第138話
「集中が足りないぞ!」
「そんな、事、言ったって!」
昨日の約束から京子を地下へ連れて来た。
しかし、京子の不注意からアリの集団に早々に見つかってしまい、突如の戦闘になってしまった。
京子の訓練の為にも、俊輔は向かってくる蟻の半分を受け持っているのだが、京子は集団で迫って来る蟻たちに苦戦していた。
俊輔があっという間に蟻を倒し終えても、京子は息を切らしつつ、まだ多くの蟻と戦っていた。
「キシャー!!」
「まずっ……」
残り少なくなって来た時、京子の背後の地面から1匹の蟻が飛び出してきた。
俊輔も前回手こずったのと同等ぐらいの強さをしている蟻の魔物達相手に、苦戦しつつも対応しているのは素晴らしいが、残りが少なくなって来たことで油断してしまったのか、突如背後に現れた事には反応できなかった。
“ズバッ!!”
そこで、俊輔が動き京子の背後に出現した蟻を一瞬で斬り殺す。
「あ、ありがと……」
「礼は良いからすぐに警戒しろ!」
「う、うん!!」
俊輔に助けられたことで、京子は安心感からか一瞬気が緩みそうになる。
それを俊輔はすぐさま引き戻すために、少しきつめに注意した。
「ふ~……、疲れた」
蟻の集団を倒した2人は、一端地上に戻ってきた。
何ヶ所か切り傷を負ったが、大した怪我をする事なく戻って来られて、京子はほっとしていた。
「京子は探知がまだ十分じゃないな」
そして、反省会を行いながら拠点に向かって歩いて行った。
「ここは探知がかなり重要な技術と言ってもいい」
前回もそうだが、ここの魔物は強力な魔物がほとんどだ。
探知が不十分で察知が遅れたら、即あの世行きになってもおかしくない。
更に、下層に行くと魔物だけでなく罠の探知などもしっかりしないとならなくなるので、俊輔は今のうちに練習をしておいた方が良い事を伝えた。
大陸に来てからその事を注意してきたし、京子も俊輔に言われた事だからか真面目に練習をしているのは分かっている。
こんな所に入るような事が無ければ、そのまま練習して行けばよかったのだが、ここだと危険を回避するためにもじっくり練習しているわけにはいかない。
「探知の範囲と精度を高めないと、いつまでたっても一人で行動させられないからな」
「うん!」
俊輔が安心して攻略に当たるために、京子とアスルにもある程度の実力アップを図ってもらいたい。
京子もその事は分かっているので、素直に俊輔の言う事に頷いた。
「午後はネグたちの側で探知の練習に当ててくれ」
「うん。分かった!」
“ポッ!!”
「…………」
俊輔たちが拠点に帰ると、ネグロの指示の下、アスルが魔法を練習を開始していた。
魔闘術の練習だけだとまた眠ったりしてしまうので、魔法の練習もさせる事にしたようだ。
しかし、魔闘術もほんの僅かな時間しか使えないほど魔力のコントロールが拙いので、火の魔法を放つが小さな火種ぐらいしか出なかった。
ネグロの魔法をイメージして放ったのかもしれないが、ひどい結果にアスルは落ち込み方が半端なかった。
「ピー……」
落ち込んでしまったアスルが不憫に思い、ネグロは慰めてあげていた。
「俊ちゃんは?」
「11層から先の攻略に行ってくる」
昼食を食べ終わり、京子達がそれぞれ練習を始めようとする中、俊輔は転移の魔法を使って移動しようとしていた。
それに気づいた京子は、俊輔の予定を聞くことにした。
「気を付けてね!」
「あぁ!」
午前に挑戦した1階でもかなりの厳しい場所だと理解した京子は、その先を進む俊輔に注意の一声をかけておいた。
返事をした俊輔はそのまま転移していった。
◆◆◆◆◆
11層から先を攻略している俊輔には、前回と違う事で困っている事がある。
「植物系の魔物が出てこないかな……」
前回の11層から先は、色々な種類の植物系魔物が出現した。
しかし、今回は同じようにはいかず、虫系の魔物が頻繁に出現してきた。
「肉なら何とか確保できているんだけど」
そう、食事の問題が出て来たのだ。
前回と違うのはもう一つあり、前回は周辺が海だった事から魚を捕まえる事も多かった。
しかし、ここの場合熊などの肉に関しては問題がないのだが、植物系の魔物が出てこないので野菜が不足している。
京子は「えっ? 大丈夫じゃない?」などと何でもないように言っていたが、毎日肉料理な事に俊輔は流石に飽きて来ていた。
「あいつ肉食女子だからな……」
別に野菜が嫌いだという訳ではないのだが、京子は結構な肉好きだ。
肉料理が続いてもあまり気にならないようなのだから羨ましい。
「せめて米でもあったらな……」
前世でも今世でも米が主食の国で生まれ育った俊輔としたら、せめて肉料理で米を食いたい欲求が湧いてきて仕方がない。
現在主食は念のため入れておいたジャガイモ数十個と、パンが数個魔法の袋に入っているくらいで、2ヵ月もてば良いくらいである。
無くなった時の事を考えると、出来れば何か代わりになる炭水化物を見つけたいところだ。
「虫は流石に食いたくないな」
虫を食べる文化がこの世界にもあるらしいが、出来れば俊輔としたら避けたいところだ。
前世で我慢して食べられたのがイナゴの佃煮くらいで、他の虫料理などはどうしても食べる気にはならない。
虫はたんぱく質の摂取にはかなり良いという事は分かっているし、そういった文化があるのを否定するわけではないが、いざ食べろと言われても勘弁願いたいものだ。
“ズズンッ!!”
「……でっけぇクワガタだな」
虫料理の事を考えていたら、体長2m位のクワガタ型の魔物が俊輔の前に出現した。
夏に官林村の近くの森で見つけようと探した思い出があるが、ここまででかいと捕まえたいいう気持ちも起きないものだという事を知った。
明らかに俊輔を敵だと判断しているのか、巨大クワガタはガン見をしてきた。
「ギギ……!!」
巨大クワガタは、まるで威嚇するようにハサミの部分を動かしながら俊輔に近寄って来た。
「おっと!?」
ゆっくりと近付いて来たと思ったら、急激に加速して俊輔を挟み殺そうとした巨大クワガタの攻撃を、俊輔は後方に飛び退いてその攻撃を回避した。
「ギッ!?」
得意な技だったのか、緩急つけた攻撃が失敗した事で巨大クワガタは焦った様な声を上げた。
確かにかなりの急加速だったが、俊輔からしたら大して驚くような速度ではない。
京子の全速力の方がまだ少し上と言ったくらいだ。
「ハッ!!」
“ズバッ!!”
巨大化した分、クワガタには腹と地面の間にはかなりの高さが存在する。
先程と同じように攻撃してきたクワガタに対し、その攻撃を躱すと共に身を低くして、俊輔はそこに潜り込んだ。
そして、木刀によって思いっきりクワガタの腹を斬り裂いた。
背中側の堅い皮膚を一撃で倒すのは失敗する可能性があったので、まだ装甲が弱そうな腹を切り裂くことを選択した俊輔の狙いは成功し、巨大クワガタは腹から体液を巻き散らしつつ倒れ、次第に動かなくなっていった。
堅い皮膚やハサミが素材として使えそうなので魔法の袋に収納し、俊輔は先を進んで行った。
虫ばかりの階層を進んで行き、俊輔はこの領域に入ってから10日目で20層の入り口の前に到着した。




