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第182話

「次は貴様だ。邪魔なガキめ……」


 シモンを倒したことで、リベラシオンは冷静さを取り戻してしまったようだ。

 俊輔に対して剣を向け、さっきまで荒ぶるように全身を包み込んでいた黒い魔力が、少しずつ澱みが無くなってきた。


「……その体の持ち主は俺より年下だぞ?」


 魔剣であるリベラシオンが操っているのは、イバンという名の14歳の少年。

 俊輔はとっくに成人して妻がいる身だ。

 明らかな年下にガキ呼ばわりされて、俊輔は立腹したようにツッコミを入れる。


「いちいち揚げ足とりやがって!」


 当然それも態とだ。

 イバンを操ることで手に入れた人間としての感情を、まだコントロールできていないのか、俊輔のからかいにまんまと引っ掛かり、リベラシオンはまた怒りをあらわにした。


「死ね!!」


「……っ!?」


 憤慨しながら、リベラシオンは俊輔に斬りかかる。

 それに対し、俊輔は横に飛んで回避する。


「逃がすか!!」


「おっ?」


 躱されても体勢を崩すことなく、リベラシオンはそのまま俊輔を追って床を蹴る。

 リベラシオンの移動速度が上がっているのか、俊輔に追いつき、突きを放ってきた。

 その攻撃を、俊輔は小太刀で受け流す。

 それでもリベラシオンは体勢をあまり崩さない。


『……シモンの奴のせいで体に馴染んでしまったかな?』


 最初に俊輔と戦った時より、リベラシオンの動きがスムーズになってきているように思える。

 そのせいか、動く速度も上がってきている。

 最初の頃は、早いといってもどことなく操られている感じがしていたが、今ではそれが消えてきている。

 リベラシオンがイバンの肉体を掌握しつつあるのかもしれない。

 シモンに無駄だと分からせるようなことをせず、早々に倒しておいた方が、面倒にはならなかったかもしれない。

 俊輔は内心で少し後悔した。


「ヌンッ!」


「おわっ!?」


 俊輔が退きながらリベラシオンの剣を躱したり、受け止めたりしていたら、左手を開いて突き出してきた。

 何かと思ったら、その左手から魔力弾が発射された。

 いきなりだったので驚いたが、咄嗟に跳び上がりそれを躱す。

 元々使えたのかは分からないが、今のことから、リベラシオンはとうとう魔法まで使うようになったようだ。


「どうした? かかってこい!」


「…………………」


 逃げ回る俊輔に、気を良くしたリベラシオンは挑発をしてきた。

 当然俊輔はそんな安い挑発には乗らない。

 飛んで来る魔力の球を躱し続ける。


「いつまで続くかな?」


 そういったリベラシオンは、発射する魔力球の数を増やした。

 この魔力はイバンの物なのか。

 それとも魔剣であるリベラシオンの物なのか。

 そんなことを考えながらも、俊輔はただ無言で回避に専念する。


「避けるだけじゃ勝てないぜ?」


 自分の攻撃に近付くことができなくて、俊輔が何もできないでいるのだとリベラシオンはと思った。

 なので、意趣返しのつもりなのだろうか、リベラシオンは攻撃をしながら馬鹿にしたように話しかける。


「…………そろそろ大丈夫かな?」


「……?」


 俊輔の呟きに、リベラシオンの攻撃の手が止まった。

 自分に何か攻撃をしたのかと思い周囲に気を配るが、全く何も感じない。

 なので、リベラシオンは首を傾げた。


「これだけの時間がかかれば、京子とネグがある程度の距離まで離れられたと思ってさ……」


「…………何?」


 俊輔が手も出さずに攻撃を回避していたのは、ただ攻撃手段がなかったからではない。

 力を出して京子とネグロが巻き添えを食わないように、相当な距離離れるのを待っていたからだ。


「これで心置きなく戦えるわ」


 そういうと、俊輔は魔闘術の魔力を増大させて笑みを浮かべた。


「……おのれ!! またしても侮辱しおって!!」


 自分がこれまで本気で相手されていなかったことに、自称神様は憤怒の表情へと変わった。


「神様にしては随分沸点の低いものだな……」


「ガァー!!」


 またも馬鹿にするように俊輔が呟くと、まさに堪忍袋の緒が切れたようにリベラシオンは斬りかかって来た。

 怒りでまた我を忘れたのか、真っすぐでとても読みやすい攻撃だ。


「ホイッ!」


「ぐっ!?」


 上段から振り下ろしてきたリベラシオンの攻撃を躱し、俊輔は隙のできた横っ腹へ前蹴りを食らわす。

 直撃したリベラシオンは小さく呻いた。


「くそがっ!!」


 あまりにもこっちの都合よく、簡単に腹を立ててくれる。

 そんな状態の攻撃では、俊輔に通用する訳がない。

 目の前で床に消えるように沈んで行ったが、無駄なことだ。


「影移動なんて効かねえよ!」


「がっ!?」


 床へ消えたと思ったリベラシオンは、いつの間にか俊輔の後ろに現れた。

 声も音も立てずに、そのままリベラシオンは俊輔に斬りかかろうとする。

 だが、この技を使いこなせるのは俊輔も一緒。

 この技は目の前で消えるようなことはせず、気付かれないように離れた所から対象者の蔭へ移動して暗殺する方が効果が高い。

 対象者が同じ技を使えたら、背後へ来るのが分かり切っている。

 なので、俊輔は振り返る動作を利用して、木刀で遠心力の付いた薙ぎを放った。

 俊輔の攻撃はクリーンヒットし、アバラが折れる音と共にとんだリベラシオンは、そのまま壁へと叩きつけられた。


「グハッ!! お、おのれ~……!!」


「人間の体を操ると言っても、まだまだ完ぺきではないな……」


 壁からズリ落ちて座り込むリベラシオンは、血を吐いて、また怒りの目を俊輔に向ける。

 慣れて動きも早くなってきてはいるが、所詮感情に任せた攻撃しかできないようでは、捌くのは簡単だ。

 こんなことなら、別に京子たちのことを気にせず戦っても大丈夫だっただろう。

 さっさと倒してしまおうと、俊輔は止めを刺しにリベラシオンへ近付いて行った。


「…………フフッ」


「……?」


 気でも触れたのか、リベラシオンは急に笑い出した。

 何がおかしいのか分からず、俊輔は近付きながら首を傾げた。


「確かにそうだ。だが、それもこれまでだ!!」


「っ!?」


 言い終わると共に、リベラシオンの魔剣部分から禍々しいオーラが噴出した。

 嫌な予感がした俊輔は近付くのをやめ、後方へとステップをする。

 どんどん膨れ上がる魔剣のオーラは、イバンの全身を包み込んで行った。



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