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第122話

 目の前には小さい女の子が立っている。

 身長的には140センチくらいだろうか。

 どう見ても俊輔たちよりも年下にしか見えないこの子が、ここの町のマエストロらしい。


「お主!」


「えっ?」


 思っていた事が顔に出ていたのか、少女は頬を膨らませて俊輔を指さしてきた。


「お主、ワシを子供だと思ったじゃろ?」


「…………いや、別に……」


 完全に図星をつかれ、俊輔は言い淀んでしまった。

 マエストロとは、その町の冒険者グレミオを統括する立場的に、戦力としても優秀でなければならないならない。

 収入の安定しない職業である冒険者の中には、荒くれ者も多くいる。

 そういった者たちを抑えるのには、時として力が必要である。

 それを、こんな子供が出来るのかと思うのは当然思考する事である。


「いいのじゃ! わしがちっこいのは自分でも分かっておるのじゃ!」


 若干拗ねているようにお聞こえる口調で、エルバは少しうつ向いた。


「…………」


 その姿を見た京子は、無言でエルバに近づいて行った。


“ナデ、ナデ……”


 何をするのかと、俊輔は黙って見ていたのだが、近付いた京子はいきなりエルバの頭をなで始めた。

 普通の人が見たら、どういった感情でおこなっているのか分からない無表情でだ。

 付き合いが長い俊輔なので分かるのだが、この時の京子は感情が大爆発するのを我慢しているときの表情である。

 可愛い物が大好きな京子だが、その可愛がり方が時折ちょっとやりすぎる事がある。

 高ぶった感情が、逆にその対象に恐怖を与えることになることが多く、逃げられたりすることが多かった。

 なので、どんなに感情が高ぶっても爆発しないように無表情になっているのである。


「…………?」


 よく子ども扱いされることが多いし、頭をなでられることもあるが、この表情でなでられるのはよく分からず、なでられているエルバ自身、首を傾げていた。


「え~と……、マエストロのエルバ……さんでいいんですか?」


「……そうなのじゃ。そこのソファーに座ってくれなのじゃ!」


 何か流れる空気がおかしな感じになったので、俊輔は話を元に戻した。

 そして、促されるまま指示されたソファーに腰を掛けた。


 先程案内してくれた女性が飲み物を用意してくれ、気を取り直して話し合うことにした。

 

「それにしても……、Sランクの冒険者が来たって言うから会う事にしたけど、随分若いんじゃね?」


「えぇ……」『子供に若いと言われても……』


「…………わしは42歳じゃ!」


「「えっ!?」」


 今度は顔に出さないようにしたのだが、反応で何を考えているのかを察したのか、エルバは自分の年齢を言って来た。

 その予想以上の年齢の高さに、俊輔だけでなく、京子も大きな声を上げた。

 その反応に、エルバはまたもちょっと拗ねた表情になった。


「わしの事はいいのじゃ! ピトゴルペスのマエストロからの手紙を見せてもらったが、ランク昇格の認定をしてほしいとのことじゃったな?」


「……えぇ、そうです」


 年齢のショックに何とか耐え、俊輔は受け答えた。

 その返事を聞いて、エルバは少し暗い表情に変わった。


「わしの所にお主らを送って来るとは、フィトの奴イヤミかの?」


「……? 何の事ですか?」


 エルバの言葉の意味が分からず首を傾げた俊輔は、その意味を尋ねた。


「同じ日向なのに聞いておらんのか?」


「えぇ、何の事だか……」


 突然出た日向という言葉を聞いても、俊輔は特に何も思いつかなかった。


「数か月前に、金藤というSSSランクの者が日向で大暴れしたという話なのじゃが……」


「あぁ! その話が何か?」


 エルバの口から出た名前を聞いて、俊輔たちは一度顔を見合わせ、その金藤を捕縛した張本人たちであるとは取り敢えず伏せて、話の先を促した。


「その金藤たちのランクを上げたのが、ワシじゃ!」


「へぇ~……」


 それで、ピトゴルペスのマエストロであるフィトが、同じ国の日向出身である俊輔たちを紹介したのだとエルバは思ったようだ。

 ランクの昇格には、Sが3都市、SSが5都市、SSSが7都市の認定が必要である。

 俊輔たちがこれまで通って来た町では、金藤たちと関わり合いが無かったのだが、北の国では話が違う。

 金藤たちは北の国の都市で認定数を稼いだため、これまでその話が出る事が無かったようだ。


「驚かんのか?」


「別にランクを上げた人間が悪いわけではないでしょ?」


 特に反応をしない俊輔に、エルバは意外感を示した。

 しかし、それに文句を言われたからと言っても、どうしようもない事なのは分かり切ったことである。

 大げさに言えば、俊輔がこれから何か問題を起こさないとは言い切れない。

 認可した時良い奴でも、時間や環境によって人は良くも悪くも変化する。

 それにいちいち文句を言われていたら、マエストロなんてやってられない。

 ただでさえ面倒ごとが多く、給料的にもそれほど良いわけでもないのだから。


「それに、ここに来たのは別にイヤミではないと思いますよ。旅行ついでに魔族を退治してる流れでここに来ただけですから」


「……そう言えばそんなことも書いてあったのう、今の所昇格相当の依頼がないからのう……」


 手紙をヒラヒラと振りつつ返事をしたが、肝心の昇格の試験が出来そうにないらしい。

 俊輔たちは分からなかったが、実はフィトという男は腹黒い部分があり、時折他のマエストロに面倒ごとを放り投げる事がある。

 そのことからエルバは、フィトのイヤミで俊輔たちを送って来たのかと思っていたが、今回はそうではないようだ。


「じゃあ、それまで観光してますよ」


「……そうかい? それじゃあ、相応の依頼が来たら連絡するのじゃ」


 思わぬ時間が出来たので、俊輔はすぐに観光気分に切り替えた。

 その変わりように若干引きながら、エルバはそう俊輔に伝えた。


「分かりました。お願いします」


 それを受けた俊輔たちは、それでは早速と言わんばかりに、エルバに頭を下げて部屋から去って行ったのだった。



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