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第175話

「っ!?」


 遠くから視力を強化し、遠視で敵の本拠地を眺めていた京子だったが、邸に反応があった。

 俊輔と京子が相手にしたベンガンサの一員が、何人も扉を開けて外に出てきた。

 イバンを連れてきた手足にだけ防具をつけた男を先頭に、かなりの人数だ。

 それだけで嫌な予感がしたのだが、逃走か監視の継続かを京子は悩んでしまった。

 その悩んだ時間がもったいなかった。

 次の瞬間、京子は先頭に立つ男と目が合った気がした。


「まずいっ!?」


 男は確実に自分の位置を把握している。

 俊輔と共に行動をするようになって、自分は気配を消すことも上達していると思う。

 それに、あの男からは探知術をしている気配は感じ取れなかった。

 俊輔にも無茶を素しないように言われていたのだし、男の目に嫌な予感がした京子は少しずつ後退し、逃走を開始しようとした。

 しかし、その瞬間、男らは明らかに京子めがけて向かって来た。

 しかもかなりの速度だ。

 逃走を開始した京子だったが、先頭の男はとんでもなく早い。


『速い! 追いつかれる!?』


 京子と同等、否、僅かに京子よりも早いかもしれない。

 じわじわと追いついてくる男に、スピード自慢の京子はかなりの焦りを覚えた。


『違う! 無理やり速さを上げている!?』


 よく先頭の男を見ると、多めの魔力が足に集められている。

 男の狙いは京子の速度を落とすこと。

 少しでも遅らせれば仲間の連中が追い付く。

 そうなれば、京子が逃げるきることなど難しいだろう。


“ガキンッ!!”


「くっ!?」


 足に魔力を多く集めている分、攻撃力は若干弱まっている。

 その男、シモンは、イバンから奪った片刃の剣を思いっきり振り下ろしてきた。 

 その思い切りの良さが、京子に回避ではなく受け止めるという選択をさせた。

 少しでも足を止めてしまえば追いつかれてしまう状態だったのにもかかわらず、京子はシモンの圧力に選択を誤ったことを後悔した。


「お前には悪いが、俊輔を捕まえる人質になって貰うぞ!」


「なにっ!?」


 京子に剣を受け止められ、シモンはそのまま鍔迫り合いに持ち込む。

 それをいなし、逃走を継続しようとした京子だったが、もうすでに遅かった。

 シモンからしたら、わざわざ鍔迫り合いに持ち込むだけで十分時間が稼げた。


「チッ!」


 京子は思わず舌打をした。

 鍔迫り合いから逃れた時には、もう敵の集団に囲まれていたからだ。

 抜け出そうにも隙間が見当たらない。


「前の時のようにこの包囲網から抜け出せると思わないことね」


「あんたは……」


 シモンの隣に建つ女にいわれ、京子は更にイラ立った。

 京子が倒した女集団の中にいて、女性陣の中で一番最後に倒した女だ。

 一度やられたのにもかかわらず、懲りずにまた向かって来る姿勢は好ましいが、今はお呼び出ない。


「諦めなさい! あなたでは兄者に勝てない」


「……兄者? 兄妹……?」


 自信満々に言って来る女に、隣の男との関係性に気付いた。


「その通り。カルメラの言う通り、諦めて抵抗しなければ大きな怪我はさせない」


「……フフッ、生憎、諦めが悪いのが私の長所なのよ」


 死んだと言われても諦めなかった。

 だからこそ俊輔に会うことができ、結婚できたのだ。

 いつも自分がピンチな時には俊輔が来てくれる。

 根拠はない。

 だが、これには何故か絶対の自信がある。


「殺さない程度に痛めつけろ」


 シモンの命令を受け、頷いた敵たちが動き出した。

 京子の周りをゆっくりと回り始めた。


「くっ!?」


 その動きには、僅かにフェイントも散りばめられており、京子に焦りを生ませる。

 動いてもいないのに、京子の額には汗が流れる。


「このっ!!」


 焦りからか、京子は自分から動いてしまった。

 一ヵ所だけでも囲いを崩せれば、逃げられる可能性が出る。

 そんな思いも相まって、背後の敵めがけ、力任せに木刀で斬りかかった。


“ガッ!!”


「っ!?」


 斬りかかった男とその隣にいた男は、京子の攻撃に反応して、2人で受け止めた。

 どんなに攻撃力があろうとも、2人でなら京子の攻撃は止められる。

 そんな風に邸についてからのこの短い時間で女性陣から聞いていたのだろうか、予想通りといわんばかりの顔をしている。


“ドカッ!!”


「ぐっ!?」


 様相外の方法で攻撃を止められた京子が一瞬戸惑った隙に、京子の脇腹へ向かって横から女が蹴りを放ってきた。

 まるで止めるのが分かっていたような攻撃に、京子の自慢の速度でも躱せることができず、見事に食らってしまった。


「一点突破か?」


「っ!?」


“キンッ!”


 狙いが当てられ、攻撃を受けてしまった京子の懐に、シモンが入り込んできた。

 そのまま懐に入ったシモンが放ってきた斬り上げを、京子は慌てて木刀で防ごうとする。

 しかし、シモンの狙いは不十分な体制の武器だった。

 下から態と木刀を打ち、木刀を持つ京子の両手を跳ね上げる。


“ドカッ!!”


「ぐっ!?」


 がら空きになった京子の腹目がけ、シモンは思いっきり左ボディーブローを打ちつけた。

 これにはどうやっても防げるものではない。

 綺麗に入ったボディーブローによって、京子はそのまま気を失ってしまった。


「…………あぶねえ女だ」


 気を失わせたシモンは、京子の行動に冷や汗を流した。

 腹を殴られるのが防げないと悟ったのか、打たれてもせめて相打ちをと、跳ね上げられた木刀を振り下ろして、シモンの右肩を打ちつけていた。

 そんな判断を、あの状況でしてきたことに、京子への恐ろしさが湧いてきた。

 本来は、もしかしたら京子とシモンの間には大きな差はないかもしれない。

 京子の攻撃で鎖骨が折れ、右手をぶらつかせたシモンは、京子をカルメラに任せて邸へと戻っていったのだった。

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