言って行ってもらいたいものだ。


「お前たちは本気で魔人大陸に行く気なのか?」


「そう言ってるだろ」


 カルメラは、俊輔たちの態度から本気だということが感じられないのだろうか。

 いまだにそんなことを聞かれて、俊輔はちょっとだけイラッとする。


「お前も良いのか?」


 質問に答えた俊輔をじっと見た後、カルメラは今度は京子に問いかけてきた。


「えぇ! 昔から俊ちゃんと一緒にいると飽きないもの」


 前世の記憶があることから、小さい頃からおかしな行動を取っていた俊輔。

 しかし、そんな俊輔と一緒にいると、自分や周りの常識というものが、大したことないもののように思えてくる。

 そんな俊輔についてくるうちに、自分も常識にとらわれず自由に生きていると思えてくる。

 なので、結婚してからは悩むようなことは特にない。

 今回も、俊輔と一緒に魔人大陸に行くのを楽しみにしている。

 そのため、京子はカルメラの問いにすんなり答えた。


「人族の国々のルールを破るんだぞ?」


 人族の国々には、魔人の国と関わることを忌避している所がある。

 それが暗黙のルールのような状態になっており、それを破ると国々の関係に微妙な亀裂ができたりする。

 なので、どの国も魔人の国との係わりには神経質になっている。

 中には、魔人国との係わりが露呈した者を捕えて、牢に閉じ込めるようなことを平気でするような国もある。

 そんなことになるかもしれないのに本気で行く気なのか、カルメラは聞いておきたかったのかもしれない。


「そんなの日向には届いていないわ!」


「俺のかみさんは肝が据わってるんだろ?」


 魔人大陸と遠く離れている日向には、他の人族国家とは違いそんな暗黙のルールは存在していない。

 なので、京子は全く気にしなかった。

 そんな京子に、近くにいた俊輔も感心したような声をあげる。


「……明日夜12時、西の港から闇に紛れて出発する船がある。我々も連れて行ってもらえるように手配してきた」


「マジで? お前スゲエな!」


 俊輔たちは全部断られたというのに、いなくなっている間に手配をしてきたカルメラに、俊輔はテンション高く反応した。


「蛇の道は蛇ってか?」


「そんな所だ」


 ベンガンサという裏の組織にいたカルメラ。

 その時のネットワークが、彼女にはまだあるようだ。

 方法はどうあれ、魔人大陸へ行く方法ができるようになったことに俊輔たちは喜んだのだった。



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