第184話
「ぐっ!?」
俊輔に木刀で殴られたリベラシオンは、数mほど吹き飛んで行った。
そして、空中で体を捻り、体勢を整えて着地した。
俊輔に殴られた箇所、黒い魔力で出来た鎧の一部が凹んでいた。
どうやら凹んだ分だけ魔力が霧散したようだ。
つまりは、たいして弱らせてはいないということだ。
「固いな……」
鎧を殴った木刀を持つ右手を軽く左右に振りながら、俊輔は殴った感触の感想を述べた。
バットで芯を外してボールを打った時の感触に似ている。
手を振ったことで、軽くビリビリとした手はすぐに回復した。
「おのれっ!!」
殴られた頭部を左右に振ると、リベラシオンの凹んだ場所はすぐに元に戻った。
俊輔の武器と防御力はかなり高いようだ。
ならばと、リベラシオンは魔力を溜めた左手で床に手をついた。
“ズガガガッ……!!”
リベラシオンのついた左手から魔法が発動され、床から土塊の棘が次々と生え出てきた。
この棘で俊輔の体を突き刺して仕留めるつもりなのだろうが、
「ヘタクソッ!」
俊輔が左足で床を踏むだけで、棘の出現が停止した。
足から魔力の波を放つことによって、土塊の棘が発動する魔力を霧散させたのだ。
魔力を使って攻撃する無属性の魔法だ。
「なっ!?」
「足から魔法を出しただと!?」
先程、なんの気なしにおこなった俊輔の魔法に、リベラシオンだけでなく、離れた場所で見ているシモンも驚きの声をあげた。
「えっ? 驚くことか?」
2人の反応に、俊輔は首を傾げた。
木刀の先から魔法を放てるし、そもそも魔闘術で全身に魔力を纏っている。
足の魔力をそのまま放出させる事ぐらい、思いつけばそんなに難しい技ではない。
色々な場所から魔法を放てれば、体勢関係なく魔法を放てるということだ。
それはそのまま防御としても活用できる。
足から魔法を出すくらいできないと、咄嗟にガードしなければならない時に、間に合わなくなるかもしれない。
「チッ!」
イバンを通して魔法が使えるとは分かっていたが、魔法での戦いは俊輔の方が上のようだ。
それでももう少し通用するかと思ったが、時間の無駄だろう。
そう思うと、リベラシオンは舌打ちをする。
しかし、元々魔剣であるリベラシオンの長所は剣術だ。
魔法勝負はやめ、地を蹴り俊輔へと迫った。
「雷斬!!」
「おわっ!?」
接近してきたリベラシオンが、これまで通りの剣を振って来たと思ったが、声をあげると共に剣速が急に上がった。
速くなったが、剣自体はこれまで通り小太刀の木刀で防いだ。
しかし、剣に纏った電気の方はそうはいかなかった。
攻撃を防いだ小太刀を伝って、電気が俊輔の体へと流れていった。
小太刀を持った左手の魔力を咄嗟に上げ、電気を防ごうと反応するが間に合わない。
電気が俊輔に流れ、一瞬ビリっとして動きが鈍る。
「連斬り!!」
その一瞬を逃さず、リベラシオンは俊輔を切り刻みにかかる。
上下左右からの連撃に、斬ったと同時に焼くためか、剣に炎を纏っている。
「ぐおっ!?」
炎を纏った剣が迫り、俊輔は全身に纏う魔力を増やした。
そうすることによって、体の硬直を無理やり解き、リベラシオンの攻撃を躱そうと一歩後退する。
服が僅かに切れて焼けるが、その後退によって、俊輔は何とか怪我をせずに済んだ。
「ムンッ!!」
連撃の打ち終わりで体が流れたリベラシオンへ、俊輔は反撃に出た。
下がった一歩をまた詰め寄り、左足を踏み込むと共に木刀を上段から振り下ろした。
「振りがでかい。やはり剣……ゴハッ!?」
リベライオンが言うように、俊輔のこの攻撃はモーションが大きかった。
しかし、俊輔の攻撃はリベラシオンの意識を木刀に向けることだった。
俊輔の攻撃を止めることに成功したリベラシオンは、何か言おうとしていたようだが、途中で途切れることになった。
リベラシオンの足下から土塊の棘が出て、そのまま腹へとぶつかったためだ。
「何か言ってたみたいだけど、さっき見せたばかりの技を食らうなよ。しかも自分と同じ魔法を……プッ!」
あまりにも上手く行ったため、俊輔は戦いの最中でありながら、思わず笑ってしまった。
俊輔の攻撃の本命は、リベラシオンの足下から出た土の棘の方だ。
さっきも見せた通り、踏み込んだ左足から魔法を出したのだ。
黒い鎧が強固だからか、棘の先が突き刺さらずに砕けてしまったが、無防備に食らったため鎧の方も凹ませた。
「フ~……、なるほど、見事な攻撃だ」
「……あれっ?」
これまでは、馬鹿にすれば分かりやすく逆上していたリベラシオンだったが、何故か落ち着いた反応が返って来た。
何が原因なのか分からないが、その反応を想定していなかった俊輔は首を傾げた。
凹んでいた鎧の方もすぐに元に戻っていく。
「分かったか?」
「……何が?」
余裕があるような感じで上からいって来るリベラシオン。
その問いの意味が分からず、俊輔は質問で返した。
「確かにお前の剣撃と魔法を合わせた攻撃は俺に当たる。しかし、お前の攻撃ではこの鎧を破壊することはできない」
「…………でっ?」
たしかに、俊輔の攻撃によってリベラシオンの黒い鎧は凹むことはあってもすぐ直り、壊れる様子はない。
そこまでは分かっているので、俊輔は話の続きを促した。
「つまりは、貴様は俺に勝てない」
「何でそうなるんだ? 俺の攻撃がその鎧を破壊できないとしても、お前の攻撃も当たってないだろ?」
自信満々に言うが、全然答えになっていない。
馬鹿に馬鹿にされている感じがして、ちょっと不快だ。
俊輔の言う通り、リベラシオンは発動の瞬間が分からないタイミングで剣に付与をおこなうようになってきた。
それによって傷を負ったわけではないが、僅かに行動を阻害されたり、服を切り焼かれたりされた。
ギリギリなだけで当ててもいないのに、何でリベラシオンが余裕を持てるのか俊輔には分からなかった。
「それはすぐに分かるさ……」
俊輔の疑問に対し、リベラシオンは含みを持たせた言葉と共に俊輔へ剣を構えたのだった。




