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第139話

「ハッ!!」


「っと……!」


 20層の守護者は蜂型の魔物だった。

 大した言葉を交わさないうちに宙を舞い、尻に生えている針を飛ばしての攻撃を俊輔目掛けて発射してきた。

 前回の時、守護者の中には一歩室内に侵入した瞬間に攻撃をしてきた者もいた。

 その経験から油断なくいたので、突然そんな攻撃をされても俊輔は慌てる事は無かった。

 発射してはすぐに生え、生えては発射して、マシンガンのように連続で発射される攻撃をされても俊輔には通用しなかった。

 前後左右上下にと、ガンガン飛んで来る針を俊輔は余裕をもって躱し続けた。


「おのれ! ちょこまかと!」


 室内に入って来た俊輔の表情から、油断しているように思い先制攻撃を開始した蜂だったが、俊輔が全く苦も無く躱し続ける事に歯噛みした。


『遠距離攻撃が得意なタイプか……』


 戦闘開始して僅かな時間だが、武器を持たずに先制攻撃してきたところを見ると、恐らく針と魔法を使って遠距離で仕留めるタイプなのだと判断した。


「ハッ!!」


 俊輔の回避速度を見て、このままでは当たらないと判断したのだが、蜂はまたも同じく針攻撃を行って来た。

 しかし、本気を出したのか、先程より倍ほどに飛翔速度で飛んで来た。

 それでも、俊輔は苦にする事無く躱し続けた。


『そろそろ仕留めるか……』


 もしかしたら罠なのかもしれないが、蜂は針攻撃以外の攻撃をしてくる気配がない。

 意地のように針で攻撃してきている今の内に倒しておこうと、俊輔はここでようやく木刀を抜いて仕留める事にした。


「針攻撃を躱したくらいで調子に乗るんじゃないよ!!」


 俊輔が木刀を抜いたことに反応した蜂は、魔力を纏った両手を地面に向けて放出した。

 魔力が放出された地面には、幾何学模様の魔法陣が浮かびあがった。

 

「召喚か?」


「その通り!」


 その現象には昔から馴染みがある。

 始めてみたのは、子供の頃日向の村の破壊に来た魔族のホセが使った召喚の魔法陣だ。

 すぐにその事を言い当てた俊輔に対し、守護者の蜂は口の両端を吊り上げながら答えた。


「……スズメバチ?」


 出て来たのは前世でも見た事のある昆虫、黄色に黒の警戒色、熊をも殺すと言われるスズメバチだ。

 魔法陣からはおびただしい程のスズメバチが出て来ていて、召喚した蜂の指示を待つが如くホバリングしている。


「こいつらに刺されればあっという間にあの世行きよ!」


『……っていうかお前メスかよ』


 出現した大量のスズメバチは、守護者の蜂のコントロール下にあるらしく、蜂が指す人差し指の通りに周りを不快な音を立てながら飛び回っている。

 そんな事気にせず、俊輔は蜂の言葉遣いからどうでも良い事を考えていた


「アナフィラキシーショックってやつが狙いか……」


 スズメバチに刺されて死ぬと言えばアナフィラキシーショックと、すぐに想像できる。

 簡単に説明すると、刺された事により全身の蕁麻疹や嘔吐などがおこるアナフィラキシー症状、それが悪化して呼吸困難、意識障害になりアナフィラキシーショックに陥る。

 

