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第156話

「どうやら襲ってこないようだな……]


 ムニピオの町で夜襲をかけられた俊輔たちだったが、王都へ向かう道中は時折弱い魔物が出るくらいで、たいした襲撃は受けないでいた。

 その出てくる魔物も、ネグロが飛んで行って魔法で始末してくるので馬車を止める必要もない。

 だからか、スムーズに移動ができるので、予定よりもかなり早く王都のクルポンに着けそうだ。

 かなりの手練れを用いた夜襲が失敗した今、今更街道で襲って来るようなことはないだろうと思っていたので、俊輔にとっては予想通りの現状だ。


「……王都で決着を付けるってことかな?」


「かもしれないな……」


 休憩中に話していると、京子が俊輔と同じ考えを口にした。

 結構な数の襲撃者を送っておいて失敗した者たちが、このまま怖気づいて手を引く可能性はかなり低い。

 しかも、送って来たのは下っ端で済ませないレベルの実力者たちだ。

 となると、京子の言う通り王都で万全の準備をしたうえで向かって来るはずだ。


「兄上はそこまでして当主になりたいのか……?」


 俊輔たちの会話を聞いていたイバンは、沈んだ表情で呟いた。

 兄のバジャルドとは5歳の年齢差がある。

 二人とも幼くして母を亡くした者同士だが、仲が良いとか悪いとか言う前に、物心ついた時にはもう距離があるように思えた。

 妾子ということで、父のカルリトスが特別それを気にした様子もなく対応していた。

 自分も同様だ。

 だが、バジャルドが15歳を越えたくらいの時期にいつの間にかおかしな人間と関わるようになり、評判がどんどんと下がっていった。

 証拠がないために不問になった出来事もいくつかある。

 そんな兄を流石に面倒見切れなくなり、体調を崩した父は家督を譲らないことを決めた。

 それからというもの、自分の周辺に危険なことが起きるようになった。

 時期的にみて、明らかに兄の仕業である。

 父もそれを知って、代理で隣国へ向かわせている間に兄を諫めようとしていたのだろうが、噂によると体調が急速に悪化したらしく、兄を止められる人間はもういない状態だ。

 王都で弟の自分が死ねば、誰でも犯人の見当がつく。

 バレないようにする策でもあるのか、そうであっても構わないのか、どちらにしても狂気に近い。


「……フリオさん」


「ん?」


 神妙な顔つきのイバンは置いておいて、俊輔はフリオに聞きたいことがあった。


「死んでしまったとはいえ、遺体から何か情報は得られましたか?」


「……あぁ」


 俊輔の問いに、フリオは曇った表情で頷いた。


「……? どうしました?」


 言い淀む感じの返事から、何か言いにくそうなのは感じ取れる。

 しかし、どんな情報でも知っておけば対策を立てるなりできるので、聞かない訳にはいかない。


「死んでいるから確証はないが、奴らはベンガンサと呼ばれている者たちかもしれません」


「ベンガンサ?」


 フリオの言い方からするに、多少知られている組織のようだ。

 勿論、俊輔たちはそういった厄介事とは無縁で来たので聞いた事などない。


「復讐……という意味です」


「復讐……」


 意味を聞くと、俊輔は何とも言えない思いになった。

 俊輔の性格において、そう言った感情で動く人間と関わり合うのが一番気分が落ちる。

 勝っても負けてもいい気分にならない予感がしてならないからだ。


「何への?」


 困った表情をしている俊輔をよそに、京子は純粋に組織の行動原理を聞いていた。

 一応、京子は日向の国で部隊に所属していたため、そういった敵を相手にしたこともあるのかもしれないが、結構ドライな考えをしているようだ。


「恐らく、我々人族へ……だろう」


「「……?」」


 フリオの答えの意味が理解できず、俊輔と京子は首を傾げるしかなかった。

 そんな大きな括りの答えは予想していなかったからだ。


「彼らは魔人の血を引く者たちの集まりだそうです」


「「魔人!?」」


 俊輔たちの反応を予想していたのか、フリオは説明を付け足した。

 思ってもいなかった言葉に、俊輔と京子は驚きの声をあげた。

 ただ、俊輔は内心では嬉しい感情も沸いていた。

 魔人がこの大陸で見られるなんて思ってもいなかったからだ。

 この世界には前世の地球と違い、人族以外に魔人や獣人と呼ばれる種族が存在する。

 人族とそれらの関係は正直いって悪く、魔人族と人族は特に良くないかもしれない。

 というのも、彼らは魔人などと呼ばれているが、人族との違いは青みがかった肌の色だけで、その違いからいつの間にか差別が生まれ、虐げられた魔人たちが佳境な大陸へ移住せざるを得なくなってしまった。

 それを、長い年月が過ぎようとも恨みのように忘れられないのは仕方がないかもしれない。

 魔人たちが住む大陸は発生する魔物のレベルが高く、その中を生き抜き少しずつ発展してきた彼らは、同じ生まれたばかりの赤ん坊でも人族と比べて魔力の保有量が多い傾向にある。

 環境に適応した産物のようなものだが、それにより人族への抵抗もできるようになったといってもいい。


「……かなりマズイんじゃないですか?」


 エルスールの国は魔人の大陸に一番近い国だが、この人族大陸の国全ては魔人族とは関わらないようにすることが共通のルールになっている。

 それを破るとなると、人族同士で争いになりかねない。

 昔から遠く離れているため魔人とはかかわりがないので、日向はそのルールに関係ないが、この国はそうはいっていられない。

 一人一人が屈強な魔人が足掛かりを得た場合、今度は逆に人族の国々が征服される可能性がある。

 それを狙っているのがベンガンサという組織なのかもしれない。

 そんな組織と関わっていることが知られれば、家督争いなんて言っていられる場合じゃない。

 国としての問題になりかねない。


「……かなりマズいです」


 俊輔が思わず聞いた質問に、フリオは顔を青くして答える。


「それを踏まえて俊輔殿たちにお願いしたいのですが……」


「……嫌な予感しかしないのですが? ……どうぞ」


 真剣な表情で俊輔たちに目を向けるフリオの様子に、護衛を頼まれた時に似ていて気が引けるが、空気的に聞かない訳にはいかない。

 なので、俊輔は躊躇いつつも聞くことにした。


「組織の壊滅に御助力願いたい!」


「…………やっぱり?」


 案の定フリオからの面倒な頼みに、俊輔は渋い顔をすることになった。


「……まぁ、ちゃんと王都に送っても、その後すぐにイバン様が亡くなったでは目覚めも悪いですし……」


「では……?」


 依頼は王都に送り届けるまでだったが、ちょっと状況が変わってきた。


「引き受けますよ……」 


 この状況で断る訳にもいかないので、俊輔は渋々受けることにしたのだった。


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