第167話
京子側と俊輔側の戦いに行ったり来たりしています。今回は京子側です。
“ガラガラッ!!”
まるで押しつぶすかのように、左側の壁の瓦礫が京子に降り注いだ。
速度自慢の京子でも、壁が壊れることが直前に分かっていなければ回避は不可能だっただろう。
「くっ!?」
壁側の方に体を向けていた京子は、超反応と言うべき速度で慌てて左に地を蹴り、崩れてくる瓦礫を躱した。
「っ!?」
壁を壊し、京子を瓦礫で生き埋めにしようとした筋肉女は驚いた。
ガタイが良い自分の姿が消えた事に、京子は気が付いていたかもしれない。
だが、咄嗟に思いついた瓦礫攻撃は、あらかじめ知っていない限りここまでの超反応はできるはずがないからだ。
もちろん京子はこの攻撃を知っていた訳ではない。
躱すことに成功したのは、これまでの旅の途中で俊輔から受けた指導の賜物だ。
魔物の中には気配を消すのが得意な者もいる。
そういった者の奇襲に対応するためにも、戦闘中であっても一定の周囲を探知をしながら戦う癖をつけておいた方が良い。
それを受け、京子も最近では普通にできるようになっていた。
俊輔は結構範囲が広いが、京子は広範囲だと情報量が多くて気が散るので周辺の探知だけにとどめている。
それがあったからこそ、筋肉女が壁を挟んだ所に立っていて、壁破壊をしようとしていることを探知して反応できたのだ。
「っ!?」
飛び込み前転の要領で回避した京子が、体勢を立て直そうとした所に短剣が迫った。
左側に残っていた2人が、京子が瓦礫を躱したことに驚きながらもすぐに襲い掛かって来たのだ。
「わっ!?」
正に間一髪と言った感じで、京子は体を反らして短剣を回避する。
「おっ!? とっ!?」
体を反らして体制が不十分の京子に向けて、左右前方に分かれた女たちが両手の短剣で追撃をしてきた。
しかし、持ち前のフットワークと木刀を駆使して、京子は敵の攻撃を防ぐ。
「っ!?」
2人を相手に手いっぱいの京子に、壁を壊した筋肉女も背後から接近してきて、思いっきりハンマーを振り下ろしてきた。
「くっ!?」
その振り下ろしの攻撃を木刀で弾き、軌道をずらすことで京子はギリギリで回避に成功する。
速度重視で攻撃力は低めの京子だが、魔力量は魔人の血を引いているであろう敵の女たちよりも上だ。
体に纏う魔力量は彼女たちも上なのにも拘らず、筋肉女のハンマー攻撃は京子よりもやや高いようで、躱すためにハンマーを弾いた木刀を持つ手が軽く痺れた。
「ふっ!?」「はっ!?」
ハンマーを躱しても、先程の2人は京子が反撃する隙間を与えないと言わんばかりに手数で翻弄してくた。
「このっ!!」
攻撃を躱し、反撃しようとした京子へ、筋肉女がハンマーを横薙ぎするように振り抜いてきた。
「ぐっ!?」
木刀で受け止め直撃はしなかったが、あまりの威力に体を浮かされ、京子は吹き飛ばされた。
折角静まった軽い痺れも、防いだ事でまたビリビリと痺れた。
「っ痛いわね!!」
飛ばされて壁にぶつかりそうになるが、京子は壁に着地をするように両足を付け、衝撃を吸収する。
「このっ!!」
「っ!?」
そのまま壁を蹴り、京子は筋肉女に急接近した。
重量のあるハンマーを思いっきり振ったことによる慣性で、体が流れていた筋肉女はそれに反応ができなかった。
「寝てなさい!!」
「ごっ!?」
壁を蹴った勢いそのままに放った京子の飛び蹴りが喉に直撃し、筋肉女は吹き飛び、白目をむいて動かなくなった。
「ハッ!!」「ヤッ!!」
飛び蹴りして着地した京子に、仲間をやられても気にしていないのか、先程の2人が間を開けずにまたも襲い掛かってきた。
「甘い!!」
しかし、着地もしっかりして体勢十分な状態の京子は、もう慣れた速度の2人の攻撃は脅威にならない。
両手の、しかも獲物の長さ的に回転が速い2人の攻撃よりも、京子が振るう木刀の速度の方が上回り、敵の2人は攻撃から防御に回って必死になって攻撃を防ぐ。
「グッ!?」
京子の木刀攻撃の一つが左側の女の左手首を打ち、短剣が落ちる。
2刀あってギリギリ防げていた京子の攻撃が、これで防げなくなった。
そこを見逃さず、京子は短剣を落とした女の胴へ木刀を振る。
「グエッ!!」
その胴打ちを食らった女は、衝撃による苦痛に、思わず蛙が潰れたような声が出る。
“ニヤッ!”
