第162話
「………………」
イバンの護衛としてパーティー会場に入っている俊輔は、考え込んでいた。
『どうやってベンガンサの連中はイバンを狙うんだ?』
高位の貴族、ましてやこの国の王がいる状況で、暗殺なんかを行おうとするような連中だ。
以前公爵家の邸に忍び込んで来た者たちの実力は、相当なものがあった。
あの時の連中も、恐らく明日の決勝トーナメントに進出した選手たちと同じくらいの実力だろう。
そう考えると、16人の中の誰かという考えは間違いない。
『こんな場所でイバンだけ殺そうとするなんて難しくないか?』
フリオに聞いたところによると、大会の決勝トーナメントに進出した者たちに王から一言かけられ、その後貴族の中で引き抜きたい者がいれば、勝手に交渉するらしい。
その時が一番彼らに注意しなければならない時間かもしれない。
交渉の必要のないイバンには、安全のために話しかけることはせず、フリオと一緒にいてもらうように言ってある。
「皆の者、静まれ!」
王専用に作られた、会場の少し高くなった上座に立った王が、入り口付近で跪く選手たちに挨拶をするらしく、少し大きめの声をあげた。
『それに、あれほどの実力を持ったベンガンサという組織が、バジャルドなんて馬鹿貴族に素直に従うのか?』
俊輔はバジャルドのことを知っておこうと、公爵家の邸の使用人たちにも話を聞いていた。
聞いた人間の全てが、不敬罪に問われそうなほどバジャルドの罵詈雑言を漏らしていた。
そんなバジャルドが、あれほどの連携を取れる強者たちの集団をコントロールできているとは考えづらい。
「…………もしかして?」
「どうしたの? 俊ちゃん!」
少しの間黙っていた俊輔が、小声で呟いた言葉に反応したのか、京子が小声で問いかけてきた。
「京子! 抜け!」
問いかけられた俊輔は大きな声を出し、その場から飛び出した。
“キンッ!!”
「っ!?」
「オイ、オイ……」
飛び出した俊輔が向かった先は、国王と明日の決勝トーナメント進出者がいる中間地点だった。
腰に差していた木刀を抜きながら、俊輔は国王を背にして立ち塞がった。
そこへ、先程まで跪いていた選手たちが、どこに隠してあったのか分からないが、短剣を取り出し俊輔へ飛び掛かって来た。
攻撃を防がれた方の男も、まさか自分たちの行動に反応する人間がいるとは思わず、驚いた表情をする。
「……いくら何でも、全員かよ!?」
先頭を高速で走って来た男の短刀を防いだ俊輔は、思わず呟いた。
それもそのはず、16人全員が動き出したからだ。
最初、16人の中に紛れ込んでいるのかと思っていた俊輔だったが、さすがに全員だとは思わなかった。
「ヒイィー!」
先頭の男を防いだと思ったら、後方から何人も、何人も、俊輔を避けてエルスール王へと襲い掛かっていく。
自分が狙われていることをようやく理解したのか、恐怖を覚えたエルスール王は悲鳴のような声をあげた。
「行かせるわけないだろ!?」
「っ!?」
腰を抜かして動けないでいる王へ、彼らは殺気を込めて短剣を向けて近付くが、それをさせまいと俊輔が木刀を振って追い払う。
「今のうち避難を!!」
「了解! 感謝する!」
ようやく彼らが王の暗殺をしようとしていることに気付いたのか、近衛兵たちが動けないでいる王の周りを囲んだ。
俊輔が木刀を振り回し、わざと躱させて距離を取るように仕向けると、近衛兵たちに王の避難を短い言葉で指示した。
すぐに理解したのか、近衛兵は王を立ち上がらせて避難の誘導を開始した。
「キャー!!」「何だ!?」「なぜ彼らが!?」
選手たちの暴挙に他の貴族たちも慌て、その場は阿鼻叫喚の状況に陥った。
悲鳴を聞いて駆け付けたのか、パーティールームの側で控えていた従者たちが、自分の主人を守ろうと避難へ促し始めた。
多くの貴族同様に、イバンもフリオと共に部屋から出て行こうとする。
「っ!?」
“キンッ!!”
「今のうちに!!」
「助かったぞ! 京子殿!」
王が逃げていくのを止められないと考えたのか、女性の選手たちが、イバンを含めた貴族たちに襲い掛かっていった。
それを今度は京子が腰から抜いた木刀で防ぎ、避難するための時間を稼いだ。
フリオは京子に感謝の言葉を告げ、イバンと共に走り出した。
「クッ!? 殺れ!!」
王を追おうとする男性選手たちと、貴族を追おうとする女性選手たち。
それをさせまいとする俊輔と京子の二つに分かれた。
男性選手たちの中の一人が指示を出し、他の者たちが俊輔へ攻撃を開始した。
「京子! そっちの方は任せたぞ!?」
「うん! 任せて!!」
代わる代わる、もしくは同時に短剣を振る男たちの攻撃を躱しながら、俊輔は女性選手たちの方の相手を任せることにした。
京子も8人の女たちに短剣を向けられながらも、明るい口調で俊輔に返事をした。
「「「「「「「「……っ!!」」」」」」」」
その京子の様子に、8人の女性たちからの殺気が増した。
いくらなんでも、一人で自分たちを止めようなんて、舐められていると感じたのだろうか。
「かかってこいや!!」
二本の木刀をいつものように構え、俊輔は気合いと共に叫ぶ。
「「「「「「「「……っ!?」」」」」」」」
俊輔を囲む男たちは、俊輔が纏った魔力の濃密さに一瞬攻撃を止め、焦ったような空気を流したが、すぐにそれを消し去り、ジリジリと俊輔との距離を近付いてきたのだった。




