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第140話

 51層から始まった海ステージで手に入れた魚介類は、京子達に大人気だった。

 日向の国出身の京子はもちろん、俊輔に育てられた事でネグロも当然好きだ。

 と言うよりも、鳥に限らずペットの種類によっては与えてはならない食物がある事を知っていたので、なるべく注意して食べ物を与えていたのだが、弱小とは言え一応魔物だからか、ネグロは何を食べさせても平気だった。

 ダチョウ型の魔物であるアスルも平気なようで、かなり気に入ったみたいで夢中で食べている。


「へ~、もう50層越えたんだ?」


 夕食の焼き魚を頬張りながら、京子は俊輔の報告を聞いて感心したように声を上げた。


「半分でこのペースなら、一年もしないで一番下まで行けそうだね?」


 かなりの単純計算をしたのか、京子はかなり楽観的に言った。


「……いや、ここからが本番位に思った方が良い」


 京子とは反対で、俊輔は真剣な表情で返した。


「そ、そうなの?」


 俊輔のその表情で、京子は自分がここの事を楽に考えていた事に気付いた。

 今日は、京子も10層の守護者を倒せたからか、ちょっと気分が上がっていたのかもしれない。


「前回もあったが、魔法が使えないような階層もあるかもしれない」


「っ!?」


 俊輔はここの難解さを説明する為に前回の例を挙げる事にした。

 魔法が使えない場所があるなど、京子は考えた事もなかった。

 京子の魔法は、まだ俊輔やネグロに比べたら大したレベルではない。

 とはいえ、魔法が使えないという事は、魔法同様魔力を使う魔闘術にも影響がありそうだ。

 剣術主体の戦闘スタイルの京子からすると、死活問題になって来る。

 俊輔の言葉に目を見開いてしまうのも仕方がない。


「そんな階層があったの!?」


「あぁ……」


 京子が不安そうに問いかけて来たのを、俊輔は頷きで答えた。

 俊輔もそんな階層があるとは思っていなかったので、入ってから面食らった覚えがある。


「魔闘術は使えるが魔法など魔力を使った遠距離の攻撃が出来ない」


 魔法を放った本人から離れれば離れる程威力も制御も出来なくなる俊輔たちとは違い、敵は魔力を使わない遠距離攻撃を仕掛けてくるなど、何度も卑怯と言いたくなったものだ。


「厄介なのが探知も広範囲に広げられないって所だ」


「えっ!?」


 ここに入り、京子も俊輔に言われて探知の訓練を重ねた。

 敵の居場所と種類を先に知る事が、ここでは本当に重要にだと痛感していた。

 今では、それも結構な範囲探知できるようになったので、敵より先手先手で対処出来ている。

 それが出来なくなるという事は、かなり不利な戦いをしなくてはならない。


「ピ~……」


 その時の事はネグロも覚えていた。

 自分が足手纏いになってしまい、俊輔が苦労しているのを見ている事しか出来なかった。

 その事を思い出し、ネグロはシュンとなった。

 魔法特化な分、ネグロは魔法が駄目だと出来る事が何もなくなってしまう事が露呈した層だった。


「あそこがあって、ネグにも一応近接戦闘を教えたんだ」


 手がない分、ネグロは足で攻撃防御するしかない。

 なので、俊輔は足技での近接戦闘を指導した。

 俊輔の武術も前世の色々な格闘技を素人考えで練習したに過ぎない。

 ゴブリン相手の実践重視の訓練で鍛えた独学武術だ。


「……………………」


 武術をネグロに教えたと聞いて、アスルが自分にも教えてほしそうに俊輔の方を見つめて来た。


「アスルはネグに教わってくれるか?」


 ダチョウとカラスと言っても同じ鳥類型の魔物、やっぱり足技での武術になるので教えたいが、俊輔は攻略があるので教えていられない。

 なので、アスルの事はネグロに任せる事にした。


「京子は刀を使った剣技だけでなく武術も教わってるだろ?」


「うん。合気道を教わってた」


 京子が所属していた戦姫隊でも、武器を失った時の為の武道を訓練の一部に入れていた。

 それが合気道で、京子はそれでも上位の強さだった。


「……でも」


「んっ?」


 何か不安でもあるのだろうか。

 少し言い淀んだ京子が気になり、俊輔は首を傾げた。


「ぶん殴った方が早いかな?」


「…………そ、そう?」


 良い笑顔で握り拳をしながら怖い事言う京子に、俊輔はドン引きするしかなかった。






◆◆◆◆◆


 海ステージの初日は少し魚取りに夢中になりすぎていたので、翌日からはほどほどで攻略に力を入れていった。


「……鮫か?」


 海の上を歩き、次の階層への入り口を探していた俊輔だったが、海底に伸ばしていた探知の網に引っかかる魔物が現れた。

 その魔物は俊輔を獲物と定めたのか、背びれだけ海面から出して俊輔の周囲を静かに旋回した。

 あの映画の、あのリズムが流れて来そうな感じだ。


「来た!」


“ザッパーン!!”


