第115話
「ううっ………!!」
「いつまで泣いてんだよ!?」
俊輔が取り敢えず無事だという事を確認してから、もうすでに10分近く経っている。
それなのにも拘らず、京子がいつまでも大泣きしている事に俊輔は若干引いて来た。
とは言っても、泣いている理由が自分の事を心配しての事なので、無下にするのは心苦しい。
「だって!! 俊ちゃん右腕が~……」
「大丈夫だって!! 1週間もあれば治せるから!!」
泣いているのが自分の右手が無くなっているという理由だという事に気付くと、俊輔は慌てて声を上げた。
「……………………へっ!?」
「前にも話しただろ!? ネグの羽を再生したって……」
京子に5年ぶりに再開して、実家に戻る道中で時間つぶしに過去の話をしていた時、ネグロの羽を再生したという話をしたはずなのに、京子が右腕が無くなったことに動揺して泣いているのには、慌ててツッコミを入れたのだった。
「そ、そう言えば……」
俊輔の言葉を聞いてその事を思い出したのか、京子はようやく泣くのが止まった。
「せっかく話したのに、ちゃんと聞いてなかったのか?」
泣くのが止んだのは良かったのだが、自分から過去の話をしてくれと言っておいて、覚えていないという感じの京子に、俊輔は呆れた表情に変わった。
「えっ!? ちゃ、ちゃんと聞いてたよ……」
俊輔に問われようやく思い出したのか、京子はそっぽを向いて、惚けたような表情で返事をしたのだった。
「全く……」
魔力を大量消費し肉体的にかなりの疲労感がある中、京子とのやり取りで精神にまで軽い疲労感を受け、俊輔は両方を休ませる為に座り込んだ。
「うっ、ううっ……!?」
そうやって京子とのやり取りをしていた俊輔の耳に、アスルの背に乗せたアマンドの呻き声が聞こえた。
「あっ!? そうだった! アマンドさんのこと忘れてた……」
アマンドも鼻が折れ、かなりのダメージを受けていた。
その事をようやく思い出した俊輔は、傷だらけの体に鞭打って、座ったばかりの体を起こそうとした。
「とっ、痛たた……」
しかし、立ち上がろうとする頭とは反対に、体にはダメージがかなりキテいたようで、軽い悲鳴を上げた。
「ちょ……、俊ちゃんは休んでて良いよ」
口調からは感じられないが、見た目は完全にボロボロの状態の俊輔を休ませようと、京子が制止の声をかけた。
「そうか? そんじゃあ、この回復薬使ってくれ」
俊輔としてもかなり疲れている事を自覚した為、京子の言葉に甘える事にしたのだった。
そして、アマンドに使おうと思った回復薬を魔法の袋から取り出し、京子に差し出した。
「うん!」
返事と共に俊輔が出した回復薬を受け取り、京子はすぐさまその回復薬をアマンドに使ったのだった。
「……うっ、俺は……? 確か……?」
しばらく経って、回復薬の使用によって傷が回復したアマンドは、強力なダメージを負ったせいか記憶が混濁しているような呟きをしつつ、アスルの背から降ろして地面に横にされていた体をゆっくりと起こした。
「大丈夫っすか?」
「ああっ……、大丈……!!? 俊輔君!!? 君右手が……!!?」
意識が完全に戻らない状況だったが、声を掛けられ、その声の方に振り向くと俊輔が片腕を無くした状態で座っている事に気が付いた。
「ああっ……、大丈夫っす。ちょっと時間がかかるけど、再生魔法が使えるんで……」
自分が倒せなかった魔族と戦ってそうなった事に思い至ったアマンドは、慌ててその事を問いかけたのだったが、当事者の俊輔は軽い態度で答えを返してきた。
「……………………君は、そこまで…………」
この数日、俊輔達には何度も驚かされて来たが、再生魔法まで使えると言ったことにまたしても絶句したのだった。
回復魔法や再生魔法はかなりの魔力と練度を要する魔法で、使える人間はかなり限られている。
大体、町に一人居ればいい方である。
そう言った魔法が使える人間は、教会が高額の給金で雇っている為、一般の人達が怪我などをした時は、教会に行ってお布施をして治してもらうようにしている。
再生魔法は、一回で治るという物ではないので何度も通う事で治すのだが、お布施を払わなければならないので高額の資金が必要になる。
しかも、回復魔法の使い手の練度が低い場合、時間もかかってしまうものである。
それが俊輔の口ぶりでは、それほど時間がかかる様ではない。
その事から、俊輔が何度となく練習を積み重ねるような地獄を潜り抜けてきたのだという事に思い至ったためである。
「さてと……、魔族は捕まえられなかったけど、資料は手に入れた事だし、町に帰りますか?」
まだ右手が無くなったままの状態だが、俊輔自身も回復薬を飲んで傷だけは回復させた事で大分楽になった俊輔が、立ち上がると同時に町に帰る提案をした。
「ピピッ!!」「…………!!」
「うん。帰ろう!!」
「……そ、そうだね…………」
俊輔の提案に、元気に態度と返事で答えた京子達と、魔族と俊輔の戦闘による周囲の現状にまだ納得いっていない感じのままのアマンドがためらいつつ返事をし、一行は町へ戻るべく行動を開始したのだった。