「余裕もいつまでもつかな? お前ら、殺れ!!」


 スズメバチが出てきてもあまり慌てた様子が無い事が面白くないが、ハッタリだと思った蜂の守護者は指示を出して俊輔への攻撃を指示した。

 指示を受けた無数のスズメバチは、様々な角度から攻撃を加えようと俊輔に向かって飛来した。

 危険とは言え、ただの毒バチなど大したことない……とは言い切れない。

 むしろ図体がでかい蜂の魔物の方が、多少移動が速くてもでかい分だけ攻撃が当てやすく、倒しやすい。

 スズメバチは小さい分速く感じ、魔物よりも対処しにくいかもしれない。

 しかも数が数だ。


「フンッ!!」


 しかし、俊輔には通用しない。

 迫りくるスズメバチを目にすると、俊輔は鼻を鳴らし、仁王立ちしたままスズメバチたちを木刀で斬り捨てる。

 小さいがために面倒ではあるが、今更毒もちとは言えただの蜂など相手にならない。

 木刀一本振り回すだけで、近寄るスズメバチは次々死滅していき、俊輔の周囲に死骸の山が積み上がって行くだけだった。


「どんどん行くわよ!」


「面倒だな……」


“ボッ!!”


 第一波を難なく始末した俊輔に、先程の倍以上の数をまた召喚した蜂が第二波を送り出してきた。

 こんな虫相手に時間をかけているのが馬鹿らしく感じた俊輔は、魔法を放つべく人差し指を立てた。

 向かって来ていたスズメバチは、俊輔の側まで飛んで来ると何もせず落ちて行った。

 俊輔の周辺を高温にし、熱によって死んだだけだ。

 スズメバチはミツバチを餌として捕まえる事があるが、ミツバチもやられっぱなしではない。

 一匹のスズメバチに対して何匹ものミツバチが球状に取り囲み、熱によって殺すというのは有名な事だ。

 その事から、熱で殺せば良いと周辺温度を変化させたのだった。

 変化させた俊輔も熱にやられたら笑えないので、ちゃんと自分は冷気を身に纏わせたので何ともない。


「なっ!?」


 使役していた蜂の方は俊輔が何をしたのかよく分かっていないのか、驚愕の声を上げていた。


「ならば……」


 しかし、蜂はすぐに気を取り直し、俊輔に次の攻撃をしようとした。


「もういいよ!!」


「っ!?」


 そんな事をさせるつもりがない俊輔は、蜂に一気に近付き、木刀で袈裟斬りにして殺した。


「さてっ、次行くか……」


 斜めに肉体を二つに斬り分け、魔石も破壊された蜂の守護者は地に崩れ落ち、全く動かなくなった。

 それを確認した俊輔は、木刀を腰に差し戻し、開いた次への階層への入り口向かって歩き出した。






◆◆◆◆◆


 一度同程度のダンジョンを攻略した経験からか、俊輔はそれほど苦労する事無く次々と階層を攻略していった。

 拠点で目を覚まし、皆と朝食を食べ、午前中は上層階で京子の訓練、拠点に戻り昼食を食べ、午後は一人で攻略を進め、腹が空いたら拠点に帰って夕食を食べ、就寝する。

 そんな日々を続け、30層は熊、40層は蛇の守護者を倒して難なく攻略を進めていった。


“ドサッ!!”


