第130話
「人が温泉でのんびりしてるって時に現れやがって……」
夜中の森の中をゆっくりと歩きながら、俊輔は誰に言う訳でもなく愚痴をこぼしていた。
そして、少し木々が開けた場所に着くと立ち止まった。
「……っで? お前たちは何しに来たの?」
誰もいない場所に話しかけ、少しの間動かないでいるとある者たちが姿を現してきた。
「……この距離を気付いたのか?」
まず、中肉中背で茶髪黒目の男が姿を現した。
顔の見た目や雰囲気からはなんとなく利発そうに思える。
「ネストールを殺っただけはあるな……」
次に、細身で長身、茶髪碧眼の男が現れた。
何となく粘っこい視線で俊輔の全身を眺めつつ呟いていた。
「しかも神級魔石を使ったにも関わらずな……」
最後に、黒髪で茶色い目をした男が現れた。
身長的には一番小さいが、全身筋肉の鎧を纏っているような肉体をしている。
「神級魔石? あぁ、あの魔石か? すんげえ魔力が詰まった魔石だったな……」
最後に現れた男の発言に引っかかった俊輔は、一時首を傾げたが、何のことだかすぐに理解した。
少し前に戦った魔族が、自爆の威力を高めるために見慣れない魔石を使っていた。
聞いた事もないような魔石の名前で、思いついたのがそれしかなかったからだ。
その事を思い出すと同時に、その時自爆した魔族がネストールと言う名前だったこともついでに思い出した。
「私の名前はセルブロ。我々はネストールと同じお方に付く者たちだ」
「エステバンだ。ネストールの仇を討ちに来た!」
「ハコボだ。ネストールを合わせた我々4人はあるお方の幹部として行動していた」
中肉中背の男、長身痩躯の男、筋骨隆々の男の順番に話してきた。
「……差し詰め四天王ってとこか?」
自己紹介的な物をされた俊輔は、なんとなく思った事を問いかけた。
「確かにそう言ったように呼ぶ者もいるな……」
俊輔の問いにセルブロが、なんとなく自慢げな表情で答えを返した。
「じゃあ、ネストールとか言うやつは最弱だったとか?」
四天王という単語を出した時から、俊輔はお約束の言葉が聞けるのではないかと、内心ワクワクしていた。
そのせいか若干フライング気味に問いかけてしまった。
「奴が最弱だったら3人では来ていない!」
「……ごもっとも!」
エステバンの言葉を聞いて、俊輔は何だかあっさりと納得してしまった。
前世で読んでいた漫画とかだと、大体四天王は弱い順に現れて来るイメージが強かったため、実際にそういった事が起きるとは限らないという事に気が付いたためだ。
「奴は人造とは言え、SSSランクの魔物であるリンドブルムを捕まえに行ける程の戦闘力の持ち主だ」
「そんなあいつを殺った奴を相手にするんだ」
「四天王の総力を尽くして始末させてもらう!」
そこまで言うと、3人は魔力を放出し始め、魔族としての本性に変化をしようとし出した。
「そうかい……」
わざわざ変身するのを待ってあげるほど俊輔はお人好しではないので、二刀の木刀を抜き攻撃を開始しようとした。
「殺れ! ラーナ!!」「セルピエンテ!!」「ラガルト!!」
“ガサガサッ!!”
「っ!?」
3人それぞれの言葉に反応するかのように、無数の蛙、蛇、蜥蜴の上級魔物が俊輔に向かって襲い掛かって来た。
「ずいぶん用意周到な事で……」
魔物たちの攻撃を躱しながら、俊輔は持っている武器に力を込めた。
「……だが、生憎負けるつもりはないんでな!」
前後左右からの同時攻撃を跳び上がる事で回避し、喋りながら下にいる魔物たちに向かって数発魔力の斬撃を飛ばした。
“グシャ、グシャ……!!”
