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第169話

“バッ!!”


 京子が敵の女たちを倒し終える少し前、俊輔は残り一人になった敵と対峙していた。

 長と呼ばれていた男は、それまで羽織っていた上着を脱ぎ棄て、手甲に短剣が付いた特殊な武器を両手に装着していた。


「……逃げないのか?」


 長と呼ばれていた男が纏う雰囲気は、これまで戦った組織の中でも異質に感じる。

 とはいっても、これだけの数の敵を倒した俊輔の実力を見ても、やる気満々と言った感じなのには苦笑するしかなかった。

 殺害対象がこの場にはもういなくなっている上に、仲間がやられたのだから逃走を計ると俊輔は思っていたのだが、そうではないようだ。


「まぁ、逃がすつもりはないけどな……」


 相手が今にも飛び掛かってきそうな様子なので、俊輔は挑発するように武器を構えた。 


「……そんな口を利かれたのは久しぶりだ」


「やっと喋ったか……」


 挑発が効いたのか、これまで戦った他の敵たちが会話などして来なかったのに、この男が話しかけてきたことが意外に感じた。

 単純に戦闘狂なのだろうか。

 男は僅かに笑みを浮かべると、脚に纏う魔力を膨らませた。


“バッ!!”


「っ!?」


 膨らませた魔力を弾けさせるように地を蹴ると、男は高速で俊輔の右目を目掛けて左の剣を突き出してきた。

 想像以上の速度に、俊輔は頭を左に倒しすんでの所で回避する。


「っ!?」


 しかし、男の攻撃はそれだけではなかった。

 躱されるの見越していたのか、俊輔の動く頭を目掛けて左からハイキックが迫っていた。


“ガッ!!”


 俊輔はそのハイキックを防ごうと左手の木刀(小太刀)を上げる。

 しかし、男は防がれるのは構わないと言わんばかりに、木刀ごと思いっきり蹴り抜いた。


「っと……!」


 攻撃はかなりの威力だったらしく、俊輔は防いだ体制のまま軽く体を浮かされた。

 浮いた足が地に着くと、軽く後退った。


「ハッ!!」


 後退り少しバランスを崩した俊輔を追いかけるように、男は拳を突き出すように両手の短剣を連打してきた。


「クッ!?」


 敵の得物は脇差ほどの長さ。

 剣が短い分小回りが利き、かなりの数の攻撃に俊輔は両手の木刀で防戦一方になる。


「っ!?」


 男が俊輔の首を斬り飛ばそうと、挟み込むように振って来た。

 俊輔は左右からくる剣を両手の木刀で防ぐ。


「っわ!?」


 お互い手が塞がった状態の中、男が真下から顎を目掛けて蹴り上げてきた。

 横の攻撃で目を左右に意識させてから、下からの攻撃で俊輔は慌てて上半身を仰け反らせて躱す。


「ハッ!!」


 躱したのは良かったが、男は振り上げた足をそのまま振り下ろし踵を落としてきた。


「危ねっ!?」


 防げる体勢ではないので、俊輔はバックステップで躱すと同時に距離を取る。


「ヌンッ!!」


 それを追いかけるように、男は短いタメの後、魔力の斬撃を放ってきた。


「くらうか……よっ!!」


 俊輔も子供の頃から出来た芸当なので驚きはしない。

 対処の仕方も想定している。

 俊輔はベタに、飛んできた魔力の斬撃に同等の威力の斬撃を放ち攻撃を相殺する。


「っ!? 後ろっ!?」


 俊輔が斬撃に目を向けている間に、男は気配を殺すように姿を消し、俊輔の探知に反応した時には背後に回っていた。


「遅い!!」


 探知した俊輔が背後に振り向こうとしている間に、男は溜め込んだ魔力を両手から放出して、強力な魔力弾を至近距離からぶっ放してきた。


「ぐっ!?」


 振り返った時にはもう躱す間もなく、俊輔は木刀を交差させて受け止める。

 しかし、攻撃を抑え込むには至近距離すぎ、ジワジワと後退させられた。


「ハッ!!」


“ボンッ!!”


 男がさらに追い打ちをかけて魔力を上乗せすると、抑え込んでいた魔力が爆発し、俊輔は吹き飛ばされた。


「イテテテ……」


 吹き飛ばされながらも体勢を立て直した俊輔が着地すると、服の袖が焦げ落ちた。


「……ったく、いい加減ムカついてきたな……」


 服だけでなく体の数か所にも火傷を負い、俊輔は苛ついてきた。

 敵の男は武術と剣術を合わせた戦闘スタイルが得意なのだろう。

 昔の京子に近いかもしれない。

 俊輔の動く先を読んで攻撃をしてくるところを見ると、相当な修羅場を経験して来たのだろう。


「お前なら手加減しなくても死なないだろ……」


「……まるでまだ本気ではない言いようだな?」


 男からしたら手加減をされるなど経験のない事だ。

 俊輔の言葉をハッタリに思いながら、油断なく武器を構えている。


「本気? 魔人とは言っても魔力が多めなだけの人間だろ?」


「…………」


 魔人は確かに魔力が多いだけで肌の色が違うだけの人族。

 しかし、ペラ・モンターナ大陸の人間でその考えを持っている者は少ない。

 魔人の血を引く自分たちですら、純粋な魔人を区別する思いがある気がする。

 なのにも拘らず、目の前の少年には人族も魔人族も関係ないような口ぶりをしている。

 そんな人間に久しぶりに会ったせいか、男は無言で俊輔を見つめ、言葉の続きを待った。


人間相手程度(・・・・・・)に本気を出す訳ないだろ?」


「っ!?」


 言葉など待たず、攻めるべきだったと男は後悔した。

 言い終わると同時に、俊輔が纏っている魔力の濃度が増したように感じた。

 その無言の圧力に、男の額には冷たい汗が流れた。


「……行くぞ!?」


「っ!?」


 俊輔が呟くと、男の目から一瞬にして消え失せた。

 男は慌てて周囲を見渡すが、影も形も視界に全く入って来ない。


「…………!?」


 次に視界に入ったと思ったら、俊輔の足の裏が顔の真横に迫っていた。


「ぶっ!?」


 反射的に顔をそちらに向けてしまったため、俊輔の飛び蹴りが顔面にクリーンヒットした。

 鼻の骨がへし折られ、男は床に数度跳ねて転がっていった。


「グッ!? グゥ……」


 強烈な痛みとダメージにふらつきながらも、男は追い打ちに備えて必死に立ち上がる。

 部下たちとの戦いを見ている限り、自分が勝てる可能性は低いと思っていたが、ここまででたらめな実力差があるとは想定していなかった。

 男は何とか立ち上がるが、次の攻撃に対応できる状態ではない。


「終わりだ!!」


 それが分かっている俊輔はトドメとばかりに男に迫り木刀を振り上げた。


 しかし、その時……


“ズガンッ!!”


「がっ!?」


 男に止めを刺そうとしていた俊輔の横から、壁を破壊しながら超高速で突如何かが飛来してきた。

 その物体がぶつかると、俊輔は猛烈な勢いで吹き飛び、壁にぶつかってようやく止まった。




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