「フ~……」


 そして50層の守護者である巨大蟷螂(かまきり)を退治し、一息ついた。


「ようやく半分か……」


 ここまでの攻略に4か月の月日が経過していた。

 このまま順調にいけば、最下層までは1年前後といった所だろうか。


「前回に比べれば5分の1ってところだけど、先は長いな……」


 この月日で、ネグロの付きっ切りの教育の賜物と言っていいのか、アスルも最近では拠点付近の魔物相手に戦えるようになって来た。

 京子も1~9層までを一人で難なく攻略できるほどに強くなってきた。

 そろそろ10層の守護者と対戦させてみようかと考えている。

 それらは確かに喜ばしい事なのだが、はっきり言って淡々と攻略していくしかない事がとてもつまらない。

 そもそも、いろんな土地で美味い料理を食べたり、美しい景色を沢山見たいなどの理由で旅行をしていたのに、今更ながらに油断した自分が恨めしい。

 階層ごとに違うステージなので気が多少紛れるが、死と隣り合わせな場所を楽しめるほど呑気ではない。


「また温泉浸かりたいな……」


 温泉掘り当て、家族仲良く楽しんだ数時間後に死のダンジョンなんて、なんか一周して笑えてくる。


「野菜が手に入らないのも困ったものだな……」


 不満はもう一つある。

 いまだに植物系の魔物が出てこない。

 一応地上には野草が生えているので、それを食べる事でどうにか我慢しているが、沢山の種類がある訳でもなく、料理のパターンが少なくなってしまうので困っている。

 そんな事をボ~っと考えながら51層目に入った。


「…………」


 見渡す限り水だった。

 51層に入ると一歩先が一段下がっており、そこには水面が広がっていた。

 キレイな水だが、そこが全く見えていない事から相当深いのだろう。


「……海水?」


 あることが気になり、座り込んで手ですくって、一舐めしてみると塩辛かった。


「……ってことは?」


“ザッパーン!!”


 俊輔がこの階層の魔物を予想した時、正解が海面から飛び跳ねた。


「……………………魚だ!!!」


 予想通りの存在を発見し、俊輔は一気にテンションが上がった。

 海に囲まれた孤島の前回と違い、森ばかりの今回のダンジョンは野菜もないが、魚介類もなかった。

 前世も今世も魚が好きな国に生まれ育った俊輔は、魚を口にできない事も不満だった。

 半年近い期間食べていないので、魚を食せると分かったのだからそうなっても仕方がない。


「片っ端から捕まえる!!!」


 テンション上がり、俊輔は鼻息荒く入り口の地を蹴り上空に飛び上がった。


“ザパーン!!”


 ジャンプをして落下してくる俊輔を、海中から餌だと勘違いしたのか、一匹の巨大魚が俊輔目掛けて跳び上がって来た。

 俊輔を一飲み出来そうな巨大な口を広げ、巨大魚はその顎で俊輔に襲い掛かった。


「魚~!!!」


「ッ!?」


 もう単純に食料としか見えていない俊輔は、若干血走った目つきで飛んで来た魚の頭を思いっきり木刀で打ちつけた。


“バシャン!!”


 頭を凹まされて落下した魚は、プカプカと浮かびピクリともしなくなった。


「収納!!」


 打ちつけて海面に落下した俊輔は、水の上に着地し、魔法の袋の中に巨大魚を収納した。

 これはそれほど特別な事はしていない。

 足の裏と海面の間に魔力の板を作り出す事で浮いているだけだ。

 忍者で言う所の水蜘蛛の術をイメージした水面歩行術だ。


“シュルルル……!!”


「……っ!?」


 巨大魚を収納し終わったばかりの俊輔に対し、足の下から何か殺気を帯びたものが向かって来たので後方へ飛び退いた。

 飛び退いて攻撃してきた物を見ると、俊輔は目の色を変えた。


「タコじゃーーー!!!!」


「ッ!?」


 俊輔はタコが大好きだ。

 前世ではタコ料理を肴によく飲んだものだ。

 その好物が目の前に現れたのだ。

 嬉しさから涎が溢れるのを我慢し、ものすごい速度でタコへと接近して木刀で突きを放った。


“ボヨ~ン!!”


 そのタコは思ったより防御が高く、俊輔の突きが跳ね返された。


「チッ!! 仕方ない……」


 さっきと同じ場所まで跳ね返された俊輔は、タコの無駄な抵抗が癇に障り舌打をうった。

 打撃耐性が高いようなので、打撃で仕留める事を止めた。


「ライデ◯ン!!」


 他にもいるであろう魚たちが上がって来るのを、いちいち待つのは時間がかかる。

 なので、俊輔は電撃系の魔法を放ってタコもろとも周辺の魔物を始末する事にした。

 テンションのせいなのか、電撃を落とす時にあの有名な呪文を唱えた。


“バリバリ…………!!”


「「「「「ッ!!!?」」」」」


 俊輔の予想は的中した。

 放った電撃によって、タコだけでなく水中にいた魚たちも感電死したらしく数匹浮いて来た。


「大量だ~!!」


 今日の夕食どころか数日分の魚介類を手に入れ、俊輔は大喜びしたのだった。


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