第124話
俊輔たちが一週間ほどの間観光を楽しんでいると、ようやくグレミオから連絡が入った。
「座ってくれなのじゃ!」
グレミオに着き、マエストロの部屋に案内されると、このアルペスの町のマエストロのエルバがソファーへと促してきた。
「お主たちは魔族がらみの仕事をよくしてくれているらしいの?」
ピトゴルペスの町のマエストロのフィトからの手紙にもある程度は書かれていたはずだが、どうやら俊輔たちが観光をしている間に、他のグレミオから俊輔たちの情報を詳しく入手したらしい。
「えぇ……、ちょくちょく旅行の邪魔になるんで……」
旅行の邪魔になるだけでなく、昔からの因縁も少しあるのでついでに退治をしているだけなのだが、笑顔で語るエルバの様子から、結構グレミオには重宝されているみたいだ。
北の国でも、何件か魔族により被害を受けている町や村があるらしい。
それの対処をしようにも、費用対効果の事を考えると国が動くのは難しい。
そのため、グレミオに資金を提供して改善に当たっているのだが、魔族の魔物を操る技術がことのほか厄介で、結構手間がかかっている状況にどこのグレミオも頭を抱えているらしい。
そこへ上り調子の俊輔たちが来たことは、とても喜ばしい事だ
「そんなお主たちに、ここから北にある村に向かってもらいたいのじゃ!」
「……北の村ですか?」
話の流れから言って、魔族関係の仕事を依頼をしてきているのだろうが、何があるのか分からない事には返事をしにくい。
俊輔は首を傾げ、話の詳細を求めた。
「ここから3日程北へ向かった場所なのじゃが、2年前に魔族の襲撃で大打撃を受けた村じゃ!」
エルバは地図をテーブルに広げ、小さい手で指を差しつつ説明しだした。
「一番近いこの町から結構離れている事から、魔族の進行を防ぐのに僅かに間に合わなかったのじゃ……」
そこまで言うと、エルバはシュンとした感じで落ち込んだ表情になった。
俊輔の隣ではその姿に萌えたのか、京子が撫でたいオーラを出しているように思えた。
しかし、今は話の途中なので、その気持ちを抑え込んだようだ。
「この2年、この町からも援助をおこなって来た甲斐あって、大分以前のようにのどかな村に戻りつつあるのじゃが、最近また以前のように、村付近の魔物の様子に異変が起きているらしいのじゃ!」
どうやらそれがまた魔族によるものの可能性があるらしく、エルバは今度こそ被害なく村を守りたいらしい。
話ながら少しずつ熱がこもっているようだった。
「その村の異変の調査と鎮圧をして来いと……?」
「話が早くて助かるのじゃ!」
前に来た時グレミオの受付の女性に聞いた話だが、その見た目のせいか、エルバには信頼できる冒険者は少ないらしく、大きい異変が起きた時に数を揃える事が結構苦労しているらしい。
仕事もできて、魔法の実力もかなりのものらしいのだが、見た目で損をしているらしい。
しかし、その見た目で嬉しそうな笑顔で見つめられると、ロリコンでなくても頼みごとを聞いてしまいそうに思える。
「行きます!」
「おいっ!?」
案の定俊輔が考えるよりも早く、京子は了承の声を上げた。
可愛いもの好きの京子からしたら、エルバの笑顔があまりにかわいらしかったので耐えきれなかったのかもしれない。
「……良いんですけど、その村なんか観光出来る物とかあります?」
一応俊輔は京子の高速の返事にツッコミを入れておいたのだが、断るのもなんだかかわいそうなので、その村に行くためのちょっとした言い訳が欲しくて尋ねた。
「う~ん……、あの村に何かあったかの?」
俊輔の軽い質問に、エルバは首を捻って唸りだした。
行くための口実が出来れば何でもいいのだが、どうやら辺鄙な村らしく、なかなか思いつかないらしい。
「そうじゃ! 2年前まであそこは温泉があったのじゃ!」
考えたすえ、エルバは温泉の事を思い出したらしくポンと手を打った。
「……2年前までって事は今はないんですか?」
エルバの言い方だと、村の詳細な情報は入手していないようだ。
温泉と聞いてざわついた感覚も、一瞬にして消え去ってしまった。
そのせいか、声のトーンも若干低くなってしまったのは仕方がない。
「2年前に温泉も被害を受けたのじゃ……、あれからどうなっているかは分からないのじゃ……」
低くなった声によって、エルバは見事にシュンとした。
「俊ちゃん! エルバちゃ……さんをいじめちゃだめだよ!」
その様子を見て、今まで黙っていた京子は耐えられなくなったかのようにエルバの味方をした。
しかも、完全にちゃん付けで呼びそうになりながらである。
「……分かってるよ。行くって!」
つい先日も京子を怒らせたばかりだ。
あまりエルバをあおって、京子にへそを曲げられたら面倒だ。
潰されたとは言っても、温泉があった事は事実なのだ。
もしかしたらまた掘り起こしている可能性がある。
それを考えたら行ってみるのもいいかもしれない。
「っ!? 本当かの?」
ついさっき落ち込んだと思ったら、俊輔たちが依頼を受ける事を了承すると、エルバはまたも嬉しそうな笑顔に戻った。
『コロコロ表情変えるな……、本当に42か?』
見た目通りの反応ばかりするエルバに、俊輔は内心、以前言った年齢が疑わしく思えてきた。
「それじゃあ、明日にでも出発するか?」
「うん!」「ピー♪」
もしかしたら温泉に入れるかもしれない事に期待しつつ、俊輔たちはセノシと言われる北の村に向かう事に決定したのだった。




