第146話
「ハッ!!」
俊輔・ネグロ組対玄武の第二ラウンド。
先に動いたのは玄武だった。
戦闘開始時より動きが俊敏になった事で、俊輔の速度への対応が出来て来たからか、自分からも仕掛ける余裕が生まれたのかもしれない。
「ムンッ!!」
玄武の武器である巨大鎚は重量がある。
つまり、どうしたってスイング速度は落ちてしまう。
怪力自慢の玄武だろうとそれは同じで、俊輔にとっては防げない速さではない。
だが、防ぐのはあまりいい手ではない。
両手に持つ木刀で受け止めれば、ダメージを受ける事はないだろう。
しかし、その代わり無駄に吹き飛ばされてしまう。
かと言って、魔法で攻撃しようにも、甲羅で大部分を覆っている玄武の防御を抜くのは難しい。
時間をかけては、折角玄武に与えた傷を回復させてしまう可能性がある。
接近戦で勝負をするしかない。
「セイッ!!」
俊輔の攻撃を防いだり、躱して、僅かな隙に合わせるように玄武は鎚を横に振る。
躱すのも微妙な攻撃に、俊輔は両手の木刀で受け止め飛ばされる。
そして、着地をするとすぐ距離を縮めて攻撃を放つ。
「フンッ!!」
玄武はどんどん俊輔の速度に慣れてきている。
鎚の長い柄を利用し、玄武は俊輔の速い連撃を防ぐ。
「グッ!!」「ガー!!」
“ガキンッ!!”
俊輔の二刀と鎚の柄がぶつかり、鍔迫り合いのような状態になる。
「ハッ!!」「ダッ!!」
お互い相手を押すようにし、その反動を利用して距離を取る。
「ハッ!!」
一瞬早く地に足が付いた玄武が、地を蹴り俊輔との距離を詰める。
「たっ!!」
僅かに遅れて地に足が付いた俊輔も地を蹴る。
「っ!?」
これまで通り俊輔の方が早く玄武に攻撃を出来ると思いきや、玄武が途中から急加速した。
何をしたのかを俊輔が見る事は出来なかったが、すぐ後に玄武がしたことの予想が付いた。
急な加速に驚き、俊輔は咄嗟に防御に転じざるを得なかった。
“ボカッ!!”
「くっ!?」
俊輔は二刀で防ぎ、またも弾き飛ばされる。
「ハァー!!」
空中なら攻撃を躱す事は難しいだろうと考えたのか、玄武は先程と同じく急加速をし、俊輔が地に落ちる前に追いつき俊輔の横っ腹へ鎚を振る。
“フワッ!!”
「ッ!?」
今度は玄武が驚く番だった。
突然俊輔の体が上へと浮き上がった。
風魔法にを使い、体を浮き上がらせたのだ。
それによって、玄武の鎚は空振りをする。
「ハッ!!」
「グアッ!?」
空振りで出来た玄武の隙をつき、俊輔は落下の勢いと共に唐竹割りを放つ。
玄武の反応も鋭く、ギリギリの所で脳天に振り下ろされた木刀を首を倒す事で回避する。
しかし、脳天への直撃は当たらなかったが、深い一撃が左肩に入った。
「ラッ!!」
「ぐっ!?」
攻撃を受けた玄武は、苦し紛れに前蹴りを放った。
それが腹に入り、俊輔は顔を歪めて飛ばされた。
前蹴りは直撃ではなかった。
俊輔は先程と同じく、魔法の風を自分に当てて、後方へ自ら飛ぶようにして蹴りが深く入る事を防いだのだ。
しかし、威力が威力のため、一瞬息が止まった。
「ガァ!!」
蹴とばされた俊輔は腹を抑え、蹲るように着地する。
そんな俊輔へ追い打ちをかけるように玄武は突進した。
左肩を打たれ、痛みでしっかり握れないため、玄武は右手のみで攻撃をしようと鎚を振りかぶる。
「ゴボッ!?」
しかし、鎚を振り下ろす事は出来なかった。
