第126話
「まずは、村の防護柵を直す所からかな?」
村長の方から町の復興を頼まれた俊輔たちは、翌日から行動を開始し始めた。
俊輔が魔法で探知した結果、この村の周囲にはそれ程強力な魔物が存在していないようだ。
なので、老人が多いこの村の人達でも、集団で挑めば難なく退治出来るはずだ。
しかし、昨日村に来た時も思っていたのだが、村の周囲に張り巡らされている防護柵が所々壊れていて意味をなしていないようだ。
弱い魔物でも頻繁に侵入されたら、ここの村人たちには対処しきれない可能性がある。
取り敢えず俊輔たちは、村の復興の取っ掛かりとして防護柵を直す事にした。
『ラノベの主人公だと、こういった場合とんでもない土壁何か作ったりするんだろうな……』
歯抜けになった防護柵を眺めながら、俊輔は思い出したように内心呟いていた。
前世にいくつか読んだラノベで、今の俊輔たちと同じように主人公が防護柵を作る作品を読んだことがあった。
同じ状況になって、俊輔はふとそれを思い出していた。
「材料とかはどうするの?」
そんな事を考えていた俊輔の隣で、京子は倒れてボロボロの木の柵を拾って眺めながら、問いかけて来た。
「そうだな~、材料は何にするか?」
その問いに対して、俊輔も材料の事を考え始めた。
「材料を集めるお金は貰ったの?」
「ん? 何か話がずれてるな……」
京子のその言葉を聞いて、俊輔は材料に関して同じ考えをしているはずの京子と、話のズレのようなものを感じた。
「何が?」
京子からしたら普通に思っていた事を聞いていたのだが、会話を止めた俊輔の言葉に首を傾げるしかなかった。
「京子は材料を手に入れるとこから考えてないか?」
「えっ? 違うの?」
どうやら京子は、手作業で作り直す事を考えているように感じる。
それで自分とはズレているのだと、京子の聞き返しで理解した。
「魔法があるだろ? 材料も魔法で作ればいいだろ?」
「あぁっ! 魔法!」
俊輔と京子が生まれ育った日向の国は、大陸の人間とは考え方がかなり違い、生活で僅かに魔法を使う以外使う事がない。
魔力は剣術を生かすために使うものだと言う考えが強いからだ。
子供の頃、俊輔は京子に剣術を教えたが、魔法は全然教えていなかった。
剣術を教えたと言っても、型を教えて自己練させていた事が多かったので、京子の強さは戦姫隊で隊長の篤に鍛えられてのが大きい。
日向の女流剣士の見本のような篤に鍛えられたので、魔法への意識が京子も低い。
だからかもしれないが、今回の防護柵の修復も魔法ですることが最初に浮かばなかったのだろう。
俊輔に言われて、ようやく京子は魔法で修復をすることを思いついたようだ。
「……でも、どうやってやるの?」
大陸に渡ってから、京子が魔法を使う事をあまりしない事に気付いた俊輔は、旅の途中で時間を見つけては少しずつ魔法を教えて来たのだが、まだまだ練習不足が拭えない。
それと、魔法で大事になる柔軟な発想が苦手な京子は、火や水といったイメージしやすい魔法は順調に上手くなっていっているのだが、土を変化させて物を作ることは上達速度が鈍い気がする。
料理の腕が壊滅なのも影響しているのだろうか。
「んじゃあ、やってみるから見てな……」
取り敢えず見本があれば京子でも出来るだろうと思い、俊輔はやって見せる事にした。
“ズズズ……!”
俊輔が立ったまま地面に手を向けて魔力を放出すると、少しずつ土が盛り上がり壁が出来上がっていった。
俊輔がイメージしたのは、前世の自分の実家のブロック塀だ。
コンクリートブロックが積み重なって出来た壁をイメージして、強度を考えて二重にし、2mくらいの横幅と高さで作り上げた。
『こんくらいで十分だろ?』
魔物が存在するこの世界では、いつ強力な魔物のが現れるか分からないが、この村の周囲の魔素濃度では滅多な事で現れるとは思えないので、この程度で済ませる事にした。
はっきり言って、村の防護壁にしてはこれでも結構立派な部類だ。
「柵より壁の方が安心だろ?」
「すごい! さすが俊ちゃん!」
木で作っただけの柵ではなんとなく心許ないので、土を固めて作った防護壁にした。
見た事もない壁があっという間に出来上がったので、京子はキラキラした目で俊輔を見つめていた。
「……じゃあ、京子もこれに繋げて作って行ってくれ」
褒められて若干気分を良くしつつも、一人で村全体の壁を作るのは大変なので、俊輔は京子にも手伝ってもらうよう促した。
「分かった!」
俊輔の頼まれ、京子も俊輔と同じように地面に手を向けて魔力を流し始めた。
“…………ズ…………ズ…………ズ”
「ふ~……!」
俊輔と違い、魔法が練習不足の京子では、同じ時間を使っても10cmくらいの横幅と高さの壁しかできなかった。
しかも慣れていないせいで魔力の消費も早く、京子は一回の行使で軽い疲労を感じているようだ。
パパッと簡単に作った俊輔に対してこれでは、かなり時間がかかりそうだ。
「……京子の魔法の練習にいいかもな?」
どんなに苦手だろうと、魔法は反復練習で上達するものなので、この防護壁作成は京子にはいい練習になりそうだ。
少し作っては休憩をするのを繰り返す京子を見て、俊輔はそう思った。
「ネグも手伝ってくれるか?」
「ピ~♪」
俊輔に頼まれて、従魔のネグロは勿論と言うように嬉しそうに返事をした。
「俺とネグで手分けして直すから、ここは京子に任せるな?」
「分かった!」
急いで作る理由はないが、ダラダラ時間をかけて作る事でもないので、俊輔は効率よく防護壁を作るべく、手分けして作業する事を提案した。
京子はこのまま村の入り口付近を任せる事にして、俊輔とネグロは北から東西に分かれて作成していった。
京子の練習の事も考えのんびり作って行ったので、村周辺の防護壁は一週間ほどかかって作成し終わったのだった。