「「「っ!?」」」
斬撃が魔物たちにぶつかると見事に切り刻み、ほとんどの魔物が絶命した。
この間に変身を完了した3人は、自分の手駒の中でも上位の魔物を俊輔にあっさり倒されたことに驚きの表情をしていた。
「驚き過ぎだ! リンドブルムよりも弱い魔物が俺の相手になる訳ないだろ?」
まさかこんなことで3人が驚くことが分からず、俊輔は当然の事を言った。
「なるほど……だが、我々も負けるわけには行かない!」
セルブロの言葉を合図にしたのか、3人は俊輔に向かって襲い掛かって行った。
「ハッ!!」「ダー!!」「セリャ!!」
3人は鬼にそれぞれ扱った魔物が混じった姿をしていて、セルブロは蛙、ハコボは蛇、エステバンは蜥蜴の特徴が出ている姿だ。
セルブロは強力な脚力で周辺の木々を利用して高速で跳び回り、ハコボはメデューサのような蛇の髪を伸ばし、エステバンは太くしなやかな尻尾を鞭のようにして攻撃をしてきた。
「こんなの当たるかよ!?」
代わる代わる息を吐かせないように3人は攻撃を繰り出すが、見切ったようにギリギリの距離で俊輔に躱された。
「ハッ!!」
“ドガッ!!” 「ぐあっ!?」
3人の中でもエステバンの攻撃は躱しやすく、俊輔はまずエステバンの攻撃にカウンターで木刀を振った。
胴をまともに食らったエステバンは、暗闇の森の中に吹き飛んで行った。
「チッ!!」「くそっ!!」
仲間がやられて表情を歪めつつも、セルブロとハコボの2人は、俊輔に反撃をさせる隙を与えないように攻撃を続けた。
「甘い!!」
“ドカッ!!”“バキッ!!”
「「っ!?」」
俊輔からしても2人の攻撃は確かに速い方ではあるが、これぐらいの攻撃は経験済みだ。
2人の連携の僅かな隙をつき、俊輔はセルブロを木刀で胴薙ぎし、ハコボを回し蹴りで吹き飛ばした。
“ガッ!!”
「っ!?」
ハコボを蹴った瞬間の隙を待っていたかのように、最初に木刀で叩き飛ばしたエステバンがいつの間にか俊輔の事を羽交い絞めした。
「擬態か?」
羽交い絞めにされても慌てた様子もなく、俊輔は一言呟いた。
俊輔はこの戦闘中でも、ある程度の範囲に魔力探知を広げている。
そのためエステバンが様子を窺っている事になんとなく気が付いていたが、姿が見えない事で若干反応が遅れてしまった。
ただの攻撃なら躱すなり迎撃をしている所だったが、抱き着い来たことで脅威に感じなかったのも原因かもしれない。
エステバンとしてはそんな事とは気づかず、周囲へ擬態しての敵への攻撃はいつもの手段の一つの為、成功した事に笑みを浮かべた。
「今だ!! 俺ごと殺れ!!」
「「おっ、おうっ!!」」
ネストールを倒す程の実力と、この状態でも慌てない俊輔の態度も相まった事で、エステバンは畏怖を感じ、この機会を逃す訳にはいかないと判断し、自分を道連れにすることを他の2人に指示した。
その指示を受けた2人は、仲間を討つことに躊躇いながらも攻撃する事を選択した。
「むんっ!!」
「なっ!?」
“ドカッ!!” 「ガッ!?」
“ボカッ!!” 「グッ!?」
絶対絶命の俊輔かと思ったが、俊輔は羽交い絞めにされた状態で体を回転させ、エステバンを持ち上げて、向かってきていた2人をエステバンの体をぶつける事で迎撃した。
「せいっ!!」
「うっ!?」
迎撃に成功した俊輔は、エステバンの足を踵で踏み打ち、エステバンが若干怯んだ瞬間に羽交い絞めされていた状態からスルリと抜け出す事に成功し、3人から距離を取った。
「捨て身が好きな連中だな?」
距離を取った俊輔は一息つき、攻撃を受けてそれぞれの姿勢で膝まづく3人に向かって、小馬鹿にしたように先程の策を評定した。
以前戦ったネストールも、結局最後は自爆で相打ちを狙って来た事もあり率直に思った事たが、捨て身の策は内心では結構面倒な戦いになりそうなことを覚悟していた。
前回の自爆の事も視野に入れ、各個撃破する事が最善の策だと判断した俊輔は、少し本気で行く事にした。




