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第111話

「アマンドさん!」


 アマンドと魔族との戦いを離れて見ていた京子は、大分弱っているアマンドを心配そうに声をかけた。


「大丈夫、ちょっと無茶するからもう少し離れていてくれるかい?」


「…………分かりました」


 見るからにもう余力はなさそうなアマンドだが、目はまだ力がこもっている様に見受けられた為、京子は言われた指示に素直に従った。


「…………何だ? 痛めつけられて何か変わったな?」


 アマンドの様子が若干変わった事を察知した魔族の男は、訝しげに呟いた。


“スッ!!”


「お待たせ致しました。ネスト―ル様!」


 その時、魔族の男の背後にローブを纏って顔を隠してはいるが体型から男と思われる4人が現れた。


「おぉ、いいとこに来たお前らあそこの奴らを相手にしろ! 俺はあのドM野郎を殺る」


「畏まりました!」


“バッ!”


 魔族の男……ネスト―ルは、離れた所に居る京子達を指差し、現れた男達に相手にするように指示を出した。

 部下らしき男達は、頷きと共に京子達に向って駆け出して行った。


「まずい! 逃げろ、京子ちゃん!」


 弱っているアマンドは反応が遅れ、京子達に向かう男達を止める事が出来ず、逃走の指示を出す事しか出来なかった。


「くっ!!?」


“キンッ!!”


 京子は、先頭を走って来た男が懐から取り出した短刀での切りつける攻撃を、俊輔特製の木刀で防いだ。 


「!? アスルちゃん!!」


 しかし、2番手を走って来た男が逃走の足になりそうなアスルを先に潰そうと向って行く事を止められず、焦った声を上げた。


「ピッ!」


“キンッ!!”


 アスルの直ぐ側まで迫っていた男の短刀による攻撃を、ネグロが魔力で硬質化させた右脚で受け止めた。


「ネグちゃん!?」


「…………(ネグロの兄貴)!」


 攻撃を止めたネグロの姿を見た京子とアスルは、安堵の表情を浮かべた。


「ピッ!!?」


“キンッ!” “キンッ!”


 アスルへの攻撃を受け止めたネグロを、その一瞬でただの丸烏ではないと判断したのか、残りの2人もアスルに向って攻撃をして来た。

 その2人の攻撃も、ネグロが脚を使って防いだ。

 

「ピピッ!?」


 この3人の男達は中々の実力と連携をしていて、ネグロが反撃をしようとすると1人がアスルに向って近付く為、ネグロは対処に追われて手こずっていた。


「ピピピッ!!」


 今思えば、ネグロは強くなったとは言え遠距離支援の魔法特化の戦闘が得意なタイプであり、ある程度の相手なら俊輔に鍛えられた蹴り技も出来るが、味方を庇いつつの戦いは今回が初めてだった。

 無人島では俊輔をカバーする事があったが、そう言った時敵は大体1体の場合が多く、僅かなタメを必要とする魔法でも援護出来たが、この3人は魔闘術をしながら、魔法を放つ瞬間を見逃す様子無くネグロとアスルを視野に入れて向かって来ている。

 自分だけならどうにか殲滅できる相手だが、すぐ側にはアスルもいる。

 ネグロはどうしたら良いか考えながら、男達の攻撃を防ぐ事に専念したのだった。


「皆!?」


「おっと! 余所見はいけないぜ!」


 防戦一方の京子達を見て、今度はアマンドが心配の声を上げた。

 その一瞬を見逃さず、ネスト―ルが右拳を振り下ろしてアマンドに襲い掛かった。


「クッ!?」


“ガッ!”


 その不意打ちを左手の手甲で防ぎ、ネスト―ルはアマンドをそのまま乱戦にもつれ込んで行った。


「殴られて目覚めたのか分かんねえが、お前じゃ俺には勝てねえよ!」


 ネスト―ルは、手足による連撃を繰り出しながらアマンドを嘲笑った。

 互いに武術による近接戦闘が得意の両者だが、スタイルが少々違い、攻撃をしっかり防ぎ隙を見つけて反撃を繰り出すアマンドとは違い、ネスト―ルは攻撃を受けつつ反撃をすると言う防御度外視の戦闘スタイルを得意としていた。


““ドガッ!!””


