第164話
「わっ!?」
3人を気絶させて敵の残りが前に3人、後ろに2人になった京子だったが、筋肉質の女2人を倒してすぐに魔法が飛んできた。
ローブを着た魔導士のような女が魔法を撃とうとしていたのは、戦っている最中でも視界の端に入っていた。
なので、飛んできた水弾を躱した京子だったが、前からだけでなく後ろからも飛んできたことには少し焦った。
それでも京子には通用しない。
軽いステップワークで京子は魔法を避ける。
『っ!? 1人いない!?』
前後から飛んで魔法に気を取られていた間に、前方向にいたガタイの良い女がいつの間にかいなくなっていた。
◆◆◆◆◆
『……これ、どうしよう……』
京子が順調に敵の数を減らし戦っている中、俊輔の方はというと囲まれた状態から脱出できないでいた。
まずは一番近くにいる敵に接近してみたのだが、ターゲットは近付いた分だけ後退し攻撃をするに至らない。
逆に、敵は攻撃をしては反撃を受けないように一撃離脱する。
それを八方から、俊輔の死角を突くように代わる代わる行ってくる。
ヒット&アウェイをしても仲間との距離感は見事に変わらず、なかなか囲みを突破することができない。
「……面倒だ」
攻撃はキチンと木刀で防いでいるのでダメージを受けてはいないが、変化が起きないこの状況に俊輔は本音が出た。
敵はこのまま俊輔が焦って無謀な攻撃をしてくるか、防御し損なって崩れるのを待っているかのように連携して攻撃をしかけてくる。
「シッ!!」
「っと!?」
繰り返される攻撃を防ぎ、躱しているだけの俊輔だが、ただ押されているだけではない。
『……あいつかな?』
体格はそれぞれ違うが、全員同じ武器でするどい攻撃を放ってくる。
しかし、囲んでいる人間の中で現在俊輔の右後方にいる男は、強者を思わせる雰囲気が僅かに見え隠れしている。
他とは実力が違うせいなのかもしれない。
能力がかなり上の者が下の者に合わせることは、かなりの神経を要するものだから。
『そうと分かれば……』
“バッ!!”
「っ!?」
俊輔はまず、目の前の男に向かうように動いた後、急反転して右後方の男に斬りかかった。
反転した時、これまでよりも明らかに加速した俊輔が急接近したことに、男の方も僅かながら表情に反応があった。
“キンッ!!”
「チッ!!」
予想はしていたが、案の定男は振り下ろした俊輔の木刀に反応し、2本の短剣をクロスして防ぐ。
分かっていたとは言っても、見事に防がれたことに俊輔は思わず舌打をした。
「セイッ!!」
「ッ!?」
防がれることを予期していたのだから次の手に出るまで。
俊輔はそのまま回し蹴りを放つ。
男はそれにも反応して腕を畳んでガードした。
だが、俊輔の蹴りが想像以上の威力であったため、少しの距離弾かれ、体勢を崩した。
このなかで一番の手練れが狙われ、他の男たちが微かなためらいを見せたことにより、囲みに隙ができた。
「フゥ~……! 脱出成功!!」
少しの時間を要したが、俊輔は自分で作った隙を抜けてなんとか囲みから脱出することに成功した。
何気に、どこから攻撃されるか分からないというのは集中力を使わされたようで、全員が視界に入る位置に立つと、俊輔は一息ついた。
「……お前ら!」
俊輔の一息の間に、強者の男は仲間にそれぞれ異なる武器を投げ渡す。
王城に入る時、護衛以外には念のため武器や防具、それを収めた魔法の袋は預ける決まりになっている。
武器が出現したということは、収納の魔道具をどこかに隠し持っていたのかもしれない。
短剣を捨てた敵たちは、それぞれ武器を受け取った瞬間纏っている雰囲気が変わったように思えた。
「長!!」
「ん? あの女は京子を相手にしてたんじゃ……?」
俊輔たちが戦っているパーティー会場だった部屋に、ガタイが良い女が入って来た。
「……そらっ!!」
背後からかけられた短い声に、強者の男は指輪を投げ渡した。
どうやらあの指輪が収納の魔道具のようだ。
受け取った指輪をガタイの良い女が小指に嵌めると、巨大なハンマーが出したのだから間違いない。
そのまま俊輔の視界から外れたガタイの良い女は京子に任せ、俊輔は武器が変わった男たちに集中することにした。
◆◆◆◆◆
「自分たちだけが魔法を使えるんじゃないわよ!!」
前後からの魔法攻撃を躱していた京子だが、このままでは埒が明かないので反撃に撃って出ることにした。
「ハッ!!」
「なっ!?」
前方から水弾を放ってくる魔導士風の女に京子は木刀を向ける。
すると、木刀の先端から敵の倍以上の大きさの水弾が発射された。
敵の水弾が野球のボール位だとしたら、京子の方はサッカーボール位の大きさだ。
恐らく、敵の女は京子が日向の人間であることから、魔法を使ってくることはないだろうと思っていたのかもしれない。
使ってきたとしても、自分たちに通用する程の魔法攻撃は無いと高をくくっていたのだろう。
「ぐわっ!?」
まさか強力な魔法が放たれると思っていなかったため、魔導士風の女は京子の水弾が体に直撃し、吹き飛ばされて気を失った。
「がっ!?」
『よしっ! さっきのガタイの良い女は……』
日向の国を出てから、京子は俊輔とネグロに教わって魔法の練習をしてきた。
剣による戦闘が主流の日向で鍛えられ育ったからなのか、コツを掴むのがなかなか難しかった。
バカみたいな火力の魔法を放つ俊輔やネグロと比べれば大したことはないが、そこいらの魔法使いでは相手にならないくらいにまで上達している。
魔人族の血筋で魔力は多いようだが、敵の魔法の腕は普通レベルに思える。
暗殺術などの訓練が基本で、魔法の方は二の次になっているのかもしれない。
後方から魔法を放っていた方の女にも水弾を食らわせ、京子はいなくって気になっていたガタイの良い女のことを探った。
「ガーー!!」
“ボカンッ!!”
「なっ!?」
大きな叫び声が聞こえたと思ったら、京子の左側の壁が破壊された。
壁の瓦礫が京子に降り注ぐように落下してくるなか、壁の向こう側にはハンマーを振り抜いた構えをしたガタイの良い女が立っていた。