 一回海底に沈んだと思った次の瞬間、一気に俊輔目掛けて海底からまるで飛び掛かるように向かって来た。

 海底が見えなくても、探知できている俊輔には意味がない。

 鮫の攻撃を横へ飛んで躱し、俊輔は木刀を抜いた。


「食われるかよ!!」


 躱された鮫は、巨体の全身を海面から晒した無防備な状態になった。

 その隙を逃す訳がない俊輔が、木刀で一殺した。

 頭を切り離された鮫は、血を巻き散らして海に落ちた。


「急がないと……」


 倒したのは良いが、鮫は時間が経過すると食用には適さなくなる。

 時間経過と共にアンモニア臭がひどくなるので、新鮮さが重要だ。

 そのため、時間停止の付与もされている魔法の袋の中に早々に倒した鮫を収納した。


「フカヒレ楽しみだな……」


 新鮮なら鮫の肉も美味いが、前世でもそう何度も食べられなかったフカヒレが、今は大漁でしかもタダで食べられるというのが嬉しい。

 雑な知識でだが、一度茹でて、鮫肌を剥き、乾燥させるというのは覚えていた。

 取り敢えず量があるので、茹でる温度や、乾燥日数はいくつかに分けて試して見た。

 しばらくすればどれかは成功しているだろう。


「キャビアとか取れないかな?」


 前世では世界三大珍味と言われるキャビア。

 チョウザメの卵を塩漬けした高級食材だ。


「……でも作り方が分からないか」


 鮫が取れるならキャビアも期待をしたのだが、漬ける時の塩分濃度など製造方法が分からない。

 研究する程食べたい訳でもないので、俊輔はフカヒレだけで我慢して先に進むことにした。




「戻る事も出来ないのに、海系の階層って鬼だろ」


 転移が出来る俊輔なら海面を歩けなかった場合船を作って持ってこれるが、他の人間がここまで来れた場合、こんな階層があると予想しているはずがない。

 魔物もハイレベル、守護者を倒して開いた扉も一定時間が過ぎれば自動で閉まるから地上へ戻る事も不可能、攻略難易度の高さが半端じゃない。

 攻略させたくないダンジョン側からすればそれは当然の事なのかもしれないが、文句を言いたくなる。


「……もしかして守護者も海の魔物なのか?」


 今までの経験から、守護者とそれまでの階層には関連がある事が多い。

 その事から60層の守護者の姿がどんな者なのか予想していた。

 そして辿り着いた60層の入り口に立ち、一息ついてから中に入って行った。


「なんだ?」


 60層の中に入ってすぐに入り口が閉まった。

 これまでも守護者の部屋に入ると閉まっていたので驚かないが、その後が初めての体験だった。

 天井の部分から水が落ちて来たのだ。

 これまで通り階層の入り口の僅かなスペースは海面より少し高い位置にあるのだが、水が入ってくることでその海面が上昇してきた。


「……もしかして海中戦をさせようって考えか?」


 海面が上がっていくが、魔力で海面に浮かべる俊輔は一緒になって上へと上がっていく。

 どんどん天井に近付いていく様子から一つの考えが浮かんだ。

 ここまで海面を移動していれば楽だったが、それを封じてきているように感じたのだ。


【その通り!!】


「っ!?」


 俊輔が独り言を呟くと、突如海底から声が聞こえて来た。

 若干驚いたが、俊輔はすぐに声のした方へ探知を広げた。

 すると、一体の生物が腕を組んでこちらを眺めていた。

 60層の守護者なのだろう。

 その姿はまるで半魚人といった所だろうか。

 顔は完全に魚、人間のような胴体をしていて、皮膚は鱗に覆われている。

 手足の指の間には水かきのようなものが付いていて、頭頂部からは背びれ、生えている尻尾は尾びれのようになっている。

 片手には三叉の槍を持つその姿から、サハギンと呼ばれる魔物だろうと推測される。



「くっ!? このままじゃ……」


 数分海面を浮いているが、天井がかなり近くなって来た。

 魔力を足場に浮いている状態だが、それもその内意味がなくなりそうだ。