何故なら、いつの間に回っていたネグロが俊輔の背後から姿を現し、それと同時にレーザー魔法が放たれ玄武の腹にクリーンヒットしたからだ。
玄武の体が、くの字に曲がって弾かれる。
「この雑魚が!!」
丸烏ごときにチャンスを潰され、玄武は怒りで冷静さを失う。
腹の部分にも堅い鎧のような甲羅を纏っているが、背中の甲羅に比べて若干防御力は劣るのか、ダメージは少くなないようだ。
「ッ!?」
玄武がすぐに冷静になり、上空のネグロから俊輔の方へ警戒を向けた時、俊輔の方は準備が出来ていた。
「ハッ!!」
かめは◯波の構えをとって魔力の玉を放出する。
魔法はイメージによって威力が左右する。
その点からすると、イメージしやすいせいか高威力の魔力玉が玄武に向かって突き進んだ。
「ぐおっ!?」
武器が邪魔だと判断し、玄武は鎚を手放し、両手をクロスして魔力の玉を受け止める。
玄武はこのまま弾き飛ばそうとするが、勢いが強いためジリジリと押されていく。
「おのれ!!」
攻撃を受けた左肩がズキズキ傷む。
そのせいで左手にいまいち力が入らず弾けない。
「ぐっ!?」
俊輔も放った魔力玉を押し込もうと魔力を送って玄武を潰しにかかるのだが、パワー馬鹿の玄武はしぶとく止めている。
どっちも膠着状態になり、我慢比べの様相を呈してきた。
「ぐわっ!?」
懸命に魔力玉を抑え込んでいる玄武の左後方から、ネグロが火炎魔法を食らわせる。
死角から回り込んだようだ。
甲羅で火炎は防がれるが、ネグロはお構いなしに放ち続ける。
炎の方は効かなくても熱の方はそうはいかない。
ジワジワと甲羅内に熱がこもり、玄武の肉体にダメージを与え始める。
「この野郎!!」
このままでは集中して魔力玉を防げない。
玄武は尻尾の蛇を動かし、ネグロに向かって水弾を発射する。
「ピッ!?」
蛇が放った巨大な水弾はネグロの放つ火炎を押し返し、一気にネグロに襲い掛かる。
体内の魔力を全力放出し、防御を高めてクロスに構えたネグロの両翼に激突する。
「フッ……」
水弾は直撃し、ネグロが地面へと落下していく。
「ハァー!!」
その姿を確認した玄武は、俊輔の放った魔力玉を上へ向かって蹴り飛ばした。
「……なっ!?」
ネグロと魔力玉に気が行っている間に俊輔は玄武との距離を縮め、両手の木刀の剣先を玄武に向けた。
魔力玉を防げ、僅かに気が緩んでいた玄武は反応が遅れる。
「これでも食らいな!!」
二刀の木刀の剣先に集めた魔力を、超至近距離から玄武に向けて全力放出させた。
「うごっ!?」
“ズドンッ!!”
放った魔力が直撃し、そのまま玄武を部屋の壁に激突させ、爆発をしたように煙を巻き上げた。
「グハッ!?」
玄武は内臓に痛手を負ったらしく、血反吐を吐いて地面に倒れ込んだ。
「ク…ソ…餓鬼が!!」
巨大なクレーターを壁に作る程の衝撃を受け、ふらつく足を怒りの感情で抑え込むようにして玄武は立ち上がった。
「ッ!?」
「終わりだ!!」
さっきの攻撃で生きているだけでもとんでもないが、玄武の防御力を考えると不思議でもない。
玄武がこの程度で死ぬことはないと読んでいた俊輔は、何とか立ち上がった玄武に迫り確実に息の根を止めにかかった。
“ズカッ!!”
俊輔がとどめに放った右手の突きは、玄武の喉を貫いた。
“ドサッ!!”
俊輔が木刀を引き抜くと、喉から噴水のように大量出血し、玄武は前のめりに地面に倒れて動かなくなった。




