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第118話

 魔族の跡地の事件から数日、俊輔たちはピトゴルペスの町の観光を楽しんでいた。


「今日はどこに行くの?」


「ピ~ッ?」


 俊輔の右手はいまだに完治は至っていないが、毎日の治療によって大分治ってきている。

 当初1週間と言った事は本当のような回復速度だ。

 この数日、この町の料理店巡りをしたり、土産物屋を巡ったりして楽しんでいたが、今日はもう昼食を摂っている。

 この時間から出かけるとなると、雑貨店にでも行くのだろうかと予想しつつ京子は俊輔に尋ねた。

 俊輔の頭の上に載っているネグロも、同様の声をあげた。


「なんでも美術館があるらしいんだ。見に行ってみたくてな」


「美術館か……」


 前世では一人旅を良くしていたが、休みの日はいつも遠出していた訳ではない。

 近くにある美術館で、半日ほどのんびりと美術品を眺めて過ごす事もよくしていた。

 家庭を持っていなかったために、好き勝手に生きていたが、その時間を婚活にでも使っていれば、もしかしたら結婚をしてあの日にバイク事故に合う事にはならなかったかもしれない。

 今となっては、たらればの話であるが……

 それはさておき、前世同様美術館に行ってみたくなった俊輔は、京子とネグロを連れて美術館へ向かう事にしたのだった。

 しかし、美術館と聞いて京子は若干表情を曇らせた。


「……まぁ、京子の感性は独特だからな……」


 京子は、見た感じ凛としていて何でもできるような雰囲気を醸し出しているのだが、子供の頃からの付き合いの俊輔は、京子がそんな女性ではないことを知っている。

 はっきり言って、京子は結構雑な性格をしている。

 今も使っている京子の武器の木刀は、俊輔が子供の頃に作って与えたものだ。

 日向で金藤に一度折られたが、俊輔が錬金術で治して強化した物をまた渡している。

 その時も俊輔は相変わらずだなと思ったのだが、京子の使っている木刀は俊輔の木刀と違って刀身が黒くなっている。

 人や魔物を倒すために使い続けたからなのは分かるが、同じく使いまくっている俊輔の木刀は、あまり汚れていない。

 二人の違いは単純に手入れをしているのと、していない差によるものだ。

 京子はそういった手入れをするのが面倒なので、血がついてもそのまんまにしている。

 確かに俊輔が作った木刀は、錬金術で普通の刀以上に強固な武器になっているので、手入れをしなくても劣化する事はないのだが、さすがにもうちょっと大切にしてもらいたいと、あげた方は思うものである。

 その事を言ってみたら、「放って置いても大丈夫ならいいじゃない」と聞き流された。

 雑なのはそれだけでなく、以前も言ったように京子は料理が出来ない。

 食材を切るのは得意なのだが、味付けが壊滅的である。

 調味料を目分量で好き勝手に混ぜるので、とんでもなくしょっぱかったり、辛かったりと、食材を殺す事に秀でた才能の持ち主である。

 その京子の雑な部分は、絵を描いても同じである。

 子供の頃、地面に描いていた京子の絵を見た時、何を描いているのか理解できなかった。


「ゴブリン?」


「……犬だよ!」


 こんなやり取りをするくらい絵心がない。

 そんな京子と美術館は合わないと思った俊輔だった。


「……もしなんなら町で買い物でもしてるか?」


「もぉ! 私たち新婚だよ! いつも一緒にいたい妻心が分からないかね?」


 俊輔が、京子がつまらない思いをしてしまうのではないかという風に考えて言ったのだが、京子はその事がお気に召さなかったらしく、頬を膨らませて俊輔を叱った。


「申し訳ない!」


 言われてみればそうだった。

 まだ新婚なのに気が利かない事を言ってしまったと、俊輔は素直に頭を下げた。


「宜しい。じゃあ、行こうか?」


「あぁ!」


 素直な俊輔の謝罪に満足したのか、京子は楽しそうに前を歩き出した。






「楽しかったね!?」


「そうだな……」


 美術館を出て宿への帰り道、京子はとても生き生きした表情で俊輔の隣を歩いていた。

 そんな京子とは違って、俊輔は渋い表情をしていた。

 それというのも、その美術館に展示されていた絵が抽象画だったからである。

 俊輔は、別に抽象画が嫌いだという訳ではないのだが、タイトルを見ても何が描かれているのか分からない絵が、かなりの高額だという事になんだかしっくりこない感じがするのである。

 そんな抽象画を見て、京子は「何この落書き! 私の絵の方がまだマシじゃない?」と何度も小声で俊輔に話して来ていた。

 その意見に、俊輔は否定する事ができなかった。

 京子が描く絵とどこが違うんだと言われたら、答えを返せる自信がなかったからである。


「zzz……」


 頭の上のネグロは、抽象画は興味が湧かなかったらしく、いつの間にか眠ってしまっていた。


「何にしても、楽しんでもらえてよかったよ……」


 一番絵画に興味がないと思っていた京子が、一番楽しむことが出来たのはいい事だ。

 これを機に、印象画などの絵画も好きになってもらえるとありがたいと、俊輔は心の中で思った。

 一人でのんびり絵画を見て回るのも楽しいが、今日のように京子と一緒に色々話しながら見るのも結構楽しいものだった。

 こういった楽しみもあったんだなと、転生して初めて気付いた俊輔だった。

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