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第191話

「結局タダ働きになっちゃったね?」


 たまたま助けた貴族の少年の護衛に雇われ、最終的には魔剣に操られたその少年による国家の転覆計画に巻き込まれた俊輔たち。

 しかし、その魔剣も俊輔の手によって破壊され、事件は全て解決に至った。

 それによって、その貴族の少年であるイバンは、魔剣に生命力を吸収され命を落とすことになった。

 護衛の依頼をしてきたそのイバンが死んでしまったのでは、依頼料の請求をすることもできなくなってしまった。

 随分手間をかけられた割には、何も得ることができなかったため、京子は愚痴るように呟いた。

 現在俊輔たちは、事件の収拾が済むまでエルスール王国の王都クルポンに滞在している。

 昼食を取りに店に来ており、天気がいいので外の席に座っている。


「仕方ないだろ? 依頼者が死んじまったんだから……」


 依頼料を支払う者が亡くなった場合、その家族か親族の者が支払うという義務はない。

 公爵家という地位にある者だったために、依頼料の支払いが滞るとは思ってもいなかった。

 それに、今の公爵家には支払えるものがないだろう。


「ピ~……」


「ネグが気にする必要はないぞ」


 俊輔の従魔であるネグロは、イバンのかなり近くにいたこともあるため、その時リベラシオンの気配を何も感じられなかったことを反省していた。

 そんなことは俊輔でも出来なかったので、ネグロが気にする必要はない。

 落ち込んでいるネグロの頭を、俊輔は撫でてあげてなぐさめたのだった。


「これから公爵家はどうなるの?」


「ん~……、魔剣の所持は国も知っていた事だけど、その管理を怠ったということだろ。財産没収の上に公爵家は取り潰しってところかな? しかも、病に伏している現当主が背負うことになるなんてな……」


 タダ働きになる理由の一つはこれだ。

 俊輔たちに依頼したイバンの家族となると、セラルダ公爵家現当主のカルリトスになる。

 息子の尻拭いをさせられるなんて、カルリトスのことを思うと、とんでもなくかわいそうだ。

 財産も没収されているので、俊輔たちへ払う資金などもうないことだろう。


「俊輔殿!」


「フリオさん……」


 食事を終えて宿に戻ろうかと思っていたところへ、イバンの側近だったフリオが声をかけてきた。

 俊輔たちに用があったらしく、彼は促されるまま席に着いた。


「こんなことになって何と言って良いか……」


「いや、仕方がないですよ」


 公爵家に雇われてから数十年経っており、かなりの思い入れがあることだろう。

 それが結果的に公爵家の取り潰しという状況。

 かける言葉が見つからない。


「カルリトス様から俊輔殿たちへ、こちらを渡すように言われまして……」


 そういうと、フリオは懐から小さめの袋を取り出した。


「息子たちが世話をかけた礼だそうです」


「えっ!? こんなに!?」


 どうやら没収される前、フリオに渡しておいたらしい。

 その小袋の中には、金貨が詰まっていた。

 イバンに依頼された時の金額に、色を付けたくらいの額になっている。

 契約した分の半分でももらえれば御の字だったのだが、それ以上の金額を渡され、俊輔たちは何だか申し訳ない気持ちにすらなって来た。


「直接感謝の言葉を伝えたいところですが……」


「お気になさらず……」


 わざわざ見ず知らずの冒険者に、息子が依頼したからといってこれだけの額を支払うなんて、人が良いというかなんというか。

 礼を言いたいところだが、カルリトスはもう牢へと送られている。

 そのため、礼を言いたくても言える状況ではない。


「私がイバン様のことに気が付いていれば……」


「気付ける者なんていなかったと思いますよ」


 リベラシオンという魔剣を手にするまでは、本来持っている心の闇を利用されていた状態だった。

 誰でも持っている心の部分に気付ける人間なんて、人の心が読める人間でない限りあり得ないだろう。

 そういった心の闇に反応するリベラシオンのようなものでない限り、この事件を防ぐことなど最初から不可能だ。

 ネグロ同様に落ち込むフリオに、俊輔は慰めの言葉をかけた。


「これからどうするのですか?」


「こんな私でも声をかけてくれる貴族家の方がいらっしゃいます。そちらでご厄介になろうと」


 公爵家は取り潰しで、使用人や兵たちは主を失った状況になる。

 つまり、他の雇い主を探さなければならず、みんなバラバラになってしまうということになる。

 どこか雇ってくれるところがあるのかと心配していたが、どうやら取り越し苦労だったようだ。


「他は若いのが多いですから、引く手あまたでしょ」


「……それは良かった」


 みんな公爵家に雇われていた人間たちだ。

 他の貴族からしたら、信用できるという思いがあるのかもしれない。

 どうやらみんな次の就職先には心配がないようだ。


「……話し込んでしまいましたな」


 カルリトスから小袋を俊輔たちに渡すように言われて来ただけの所、思わず色々と話し込んでしまった。

 そう思ったフリオは、椅子から立ち上がった。


「皆さんはこれからどうするのですか?」


「そうですね…………この国の他の町を見て回るつもりです」


「そうね!」「ピ~!」


 フリオの問いに、少し考えた後、俊輔は答えを返す。

 俊輔と京子は、冒険者であり、旅行者だ。

 やることと言ったら、この国の観光が思いつく。

 王都では面倒ごとに巻き込まれてしまったが、この国の見どころはまだあるはずだ。

 そういう思いから、俊輔は答えたのだが、京子とネグロも同じ考えのようだ。


「そうですか。どうかよい旅を……」


 俊輔たちの話を聞き、その気楽さが羨ましく思いながら、フリオは軽く頭を下げつつそう言った。


「では……」


 そして、軽く手を振り、別れを告げると、そのまま町の中へと消えていった。

 俊輔たちはそれに返すように手を振り、フリオのことを見送ったのだった。




 数日後、セラルダ公爵家の当主、カルリトスが衆人環視のもと処刑された。

 国王暗殺未遂、魔人族の組織を使っての国家転覆計画、魔剣の管理不足。

 色々と罪状が言われていたが、カルリトスは反論をせずにそれを受け入れていた。

 全ては息子たちがおこなったことだというのに、そのようなことになるなんて、何とも後味の悪い出来事になった。







「じゃあ、行くか?」


「オー!」「ピー!」「…………!」


 俊輔の声に、京子、ネグロ、アスルは元気に手を上げて返事をする。

 いつものように旅に出ることにした俊輔たちは、アスルに引かせる幌に乗り込み、王都から西へ向けて移動することにしたのだった。



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