「っ!?」
胴に食らった女の口の端がつり上がった。
その僅かな反応を見逃さず、京子は違和感を感じた。
そして、よくよく見てみたら、胴を食らったのは間違いないが、残っていた右手の短剣を挟むことで直撃の威力を軽減させていたらしい。
“ぐっ!!”
「っ!?」
口から血を流しつつも、女は自分を打ちつけた京子の木刀を掴んだ。
そして、残りの魔力を全部集めたのではないかというように掴んだ手に集めた。
京子が引っ張ってみるが、その手から木刀が抜けない。
「なっ!?」
瓦礫の向こうに残っていた2人の内一人が、瓦礫を飛び越え超高速で京子の背後から迫った。
しかも、いつの間にか武器が変わっていて、フルーレを握っている。
フルーレの高速の突きを躱すために、京子は木刀を手放した。
明らかにこの一撃に全力を込めていたのか、京子に攻撃を躱されたフルーレ使いの女は体が流れた。
「せいっ!!」
「うっ!?」
その隙を狙って京子の拳がアッパーカット気味に鳩尾に突き刺さった。
「ハッ!!」
直撃を受け、武器を落として両手で腹を抑えた女に対し、京子は首に手刀を落とした。
いわゆる首トンをして女を気絶させた。
「……フッ……」
自分がやられることで最悪、京子の武器を取り上げることが狙いだったのか、胴を食らった女は京子の木刀を握ったまま笑みを浮かべて前のめりに倒れていった。
「シッ!!」
京子が敵を倒した余韻に浸る余裕もなく、残っていた短剣の女が迫って来た。
「チッ!」
武器を奪われ、無手の状態では幾ら京子でも少々困る相手。
仕方がないので、京子は舌打ちし、咄嗟に先程打ち落とした敵の短剣を拾った。
女が両手の短剣を振り回して襲い掛かって来るが、京子は右手に持った短剣を巧みに使って回避する。
「そこだ!!」
「ぐっ!?」
京子は木刀がなければ何もできない訳ではない。
格闘術も訓練している京子は、蹴り技が得意だ。
以前、金藤と戦った時のように足技を使ってこの女を倒す事にした。
短剣での攻撃に意識が向いていたのか、敵の女の足はガラ空きだった。
そこに京子のローキックがきれいに入り、女はバランスを崩す。
「ハッ!!」
「カッ……!?」
下に意識を向けたら上が開く。
バランスを崩した女は、京子の足技による追撃に意識が向いた。
それを読み取った京子は、がら空きになった顎先へ左拳を撃ち抜いた。
幾ら戦闘経験が豊富でも、これだけ見事に顎先に食らってはどうしようもない。
脳を揺らされた女はストンと座り込むように崩れ落ちた。
「……残るはあんた一人ね?」
戦闘が開始してから一度も何もせず味方の後方に立っていた女に対し、京子は言葉と共に持っている短剣の先を向けたのだった。




