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第125話

「あっ!? 見えて来た!」


 俊輔の従魔のダチョウのアスルが引く幌の中から京子は顔を出し、前方に見えて来た村らしき入り口を指さして明るく声を出した。


「何か、あんまり復興は進んでいないみたいだな……」


 京子が指さした方向を俊輔も見るが、魔物を防ぐために作られている柵は所々抜けており、2年前の魔物の襲撃からはまだ完全には回復していない事がすぐに理解できた。


「これじゃあ、温泉も期待できないかもな……」


 魔物の襲撃を起こした魔族も討伐されているし、別に今回は荒事はないはずだ。

 この村に来たのは温泉があるかもしれないから来ただけで、それが無いのならば早々にアルペスの町に戻りたいところだ。


「エルバちゃ……さんは、俊ちゃんにこの村の見てきて欲しかったんじゃないのかな?」


 アルペスの町のマエストロのエルバの容姿に完全にやられた京子は、何とか力になりたいらしく、何故かやる気になっている。

 相変わらず、自分達よりも年齢が上の人間を“ちゃん”付けで呼びそうになっているのが気になる所だ。


「どうぞ。セノシの村へようこそ」


 村の入り口らしき場所に立っていた若者が門番らしく、簡単な受付をして中に入って行った。

 若いと言ってもこの村の中ではなだけで、年齢的には40過ぎたいい大人だ。


「取り敢えず村長の家に向かえばいいの?」


「あぁ」


 エルバから、俊輔たちの事を紹介する手紙を村長に渡すように言われているので、まずは村長の家に向かう事にした。


「まぁ、どうやら温泉もないみたいだし、一泊したらさっさと帰ろうぜ!」


 村の中に入り、俊輔の中に僅かに残っていた期待も消え失せていた。

 活気もなく、老人ばかり。

 以前の姿は分からないが、とてもではないがこの村が発展を目指している気配はないように見える。

 飲食店のある気配もなく、この村で観光をするところはないようだ。






◆◆◆◆◆


「いらっしゃい。アルペスから来たようで?」


 村人に教わり辿り着いた村長宅に向かうと、白髭を蓄えた老人が迎え入れてくれた。

 この老人が村長らしく、腰が曲がり、杖を突いていて、気のせいかもしれないが元気がないように見える。


「これアルペスのマエストロからです」


 簡単に挨拶をした後、俊輔はエルバから渡されていた手紙を村長に渡した。


「エルバからかの……」


 俊輔から渡された手紙を読み始めた村長は、気のせいか読み進めるにつれ次第に表情が明るくなっていった。


「……? 何か嬉しい事でも書いてありましたか?」


 ただの紹介状のはずなのだが、その反応が気になった俊輔は、何が書かれていたのか聞いてみた。


「いやいやありがたい! まさか復興にSランクの冒険者を寄越してくれるとはのう!」


「…………はっ?」


 何の事だかさっぱり分からない俊輔は、頭にクエスチョンマークを浮かべるしかなかった。

 せいぜい復興状況の確認の為に、使いに出されただけだと思っていたので、それも当然である。


「見てもらって分かる通り、この村は今老人ばかりでの……」


 首を傾げている俊輔たちを放って置いて、村長は急に話し始めた。


「元々何もなかった村だったんじゃが、温泉が湧き出た事で他の町から沢山の若者が来てくれるようになったのじゃ」


「はぁ……」


 お年寄りの昔話を止める訳にもいかない雰囲気を感じた俊輔は、軽い相槌を打ちつつ、そのまま話を聞くしかなかった。


「2年前の魔物の襲撃で若者たちは怪我を負ったり、田畑を壊されてしまったため泣く泣く他の町に働きに行かなくてはならなくなってしまったのじゃ」


「zzz……」


 俊輔の頭に乗っている丸烏の従魔のネグロは、話が長いせいか静かに寝息を立てている。

 うらやましい限りだ。


「特に温泉が潰されたのは痛かった。ほとんどが温泉目当てに来ていた客だった為に、売りもなくなり寂れて復興も全然進まない状況なのじゃ」


「……そうですか」


 京子は真面目に聞いているようで、村長の話に深く頷いたりしている。


「……という訳で、やり方は任せるから、村の復興の方よろしく頼むのじゃ!」


「…………えっ?」


 右から左に聞き逃していたら、いつの間にか復興作業をするように言われてしまい、俊輔は驚いて聞き返してしまった。


「任せてください! うちの俊ちゃんにかかれば復興なんてチョチョイのチョイです!」


「…………はっ?」


 まだ理解が出来ていない俊輔を差し置いて、京子はあっさりと村長の依頼を受けてしまった。


「いや、いや、いや……、何で俺たちが何の所縁の無いこの村立て直さなくちゃならないの?」


 やる気満々の京子とは反対に、俊輔はただ温泉に入りに来ただけなのでそんなことしたくはない。


「いいじゃない。困った時はお互い様、持ちつ持たれつだよ!」


「…………」


 そういう事はもっと知った仲の場合の話のようにも思えるのだが、何故だかやる気の京子の笑顔を見ていたら否定する事も出来なくなり、俊輔は黙り込んでしまった。


「エルバちゃんのお願いみたいだし頑張ろう!」


「…………」


 村長に先程の手紙を見せてもらった所、エルバが俊輔たちを復興に使っていいとの内容が書かれていて、俊輔たちには報酬は弾むからよろしく頼むと書かれていた。

 エルバの見た目にやられている京子は、エルバの役に立てる事に力が入っているようだ。


「……仕方ない。やるか……」


 何だか分からないが、やり方自由で好き勝手にやっていいのなら、いくらでもやりようがある。

 京子のようにやる気満々とはいかないが、取り敢えずこの村の復興を手助けする事になった俊輔だった。


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