第185話
「ハーッ!!」
何故か自信満々になったリベラシオンは、またも俊輔へと襲い掛かった。
一直線に距離を詰め、俊輔へ突きを放つ。
直線的で単純ではあるが、かなりの速度だ。
「っと!?」
“バキッ!!”
普通の人間なら、目視する間もなく体を貫かれているだろうが、あいにく俊輔は普通ではない。
左手に持った小太刀の長さの木刀でリベラシオンの突きを弾き、右手の木刀でリベラシオンの腹部に反撃を加えた。
木刀が当たった腹部は、黒い魔力のような物で出来た鎧のような部分を削る。
しかし、それも一瞬。
リベラシオンは腹部をすぐさま元の戻し、またしても俊輔に襲い掛かる。
「ハッ! セイ!」
「とっ、おっ!?」
“バキッ!!”
袈裟斬り、斬り上げと放ってくるが、俊輔は躱し、防いでまたも木刀で頭部を叩く。
軽く飛ばされるが、リベラシオンは殴られた部分を修復してゆらりと立ち上がる。
「フフッ……」
一方的にやられているのに、リベラシオンは軽く笑いながらまたも俊輔に剣を向けた。
「……なるほど。さっきのはこういうことか?」
「どう言うことだ? 兄者」
俊輔とリベラシオンの戦いを、少し離れた場所で見ている魔人族のシモンは、先程の会話の糸を理解した。
その隣にいる妹のカルメラは、リベラシオンの言葉の意味が分からず、兄の言葉に反応した。
「奴の攻撃は当たらず、俊輔の攻撃が当たっている」
「うん!」
シモンは、妹のために分かりやすく順序立てて説明し始めた。
カルメラもしっかり聞き、相槌をうつ。
目の前の攻防はどう見ても俊輔有利に見える。
「しかし、奴はどんなに攻撃を受けてもすぐに直って襲いかかれる」
「うん!」
俊輔の攻撃で、一時鎧のような物は削れるが、すぐまた元に戻ってしまう。
つまりはダメージを与えていないとも同じだ。
「逆に、俊輔の方はまともに食らったら終わりだ」
「なるほど……」
攻撃を受けても全然平気なリベラシオン。
それに引きかえ、俊輔は攻撃を食らえば致命傷になる。
そうなると持久力勝負ということになってくるが、本体は剣であるリベラシオンが疲れるという感覚があるかも怪しい。
強さは化け物だが、俊輔は生身の人間。
そう考えれば俊輔の方が不利になる。
それが分かったため、リベラシオンは余裕を醸し出しているのだ。
それから何度か攻防を繰り返すが、ようやく流れが変わった。
「ハッ!!」
“バキッ!!”
これまでと同じように、リベラシオンの攻撃を俊輔が防いで反撃をする。
「ぐっ!? ハー!!」
俊輔の反撃が左の腕にぶつかるが、リベラシオンはそんなことはお構いなしに攻撃をしてきた。
当たったら儲けものと言ったような左薙ぎである。
「チッ!!」
その予想外の攻撃に、俊輔は一瞬避けるのが遅れた。
そのため、裂けきれずに右肩を少し斬られ、服に赤いシミがてきてしまった。
「フッ……、どうした? とうとう傷がついたぞ……」
そのシミを見て、リベラシオンは勝ち誇ったように話しかけてきた。
さきほどの攻防で、俊輔はリベラシオンの狙いが分かった。
「殴られても回復できる。なら、殴られながら攻撃すればいいって考えか……」
「その通りだ。これで私の方が上になったな……」
攻撃を避けようともせず、受けても反撃ができればいいと割り切った戦い方にリベラシオンは切り替えたようだ。
いくら俊輔でも、攻撃してすぐに反撃されれば、完全に躱したり防いだりできるとは言い切れない。
リベラシオンが自信を持ってしまっても仕方がないだろう。
「……そうかな?」
「強がりを……」
“ガンッ!!”
自信からなのか、リベラシオンは隙だらけだ。
恐らくは、攻撃を受けても反撃できればいいと思っているのだろう。
そんな隙だらけの状態のリベラシオンに向かって、今度は俊輔が攻めかかった。
「無駄だ!!」
リベラシオンが隙だらけにしたのは、わざとだ。
罠に引っかかった俊輔に、強力な1撃を加えようと剣に力を込めた。
そして、俊輔の攻撃が胴に入った瞬間、足に力を込めて攻撃の威力で飛ばされないように耐え、反撃をするべく袈裟斬りを放とうとした。
「むんっ!!」
「ゴアッ!?」
俊輔にリベラシオンの剣が降り下りる前に、胴に入った俊輔の木刀の先から魔法攻撃が放たれた。
それが直撃したリベラシオンは、これまでで一番大きな声をあげて吹き飛ばされていった。
そのまま、壊れた邸の柱にぶつかり、うつ伏せに倒れ伏す。
「やっぱり……」
「何を……」
これまでと違い、攻撃を受けたリベラシオンは胴の部分の鎧をごっそりと削られた状態で、ヨロヨロと立ち上がった。
そして、何故このような結果になったのかリベラシオンには理解できず、結果に納得している俊輔へ問いかけた。
「お前のその鎧は、どんな力か分からないが魔力と似たような物だろ? そして闇属性だ」
リベラシオンの使っている黒い鎧は、闇属性の魔力のような何かでイバンを包み込んでいるに過ぎない。
どんな力かは俊輔にも解析できていないが、魔力と考えて戦えばどうなるのか試してみることにした。
そして、予想通りの結果になったことに安堵した。
もしもこの攻撃が効かなかったら、その時はその時で考えがあったが、通用するとなった今は、だいぶ楽になった。
「闇の対極にある光属性の魔力をぶつければ良いと思っただけだ」
俊輔の言う通り、リベラシオンの本体である剣の部分を収納していた鞘には、高密度の光魔力が込められていた。
鞘は俊輔に見られていないはずなのに、このようなことになったリベラシオンは歯噛みした。
「だから何だ!! こんな物すぐに回復できる」!!
たしかに、俊輔の攻撃は鎧を大きく剥ぎ取ることができるかもしれないが、剥ぎ取られたなら回復すればいい。
そう思ったリベラシオンは、鎧の修復に力をこめる。
「ハァ、ハァ……」
「おぉ、すごいな。でも随分辛そうだな?」
ジワジワと鎧は直っていき、またも元の形に戻っていった。
しかし、これまでと違い、直る速度はかなり遅い。
そして、俊輔も言ったように、リベラシオンの方も疲労からか息が切れがちだ。
「黙れ!!」
弱点を見付けられたが、光魔力の魔法に気を付ければいいだけだ。
俊輔のさっきの魔法攻撃を考えると、離れて戦えば魔法を受ける可能性が高い。
ならば、勝機が見えた接近戦で殺すしかない。
そう思いつつも、リベラシオンは怒りに任せて襲い掛かった。
「ウガッ!? な、何故……?」
「魔力を光属性に変えるだけで良いんだ。纏っている魔力を変えるくらい簡単だよ」
襲い掛かったリベラシオンの攻撃を躱し、またも木刀で頭の部分を殴った。
すると、これまでと違い、頭の部分の鎧がほとんど削られ、覆っていたイバンの顔がむき出しの状態になった。
光魔法を受けてもいないのに強力なダメージを受け、リベラシオンはまたも疑問の声をあげた。
そして帰って来たのが、平然と言った俊輔の言葉だった。




