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第193話

「……ところで、どこへ向かっているのだ?」


 俊輔たちの旅に参加することになったカルメラ。

 幌を追いかけてきたのはいいが、彼らがどこへ向かおうとしているのか分からないでいた。

 どこだろうと付いて行くつもりではいたが、行き先がどこなのか知っておきたい。

 そのため、御者席に座って、自分の従魔であるアスルに指示を出している俊輔に尋ねることにした。


「西だ」


 カルメラの問いかけに、俊輔は短く答える。

 短いとは言っても、別にふざけて行っているつもりはない。

 俊輔たちは、真面目に西を目指して向かっていっている。


「……西に何かあるのか?」


 ただ、俊輔のその答えだけでは要領を得ない。

 なので、カルメラは次に京子に問いかける。


「さあ?」


 京子は行き先を俊輔に任せているため、カルメラに関心に応えることができない。

 そのため、ただ首を傾げることしかできない。


「……お前らは馬鹿なのか?」


 答える2人の態度に、カルメラは呆れたように問いかける。

 遠慮のないストレートな物言いだ。


「お前、ちょくちょく失礼な奴だな」


 思ったことは口に出す。

 カルメラはそういうタイプなのかもしれない。

 だが、その言葉は少々棘がある。


「この国の最西端からだと、魔人大陸が見えるんだろ?」


 ちょっとムッとしながら、俊輔は西へ向かおうとしている理由の一端を説明する。

 俊輔たちの旅行は、別に人族大陸だけだと区切っていない。

 行けることなら、魔人大陸や獣人大陸にも行ってみたいと思っている。


「魔人大陸を見に行くのか?」


「あぁ」


 行きたいとは言っても、今の所行く手段は考えていない。

 一応思いついてはいるが、まともな方法ではないので、今はまだ躊躇っている。

 取りあえず行くのは保留にし、俊輔はまずはどれほどの距離なのかとかを見てから考えたいと思う。


「お前は行ったことあるのか?」


「……ない」


 ベンガンサという組織にいたカルメラ。

 その組織の人間は、魔人族の血を引く者たちの集まりだった。

 血の濃さによって魔人族の子孫だとバレバレの者がいれば、よく肌の色を見てみないと分からない者たちまでいた。

 その組織のトップの妹であるカルメラも、魔人族の血を引いている者だ。

 日焼けによって紫がかった肌を誤魔化してはいるが、耳は日に焼くことが難しい。

 そのため、耳を見られればバレてしまうので、髪を伸ばして耳を隠している。

 なるべく人に見られるのは避ける所なのだが、京子同様の黒髪ロングは、男の目を引いてしまうだろう。

 一応魔人の血を引いているので、もしかしたらと尋ねると、カルメラは無表情に返事をした。


「私は生まれも育ちもこの大陸だ。兄者もベンガンサの者たちもそうだ」


 彼らは子供の時から差別を受けてきた。

 ただ魔人の血を引いているというだけのことでだ。


「ベンガンサは、奴隷として連れてこられた魔人が寄せ集まって出来、受け継がれて来たにすぎない」


 奴隷として連れて来られ、主となる者が何かの出来事で命を失い、それを機に逃げた者たちが集まることで資金を稼ぐことができるようになっていった。

 その子孫たちが、魔人大陸に足を踏み入れていないのは別に不思議なことではない。


「お前も行ってみたくないか?」


 行ったことがないのなら、行ってみたいと思わないだろうか。

 俊輔だったらそう思ってしまう。


「私は……どっち付かずだ」


 俊輔の誘いに、心が動かない訳でもない。

 しかし、自分は魔人の血を引きながらもこの大陸で生まれ育った。

 嫌な思い出ばかりが目には浮かぶが、それでもやはりこの大陸が自分の故郷だと思っている。

 体に流れる血という意味でも、気持ちの面でもカルメラはどっちとも言えないでいる。


「それに、魔人大陸の魔物はこの大陸より手強いと有名だ。行って、兄者に救われた命を落とすようなことはしたくない」


「手強いね……」


 魔人族が住む大陸はどこも魔素が強く、発生する魔物は強力なものが多い。

 そんな中を生き抜いている魔人族は、人族よりも数は少なくとも1人で数十~数百の人族を相手にできいると嘘か真か言われている。

 そんな魔人が命を落とすような魔物が出現する大陸で、俊輔たちも無事で済むか分からない。

 だから、カルメラは魔人大陸への渡航を止めてきたのだった。

 ただ、俊輔は納得していないような反応をする。


「その魔物たちはシモンより強いのかね?」


「兄者が苦戦するような魔物などそうそういない!」


 死んでしまっても、というより死んでしまたからこそ、カルメラの中のシモンはどんどんと強い者へと変化して行っている。

 たしかに、シモンはかなりの戦闘力の持ち主だった。

 しかし、彼でも勝てるか分からないような化け物はいる。

 それら魔物と戦ってきた俊輔には、そこまでの脅威にはならない。


「なら、俺はそのシモンより強いんだから行っても大丈夫だろ?」


「……ふん! 好きにしろ!」


 兄のシモンはカルメラの中では偶像になっていっているかもしれないが、俊輔が言ったことはたしかなことだ。

 魔剣によって、兄のシモンは死ぬことになった。

 そして、シモンを操った魔剣を破壊したのは俊輔だ。 

 さきほど大きく言った手前、カルメラは俊輔を否定することができない。

 否定すれば、兄のことも否定するように感じたからだ。

 どうやら止めても俊輔たちには無駄だと思い、カルメラは不機嫌そうにそっぽを向いた。


「ピ~……」


 余談だが、カルメラはネグロのことが気に入ったらしい。

 幌の中の椅子に座り、太腿の上に乗ったネグロを撫で始めると、それからはずっと撫でまわし続けていた。

 俊輔たちの前では無表情なことが多いが、ネグロを撫でている時の表情は僅かに緩んでいた。

 ただ、そろそろネグロを開放してあげてほしい。

 ネグロが撫でられることにいい加減飽きていて、可愛そうになってきたからだ。

 しかし、嬉しさを滲ませているカルメラのことを考えると、もう少しネグロに我慢してもらうことにした俊輔だった。



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