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第186話

遅くなってしまいました。申し訳ありません。

「真似できないとでも思ったのか?」


 魔闘術とは、魔力を纏って身体強化して闘う技術。

 纏っている魔力を、魔法を放つように性質変化することはそれほど難しくない。

 そのため、リベラシオンの反応には首を傾げるしかない。

 リベラシオン自身も、似たようなことをしているからだ。

 魔力とはなんとなく違うが、何かしらのオーラを纏って、そのオーラを闇の属性に変化させている。

 纏っている力が違うだけで、同じようなことができないと思う方が馬鹿としか言いようがない。


「おのれ……!!」


 魔闘術の魔力を、リベラシオンの弱点らしき聖の属性へと変化させて戦う。

 これまでは、ただ魔力を纏って戦っていただけの俊輔だった。

 だが、これならリベラシオンにはどんな攻撃も大ダメージになるはずだ。

 一手間加わるので魔力の消費量は増えるが、俊輔からしたらたいしたものではない。

 これまでのように、防御の心配なく戦うということはできなくなり、リベラシオンには活路がなくなった。

 本人もそれが分かっているのだろう。

 怒りで小刻みに震え始めた。


「んっ?」


「おのれぇぇ……!!」


 しかし、よく見てみたら、ただ怒りに震えているというだけではないようだ。

 少しずつだが、纏っている黒い鎧のような物が肥大しているように見える。


「負けてなるものか!!」


「っ!?」


 明らかに様子がおかしい。

 何が変わったのか分からずただ見ているだけだった俊輔だが、違和感を感じて鑑定術でリベラシオンを見てみた。

 すると、黒い物が鎧の中のイバンを浸食していっているようだ。

 まるで栄養をむさぼるかのように……


「そんなことをしたら……!?」


 リベラシオンの本体は魔剣だが、人間を利用することで好きに行動出来ている。

 現在イバンの体を使っているが、そのイバンを使い潰すような行為に、俊輔は意外な思いをしていた。

 折角長い封印された年月から解放されたというのに、これでは俊輔を倒せたとしてもイバンがもたないのではないだろうか。


「このっ!!」


 このまま浸食されていけば、イバンは確実に死んでしまう。

 操られていたとはいえ、若い命をこのままむざむざと奪われるわけにはいかない。

 俊輔は浸食するのを止めようと、リベラシオンに向かって斬りかかっていった。


「ハハハ……、無駄だ! こいつの体は完全に掌握した。もう解放することなんて不可能だ!」


 それに対して、リベラシオンは逃げ回るだけだ。

 邪魔されることは察していたのだろう。

 思惑通りに俊輔が迫ってくるが、逃げるだけならそう簡単に捕まらない。

 イバンの浸食によって、移動速度も少し早くなっているようだ。

 人間はいつの時代も、他人に対して無駄に感情を寄せる傾向がある。

 困っていれば助ける。

 そんなことがあたりまえだと思っている。

 魔剣の自分からしたら理解できないことだが、これは使える。

 昔、封印される前、何度となくこれで難を逃れた。

 今回もこれを利用させてもらうことにした。


「そうか……じゃあ、殺すしかないか……」


「なっ!?」


 他人の命のことを考えるなんて無駄なことだと考えるリベラシオンだったが、俊輔のこの言葉には驚いた。

 あまりにもあっさりとし過ぎだからだ。

 人間はこういう時、もう少し足掻くものだと理解していたからだ。


「何だ? 殺されないとでも思っていたのか?」


「くっ!?」


 もう少しイバンから栄養となる力を吸収したい。

 吸収できたとしても俊輔にはかなわないかもしれないが、逃げることぐらいはできるかもしれない。


「また同じようなことがあるといけないから、粉々にしてやるよ」


『クソッ!! まさかこんな奴がいるとは……』


 完全に予想外だった。

 封印から解かれることばかり重視していたため、俊輔の強さの分析が完全に甘かった。

 ゆっくりと迫り来る死の恐怖に、リベラシオンはようやく自分が置かれている状況を理解したようだ。


『っ!? ……あいつ』


 追い詰められて、リベラシオンはあることに気付く。

 そして、自分の力を僅かに飛ばし、確認をするとほくそ笑んだ。


「何だ……?」


 急に笑ったリベラシオンの考えが理解できず、俊輔は首を傾げる。

 何か自分に仕掛けてくるつもりなのかと、警戒心を高めた。


「兄者!!」


「っ!?」


 何か起こったのは、俊輔とは全く違う方向からだった。

 倒れていたシモンが、リベラシオンの黒いオーラに包み込まれようとしていた。

 怪我からか、シモンは抵抗をするが少しずつ覆われていく。


「くっ!? 逃げろ! カルメラ!」


「兄者!?」


 抵抗は無理だと悟ったのか、シモンは妹のカルメラを押して離れるように忠告した。

 自分の側にいれば、リベラシオンに何をされるか分からない。

 妹だけは守らなければと、最後の意地だったのかもしれない。

 押されたカルメラは、黒いオーラに包まれていく兄に涙を目に溜めながら届かない手を伸ばすことしかできなかった。


「離れろ!!」


 黒いオーラに包まれた兄を助けようと思ったのか、ヨロヨロとカルメラは黒いオーラに近付いていく。

 これ以上余計なことが増えるのは迷惑だ。

 そんな思いから、俊輔はカルメラの襟をつかんで離れた場所へと移動した。


「放せ!! 兄者が!!」


「お前まで飲み込まれるぞ!!」


「うるさい!!」


「シモンが救った命を捨てるのか!?」


「クッ!!」


 襟を放すと、カルメラはまたもシモンの所へ行こうとする。

 これでは救った意味がなくなる。

 こういう時は何を言っても無駄だと分かるが、動かれるのはかなり迷惑だ。

 シモンの名前を使わせてもらい、ちょっと臭いが台詞を言うと、ようやくカルメラは大人しくなった。


「……マジか?」


「ハハハハハ……素晴らしい!!」


 俊輔がカルメラとのやり取りをしている間に、いつの間にかリベラシオンはシモンの方に移動していた。

 そして、シモンの手に本体の魔剣が握られると、体中の水分が吸い取られたように干からびたイバンが横たわっていた。

 そんな状態でも、イバンは辛うじて生きているが、完全に虫の息だ。

 この状況では救うことなど不可能だろう。


「まさか波長の合う人間がこんな側にいるとはな……」


 どうやらリベラシオンは、イバンからシモンの体に乗り換えたようだ。

 シモンの体の感覚を確かめるリベラシオンは、その反応の良さに笑いが込み上げてくる。

 イバンの時とは比べられないほど力が、溢れてくるような感覚が感じられるからだ。


「こちらの人間の方が使い勝手がいいみたいだな……」


 イバンの時以上の万能感に、どこかウットリしているようにも見える表情で、リベラシオンは剣を俊輔に向けたのだった。



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