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第155話

「何だって!?」


 フリオたちに感謝され、俊輔が外で気絶させた者たちを任せ、時間が時間なだけに眠りに着こうと思ったのだが、宛がわれた部屋へ向かってすぐ知らせが来てまたも慌てることになった。


「死んでる!?」


「チッ!」


 フリオの部下の一人から受けた緊急報告に、俊輔と京子は襲撃者たちを気絶させた場所へと走った。

 到着すると、フリオたちが囲んでいる側に倒れている襲撃者たちは血を吐いて死亡していた。

 このような結果になってしまったことに、俊輔は思わず舌打をした。


「折角助けた意味がなかったな……」


「どうしてこうなったんですか?」


 気を失わせ、フリオたちに捕縛を任せてからそれ程の時間は経過していない。

 意識を取り戻すのにはいくら何でもまだ早い。

 自害したというのは無理がある。


「俊輔殿!? 急に胸に魔法陣が現れて……」


 突然のことでフリオも慌てている様子で、若干早口で何が起きたのかを話し出した。

 襲撃者たちが意識を取り戻す前に捕縛して牢に入れておこうとしたら、急に襲撃者たちの胸の部分に魔法陣が浮き上がり、光を放つと全員が血を吐いたとのことだった。


「魔法陣が発動?」


「誰か遠くから見ていた仲間がいるのか?」


 魔法陣が発動したということを聞いて京子は驚き、俊輔はすぐに周囲の警戒を強めた。

 自分で魔法陣を発動させることは簡単だが、気を失っている状況では不可能だ。

 自動発動させる場合でも条件が厳しければ発動するか分からないし、簡単な条件では逃走・反撃の機会を逃しかねない。

 気絶と捕縛で発動させるには、条件として軽すぎる。

 この場合自動発動での死亡よりも、元々最悪の場合を想定して用意していた魔法陣を、遠距離から発動させた可能性の方が高い。

 そう判断した俊輔は、探知の範囲を邸周辺から大きく広げていった。


「……………駄目だ! 探知に引っかかる人間はいない」


 ほぼ町全体を覆う程に範囲を広げるが、こちらに視線を向けている人間を探知することはできない。


「俊ちゃんの探知でも……?」


 俊輔の探知の範囲は、方向だけ定めればどれほどの距離まで探知できるのか京子にも分からない。

 この町なら見つけられない訳がないようにも思っていたため、俊輔が発見できないということに驚いた。


「探知も万能じゃない。罠やこちらに向いた視線や悪意なら分かるが、それがなければ俺でも分からない」


 罠などは魔法陣に魔力がある程度流れているので注意すれば分かるし、悪意なども広げた俊輔の魔力に反応して察知できるだろう。

 暗殺が得意な人間などの場合、殺意などを消すことが得意なのかもしれない。

 俊輔は確かに探知の範囲は広いかもしれないが、これまで罠や強力な魔物相手でしか使っていなかったので、そういった人間が相手では察知できないのかもしれない。


「たぶんかけられたこいつらも了承していたのかもな……」


 遠距離にいる人間がこれだけの人数の魔方陣を発動させるには、相当な魔力量が必要になる。

 しかし、それが魔方陣を設置された本人が協力していれば変わって来る。

 自分で設置し、発動させる権限を他人に決めておけば、魔法陣の維持には設置した人間の魔力を使うので、権限を持つ側は少しの魔力で発動させられる。

 とは言っても、この人数分を一度に発動させたのだから、かなりの魔力量を有しているのは確かだ。


「俺に危害が及ばないから反応しなかったのかもな……」


 戦う前から襲撃者たちには魔方陣が設置されていただろうが、俊輔は察知できなかった。

 俊輔の探知は、自分に危害が加わる可能性がある場合を想定しているので、そうではなかったため今回の場合分からなかったのかもしれない。


「それにしたって、失敗したらすぐ死を選ぶなんて……」


「これで終わりじゃないだろう……」


 捕まるくらいなら死を選ぶということは捕まって奴隷化され、イバン暗殺を依頼した人間を言わされる訳にはいかないからだ。

 それに、他にもまだ仲間がいるということはこのままで済むとは思えない。

 警戒心を緩めるわけにはいかないことを確認した俊輔だった。






◆◆◆◆◆


「……失敗しただと?」


 王都では組織のトップらしき男が、腹心の報告を受けて信じられないような表情をしていた。

 これまでは組織の人間が直接動くようなことはしていなかったので、失敗する可能性も想定していたが、下っ端とはいえ訓練された組織の人間が動いて失敗したことなど今までにはなかった。

 そのため、失敗が信じられなかったのだろう。


「えぇ……、雇ったと思わしき二人組がまともな強さではありませんでした」


「……それ程の相手でしたか?」


 腹心は、兄妹にとって父がトップの時代から良くしてもらっている男で、実力的にはかなりのものだ。

 そんな彼がここまで評価するなんて珍しい。

 余程のことなので、妹の方も意外そうに問いかけた。


「男の方は頭に匹敵する強さではないかと……」


「……兄者並!?」


 腹心の男の答えに兄弟は目を見開いた。

 特に兄を尊敬している妹にとって、その答えは信じられなかった。

 兄は実力は人外の者と言っても良いほどのものだ。

 腹心の男もそれは分かっているはずだ。

 にもかかわらずそう評価されるなど、ありえないと思ったからだ。


「……そいつは面白い! どちらにしてもこれ以上の失敗は許されない」


 妹とは違い、兄の方は違う反応を示した。

 生まれた時から特別な力を持ち、恐ろしいと思える人間などこれまで存在した事など無い。

 更に言えば、自分が本気で戦える者が存在しないことにいつも退屈をしていた。

 そこにその退屈を埋めてくれるかもしれない存在が現れたことに、何年ぶりかも分からない笑顔が浮かんでしまった。


「……では兄者?」


 兄の笑顔など久方ぶりに見る。

 自分には優しい兄だが、ここ数年笑顔など見せなかった。

 大好きな兄を笑顔にしたのが自分でないことに、密かにその敵に嫉妬を覚えた。

 それを顔に出さず、妹は尋ねた。


「あぁ、次は俺も出る!」


 腹心の男の言うように、その敵が自分を楽しませてくれることを期待しながらトップの男は返事をしたのだった。


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