「「グッ!?」」


 互いの左拳が互いの顔面に炸裂し、両者ともたたらを踏んで後退した。


「ドラッ!!」


 数度目の相打ちだが、すぐに体勢を立て直したのは、またもネスト―ルだった。

 魔族であるネスト―ルは、アマンドよりも回復力が早く、攻撃を受けても外傷は残っても内面へのダメージが残らないかのようにすぐに反撃を開始してきた。

 この事がネスト―ルがアマンドが勝てないと言った理由である。

 防御意識が低いネスト―ルが、アマンドよりも攻撃を受けても自慢の回復力により平気だと認識した瞬間、防御への意識を攻撃に回した事で均衡が崩れて行った。

 互いに攻撃を受けてもすぐに回復するネスト―ルが、そのタフネスを生かして有利に立って行ったのだっ

た。


“ドガンッ!”


「うっ!?」


 互いに打ち合う中、攻撃を受けたまま振り回したネスト―ルの右フックが、アマンドの防御した両手を弾き、隙だらけに状態に変えた。


「くたばれ!!」


 その隙を逃すまいと、ネスト―ルは思いっきり振りかぶった左拳をアマンドに向けて振り抜いた。


「オラッ!!」


“メキッ!!”“ドガンッ!!”


 ネスト―ルの拳が迫るのと同時に、アマンドは残った魔力を凝縮させ、攻撃を受けると同時に左脚のハイキックを、ネスト-ルの首をへし折るべく気合と共に振り抜いた。

 あまりの両者の膨大な魔力を纏った攻撃の衝突によって、小規模の爆発が起き、クレーターが出来ていた。


““ドサッ!!””


「ハガッ…………!?」


「うぐっ!?」


 攻撃を受けた両者は吹き飛び、2人共地面に大の字に横たわった


「……ぐうっ!」


 ネスト―ルも流石にダメージを負っているが、ゆっくりと立ち上がり、苦し気な声と共にアマンドに止めを刺すべく近付いて行った。


「アマンドさん!?」


「…………フグゥッ」


 アマンドはネスト―ルの拳を受けて鼻と前歯がへし折れ、呼吸も苦しそうに悶え、立ち上がる事も無理な状態になっていた。

 京子は目の前の男から手を離せない状態のままアマンドを心配する声を上げたが、アマンドは返事が出来ずに悶えたままだった。 

 アマンドも、ネスト―ルが言ったように分が悪い事は承知していた。

 その為、少し無茶だがネスト―ル同様攻撃を受ける瞬間、無防備の状態のネスト―ルに渾身の大打撃を食らわせる作戦に出たのだった。

 乱戦中少しづつ京子達から離れ、ネスト―ルの意識が完全に攻撃オンリーになるようにガードを弾かせ、作戦通り全力の攻撃を食らわせたのだった。


「……ま、ひっは、な……(参ったな)」


 鼻が折れ、まともにしゃべる事が出来なくなった状態のアマンドは、地面に横になったままネスト―ルが近付いて来るのを見ているしかなかった。


「ぐぅ、痛てて……、こんな痛みは久々だな。お礼に苦しまずに殺してやるぜ!!」


 アマンドの直ぐ側まで近付いたネスト―ルは、どうやらアマンドの渾身の蹴りを受ける瞬間僅かに上げた右肩に食らう事によって首に受けるのを防いだようである。

 それによって右肩の骨が砕けたようで、右腕は使い物にならない状態になっていた。

 その為、残った左手に魔力を集めると、アマンドに止めを刺す為振り下ろしたのだった。


“ドガッ!!”











「……グブォ!!」


 突然強力な衝撃を受け、ネスト―ルは高速で吹き飛び、生えていた木の幹に全身を打ち付け、血を吐いた。


「…………な、何だ……貴様!?」


 ここに居る人間以外にまだ他に居るとは思っていなかったネスト―ルは、目の前にいきなり現れた人間を見つつ問いかけた。


「……すんません、アマンドさん。良いとこ取っちゃって」


 デュランの問いを無視しつつ、その人物はアマンドに話しかけた。


「ひゅんふへふん(俊輔君)……?」


 現れたのは俊輔だった。

 リンドブルムを相手にしているはずの俊輔が突如現れた事に、アマンドは驚きの表情をして呟いた。


“ドサッ!”


 俊輔が現れた事によって自分が助かった事に力が抜けたのか、アマンドはそのまま気を失って倒れた。


「……こいつすぐに片付けるんでちょっと我慢してて下さい」


 ボロボロになるまで戦ったアマンドへ、気を失っているとは分かっていながらも、労いの気持ちも込めて優しく声をかけ、俊輔はネスト―ルへ向けて2本の木刀を構えたのだった。


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