【諦めて海中で戦え!】


 サハギンは自分の戦闘力に自信があるらしく、俊輔が海中に沈むのを待っているようだ。

 自分の有利な状況で戦えるのだから、それも分からなくはない。


「……仕方ない」


 相手の土俵に引き込まれるのは癪に障るが、敵を倒すにしてもこのままでは埒が明かない。

 なので、俊輔は海中での戦闘をする事にした


“スッ!!”


 酸素がなくては流石の俊輔でも長い戦いは出来ない。

 それを解消するべく、俊輔は魔法を使って顔周りに空気を纏わせ、海中でも呼吸が出来るようにした。

 そしてそのまま足場の魔力を解除して、海の中へと沈んで行った。


【さて……、始めようか?】


 エラ呼吸できるからか、サハギンは海中でも話せるようだ。

 沈んで来たのを確認したサハギンは、槍を構えて俊輔と対峙した。


【ハッ!!】


『速い!?』


 流石海中の魔物といった所か、水中での移動速度はかなり速い。

 縦横無尽に動き回ると、三叉の槍で俊輔を刺突してきた。


『っと!?』


 俊輔はその攻撃を小太刀で防いだ。

 しかし、水の抵抗からか、ほんの僅かに動きが鈍る。


『チッ! 結構動きにくいんだな……』


 戦闘の事も考えて、呼吸用に纏った空気は多くない。

 無駄にしゃべりその空気を減らす訳にはいかない。

 頭の中で水中での動きにくさを体験した俊輔は、舌打をしたい気分だった。


【どうだ? 海中では思い通りに動けんだろ?】


 俊輔が水の抵抗で僅かに鈍る動きに戸惑っているのを確認したサハギンは、愉悦の表情と共に攻め立ててきた。

 槍の攻撃だけでなく、水の刃のような魔法を放ち、俊輔を翻弄する。


【海中で私に勝てる者などいないのだ!!】


 魔法も、槍による攻撃もかなりの威力があり、俊輔は僅かに鈍る状態でありながらも二刀の木刀で防御に徹した。

 防戦一方で何も出来ない様子の俊輔に、サハギンはテンションが上がる一方のようだ。


【くたばれ!!】


 これまでの海中移動もかなりの速度だったが、まだ本気ではなかったらしく、水魔法を併用しての高速移動を行い、俊輔を仕留めようと猛烈な速度で距離を詰め、槍で突き刺しに来た。 


「……お前がくたばれ!!」


【がっ!?】


 今までの速度にも対応できなかった俊輔に対し、突如の急加速。

 仕留めたと確信していたサハギンの予想とは裏腹に、俊輔も今までが嘘のように高速移動をして攻撃を躱し、ほぼ無防備のサハギンに木刀でカウンターを食らわせた。

 凝縮した魔力の刃を纏った木刀を見事に食らったサハギンは、その一撃だけで胴を斬り裂かれて真っ二つになった。


【……な、なんで……?】


 ずっと俊輔は防戦一方だったのにも関わらず、何故自分の攻撃が躱されたのか理解できないサハギンは、最期に疑問の言葉を口にした。


「慣れたから……」


 特に答えてやる必要がないのだが、俊輔は簡単に答えを返した。

 防戦一方だったのは水の抵抗による誤差を確認するため、それが把握できたから俊輔は反撃を開始した。

 サハギンが反撃を意識していなさ過ぎて、逆に罠かと思くらいだった。

 水魔法で移動を補助する事は簡単に思いつく。

 調整は難しいが、俊輔なら使いこなせる。

 どうしてサハギンが自分だけの技だと思っていたのか分からないが、ともかく守護者が倒せた。


「スゥ~……、ハァ~……、空気って大事だな……」


 サハギンが死んで消え去ると、天井まで上がっていた海面が下がって来た。

 いつまでも動きにくい海中にいても意味ないので、魔力を張って足場にし、これまで通り海面の上に立ちあがった。

 纏っていた顔周りの風魔法を解除して、俊輔は空気を思いっきり深呼吸した。

 纏った空気はまだ少し余裕があったので、苦しくなる前に倒せたのだが、何故だか空気の有難みを感じた俊輔だった。


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