第108話
寒波襲来! 皆さん体調に気を付けて下さい。
外でアマンドが魔族の男と戦い始めた頃、リンドブルムと対峙していた俊輔は……
「ギャーーー!!!」
声を上げると共に、リンドブルムは俊輔に向かって直径2m程の火の玉を連発してきた。
「おっ! とっ! とっ!」
向かって来る火の玉を、俊輔は慌てることなく躱していった。
“ドガンッ!”“ドガンッ!”“ドガンッ!”
「……あっ!?」
躱した火の玉が研究所内を破壊した音を聞いて、俊輔はある事を思い出した。
「あ~あ……、まだ全部収納してなかったのに……」
火の玉が着弾した事で、収納途中だった研究書類が燃えてしまった事に俊輔は困った顔をした。
俊輔は積み重なっていた研究書書類の半分ぐらいしか回収していなかったのに、火が燃え移りあっという間に灰になって行った。
「この野郎!! ここまで来たってのに無駄足にしやがって!!」
もう少しピトゴルペスの町の観光をしても良かったところを、態々それを後回しにして来た事と言うのに、燃えた書類の方が重要だった場合ここに来た意味がなくなるかもしれない事に俊輔は腹を立てた。
「ぶっ殺す!!」
腹を立てた俊輔は、リンドブルムをさっさと倒す事にし、殺気を漲らせた。
「グルルルル…………!?」
俊輔から溢れ出す殺気を受け、リンドブルムは僅かに怯みつつも唸り声を上げた。
「……………………」
“フッ!”
無言でゆっくりと歩いてリンドブルムに近付いて来ていた俊輔は、一瞬にしてその場から消えた。
「!!?」
その事にリンドブルムが驚いていると……
“ズガンッ!!”
強力な衝撃がリンドブルムの下顎に襲い掛かり、その巨体が僅かに浮き上がった。
「!!?」
かち上げられたリンドブルムがたたらを踏んで体制を整えると、何が起きたのかを理解した。
先程までリンドブルムが立っていた場所に、消えたと思った俊輔が右手の木刀を肩に担いで立っていたのである。
「お~……、思っていたより結構タフだな?」
先程の攻撃だけで意識を飛ばせると思っていた俊輔は、リンドブルムが耐えた事に感心したように言葉を発した。
「グ、グルルルル…………!?」
目の前に立つ小さい生物が放ったとは思えない威力の攻撃を受け、リンドブルムは信じられない事に躊躇いを覚えた。
「人造にしては随分上手く出来てんだな? よく考えたらお前も可哀そうな奴なんだな?」
ここに放置された合成獣達は、その呼び名の通り人為的に作られた存在である。
元々の姿は分からないが、魔物を合成した存在であり、生きているのが不思議な生命体である。
そう思うと、魔物とは言え好き勝手に作り変えられた存在になるなど哀れに思えて来た。
「ガーーー!!」
可哀そうな目でリンドブルムを見ていると、当の本人のリンドブルムは俊輔が隙だらけに見えたのか、矢のように尖った尻尾に電気を纏わせ俊輔を突き刺そうと攻撃をして来た。
その攻撃が俊輔にぶつかると思った瞬間、
「せめてもの情けだ。痛みを感じる事無く葬ってやるよ……」
俊輔が立っていた場所を高速で突き刺した尻尾が通り抜けても、何の感触も感じない事にリンドブルムが目を見開くと、そのすぐ頭上から声が聞こえて来たと気付いた瞬間に意識が無くなった。
「フゥ……」
“ドサッ!!”
俊輔が地面に着地して一息吐くと同時に、体が縦に真っ二つになったリンドブルムが崩れ落ちた。
「…………おっと、早くここを出ないとな」
リンドブルムが確実に死んだ事をジッと見て確認した俊輔は、リンドブルムの吐いた火の玉によって研究所が燃えている事を思い出した。
俊輔なら魔法で火を消す事が出来るが、この研究所は無くなった方が良いと思った為、このまま建物を崩れさせる事にした。
その為、建物が崩れる前に出る事にした俊輔は、リンドブルムの死骸を魔法の袋に収納し、外へ向かって脱出を開始した。
◆◆◆◆◆
「ハァ、ハァ……」
「ハァ、ハァ……、しぶとい野郎だな……」
俊輔が脱出の行動を開始した頃、魔族とアマンドの戦いは優劣が現れて来た。
「まぁ、撃滅とか言われているだけはあったな……」
優勢なのは魔族の男、片膝をついて息を切らしているのがアマンドである。
お互いに接近戦の武術が得意なタイプで、お互い傷を負っているが、アマンドの方が多くの打撃を受けたせいでダメージが大きい。
「ハァ、どうやらちょっと鈍ってる感じだな……」
片膝をついた状態で魔族の男を眺めながら、アマンドは思わず呟いた。
「あれから3年か……、そりゃ鈍って当然か……」
アマンドがSSSランクになったのは4年前、しかしその頃は弟子と共にパーティーで行動していた。
そして3年前からはソロとして行動をしている。
その事でどうしても安全マージンを取った依頼ばかりを行うしかなかった為、ソロになってからは修羅場の匂いがするような依頼には関わっては来なかった。
そのせいか魔族の男の攻撃に僅かに反応が遅く、防ぎきる事が出来ずダメージを負ってしまっている。
自分が予想以上に鈍っている事を悔やみながらも、若干よろけながら立ち上がり、アマンドは魔族の男を見据えたのだった。




