第157話
明けましておめでとうございます。
今年も本作品で楽しんで頂けたら幸いです。
「住んでいる所が違うのはまだ良かったな……」
「食事に何か入れられているかもとか気にする必要ないもんね?」
公爵家次男のイバンの護衛として王都クルポンに到着した俊輔たちは、何度も襲撃を指示していたであろう長男のバジャルドと違う邸だったことに安堵していた。
腹違いとは言え、兄弟なのだから同じ家に住んでいると思っていたが、話を聞いた限りでは別の場所に住んでいるらしい。
「父が兄に交友関係の清算を済ますまで郊外の屋敷に行っていろと申し付けまして……」
身内の恥を説明しなければならないからか、イバンは恥ずかしそうに俊輔たちに説明をしてくれた。
京子が言ったように、バジャルドの指示を受けた者が近くに潜んでいるかも分からない状況で過ごすのは、気分的に面倒臭い思いをしなければならない所だった。
俊輔たちは色々な魔物との戦闘で多少の毒は耐性がある。
耐性があるといっても、即死を防ぐ事ができるという程度で完全に効かない訳ではない。
毒で弱った所を狙われては俊輔でも手こずる可能性がある。
ここの邸の従者たちは父のカルリトスが昔から雇っているので、その心配がないのはありがたい。
「私は父の容態の確認に行ってきます」
俊輔たちのお陰もあって、ここまでの道程のほとんどで時間が短縮できた。
そもそも通常ならここまで急ぐことはなかったのだが、容体が悪化しているというカルリトスが心配なイバンの頼まれたのもある。
「すぐに襲ってくる可能性は低いが、警戒はしておいた方がいいな……」
「自分たちに疑いが及ばないように何かしらの策を巡らせてから……って感じかな?」
「あぁ……」
イバンが帰って来たことはすぐに町に広まっている。
そんな所ですぐに殺害されたとなると、跡目争いが生じていることを知っている国民からしたら犯人が誰だかは丸分かりだ。
どういった策で攻めてくるか分からないが、警戒しておく必要がある。
京子も隊に所属していた時にこういったお偉いさんの護衛の経験があるらしく、態々説明をする必要もないのが楽で助かる。
◆◆◆◆◆
「シモン! どうなっているんだ!? 奴が王都に戻ってきてしまったではないか……」
王都郊外に建つ公爵邸の別宅ではバジャルドが怒りで震えていた。
闇社会では手練れで有名な組織だったので高い金を支払って雇い入れたのだが、失敗が続くことに元々気が長くないバジャルドが文句を言うのは当然なことだ。
「申し訳ありません。……ですがご安心ください」
「何がだ!?」
自分が怒りをぶつけているのにも関わらず、冷静な声で諫めるようなことをいう組織のトップの男に、尚も腹を立てるバジャルド。
「次は私自ら動きますので……」
「そ、そうか……?」
しかしすぐ後、そのシモンという男の言葉と重苦しい雰囲気に変わり、バジャルドは言葉が詰まった。
「しかし……本当にお前が出たら仕留められるのか?」
「……とおっしゃいますと?」
この男が醸し出す雰囲気は、一応闇社会に係わりがあるバジャルドからしたらピカイチに危険だと感じる。
その部下たちも何度か目にしたが、似たようなものだった。
シモンの部下たちが数人で挑んでも勝てなかった者相手に、シモン一人が加わったからと言って成功するとは思えなかった。
若干怯まされた腹いせの思いもあったが、そう思うのも仕方がないかもしれない。
「どこで仕入れたのか奴の護衛はかなりの手練れだと聞いたぞ?」
「…………私が負けるとでも?」
まさか自分の実力を疑われるようなことがあるとは思っていなかったため間が空いてしまったが、少しだけ実力をみせようと、そんな質問をしてくるバジャルドにシモンは軽く殺気を飛ばした。
「……ま、まぁ、しっかり奴を仕留めて、俺に疑いが及ばなければ構わん!」
殺気を受けたバジャルドは、失言だったことに気付いたのか早口で言葉をかけ、シモンに出て行くように告げたのだった。
「……兄者?」
室内から出ると、そこにはシモンの妹のカルメラが心配そうな表情で待ち受けていた。
先程兄のシモンが出した殺気に反応したのかもしれない。
「大丈夫だ。金づるには手出しはしない」
カルメラが心配しているのは分かる。
以前も自分たちや組織を不愉快な扱いをする雇い主がいた。
その者はもうこの世にいない。
シモンが我慢ならずに首を刈ってしまったからだ。
闇社会の人間だからと言って、ルールが無いわけではない。
さすがに雇い主を手にかけるような者たちに依頼をする人間などいない。
それからベンガンサの組織には仕事が入らず、苦しむ時期もあった。
そのことがあったから、カルメラはシモンがまた同じことをするかと思ったのかもしれない。
「今はまだ…………なっ?」
「ん!」
どこから調達しているのか分からないが、バジャルドは金払いが良い。
組織としては、今回かなりの人数を失うことになった。
その原因となるイバンが雇ったという護衛が気になる。
そいつらを捕まえて地獄を見せるまで今回の依頼を断る訳にはいかない。
バジャルドの始末はその後だ。
その思いを言葉に出さず、シモンはカルメラの頭を撫でたのだった。




