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第172話

「…………すごい圧力だ」


 鎧の内部に充満するシモンの強力な魔力に、俊輔の頬に一筋の汗がつたう。

 シモンが制御しているのか、鎧内部に魔力を圧縮する何か仕組みでもあるのだろうか、まともな人間なら触れた瞬間再起不能にできるだろう。


「随分冷静だな……」


 大抵の人間は、この状態の自分を見たらどうにか逃げようと思うのが普通だ。

 ところが、目の前の少年は逃げるどころか戦う気力が全く落ちる気配がない。


「魔人の血はそれだけすごいのか?」


 俊輔と京子が相手にした者たちもかなりの魔力量をしていたように思えるが、シモンは桁が違うようだ。

 もしかして、魔人族の血が濃いのだろうか。

 となると、純粋な魔人族はもっとすごい可能性がある。


「俺は特別だ!」


「っ!?」


 問いに答えたシモンは、気が付けば俊輔の背後に回っていた。

 俊輔が振り返った時には、もうシモンがランスで薙ぎ払いをしていた。


「ぐっ!?」


 それに反応した俊輔は、両手の武器をクロスして防ぎ直撃を回避する。

 しかし、防いだはいいが強烈な威力は抑えきれず、そのまま吹き飛ばされた。

 そしてそのままパーティー会場の壁に背中を打ちつけ、ようやく止まることができた。


「イタタ……」


“ブンッ!!”


「っ!?」


 打ちつけた痛みに背中を撫でていた俊輔が、先程までシモンがいた方向に目を向ける。

 その時には、もう目の間にシモンのランスの先が迫っていた。

 慌てて首を捻り、攻撃を躱す俊輔。

 そのままシモンの攻撃が壁に穴を開けている間に、床を蹴って距離を取る。


「重そうな鎧にもかかわらずとんでもなく早いな」


 先程の攻撃を躱したは躱したが、俊輔の左頬には一本の赤い線ができていた。

 どうやら掠っていたらしく、その線からは血が流れてきた。


「攻撃時のランスの回転……それが起こす風の刃ってところか?」


 危なかったとはいえ、攻撃はちゃんと躱したはず。

 それなのにもかかわらず傷を負ったことで、先程の攻撃の分析をした。


「…………良い目と反射神経をしているな」


 シモンの反応を見ると、どうやら俊輔の読みが正解したらしい。

 正解したからか、シモンの警戒が増して意識を更に集中したように思える。


「武器もすげえな。そんな威力を出す攻撃をしても壊れないなんて」


 綺麗に穴の開いた壁を指さし、自分が直撃した時の結果が見えた気がする。

 ミスリル素材で持ち主ですら魔力が纏えないランスで強力な攻撃を放ったのに、全く傷がついていない。

 そこまで強固な武器だとは思わなかった。


「……なんかそのランスと鎧、気に入らねえな」


 無人島の魔の領域に流された時、下層で同じくミスリル階層に入った時のことを思い出す。

 魔法が使えず、何度も死にかけた記憶ばかりだ。

 そう思うと、ミスリルという物に不快感が沸き上がって来た。


「ぶっ壊したろか?」


「フッ! 壊されるようなら素直に負けを認めるてやるよ」


 シモンはこの武器の強度にはかなりの自信がある。

 壊すなんて持ち主のシモンですら不可能だ。

 もしも、壊せるとしたら強力な龍種くらいのものだろう。

 それを壊そうなんて言い放つ俊輔が滑稽に思え、シモンは思わず笑みが出てしまった。


「だらっ!!」


 シモンのその笑みを浮かべた瞬間、俊輔は床を蹴っていた。

 そして右手に持つ木刀に魔力を集め、思いっきり振り下ろした。


「フッ! 無駄だ!」


 たしかに強力な威力の攻撃だが、大振りすぎる。

 シモンは口角を片方上げ、ランスを振って木刀の攻撃を難なく捌いた。


「ガッ!?」


 俊輔が大振りをしたことで、脇が空いた。

 そこを狙い、シモンは握った左拳を放つ。

 その攻撃を左手に持つ小太刀の長さの木刀で防ぐが、威力を殺しきれずに一瞬息が止まるようなダメージが入る。


「調子に……」


 痛みにイラッと来た俊輔は、木刀の先から魔法で近距離爆撃を食らわしてやろうと思ってしまう。

 しかし、すぐにシモンの武器と鎧の性能のことを思い出し、魔力の無駄になるだけだと魔法を咄嗟に中止する。


「ハッ!!」


「ぐっ!?」


 その僅かにできた隙をシモンは逃さない。

 小太刀で防いだとはいえ、ボディーブローの威力で体を浮かされた状態の俊輔の左腕へ、シモンの回し蹴りがクリーンヒットする。


「うっ!? がっ!?」


 蹴り飛ばされた俊輔は、2度ほど床を弾んでから体勢を整えて着地する。

 左腕の骨にヒビが入ったらしく、痛みですぐに上がらない。


「ぐぅ……!?」


「……………………」


「っ!?」


 俊輔が痛みに歯噛みしていると、これまでで最速の速度でシモンが迫った。 

 よりにもよって、防御担当の左手をやられ、隙だらけになった左側からだった。


「終わりだ!」


 これまで全力で戦うことなど極まれな上に、大抵逃げる敵をあっさり仕留めるだけしか経験がなかった。

 初めてに近い全力の戦闘に慣れてきたのか、時間が掛かるごとに少しずつ速度が上がってきた。

 今後もうあり得ないかもしれない全力速度の全力攻撃。

 それを出せるまで持ちこたえてくれた俊輔に感謝の気持ちも込め、引き絞ったランスを思いっきり前方に突き出したのだった。


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