第100話
俊輔達が果たしていた途中で入って来た男は、50代のフィトより少し若い感じの30代後半から40代前半位年齢に見える男性で、何気に歩く足の運びを見る所冒険者の様である。
髪も目も茶色で全体的に少しがっしりした肉体をしている。
身長的には170cm位の俊輔より少し大きい位の高さである。
「おぉ、アマンド」
入って来た男性に対し、マエストロのフィトは軽い口調で対応した。
随分仲が良いように思える。
「おっす。今日はちょっと…………ってお客さんがいたのかい?」
いつもの事なのだろう、フィトと普通に話し始めた男は室内に俊輔達がいる事に気付き、話を途中で止めた。
「あぁ、彼らはSランクの認定を受ける為に来た冒険者の一行だ」
フィトは男に対して俊輔達の事を簡単に説明した。
「へ~、見た所かなり若いのにすごい優秀なんだな」
説明を受けた男は、俊輔達の顔を見て感嘆の声を上げた。
「どうも……」
俊輔達は軽く頭を下げ、視線でフィトにこの男の説明を求めた。
「紹介しよう。彼はこの町を拠点にしているSSSランク冒険者のアマンドだよ。君たちの先輩になるね」
「っ!?」
『このおっさんがSSSランクの冒険者……』
フィトの紹介を受けて、俊輔は少し驚いた。
この町に来たのは観光ついでのランクアップと、近くに在ったと言われる魔族の拠点の調査、そしてもし上手くいったらこの町のSSSランクの冒険者の顔を見る為である。
幾らこの町を拠点にしているとは言え、高ランクの冒険者がいつも町にいる事はあり得ない。
高ランクの冒険者なら、この町を中心にかなり広範囲で高難易度の依頼をこなす事に忙しい為である。
それがこんな簡単に会えるとは思っていなかったために驚いたのだった。
「初めまして、アマンドだ。よろしく」
フィトに紹介された男は名前を名乗り俊輔達に握手をしてきた。
『…………なるほど、肩書通りこのおっさんなかなかやるな』
アマンドとの握手をした時の手の感触から、俊輔は何となくだがその実力の高さを感じた。
見た目はどこにでもいるようなおっさん顔だが、相当な訓練と修羅場を潜り抜けてきたのだろう、その手は厚くて固い感触だった。
「今日はどうしたんだ?」
俊輔と京子だけでなく、俊輔の頭の上に乗っているネグロとも握手したアマンドに、フィトが来た理由を尋ねた。
「フィトさんが言ってただろ? 最近魔族が各地で動いているって……」
「あぁ、確かに言った」
「だから少し前近くの森の中に魔族の住処みたいのが在ったって言っていただろ? そこに何か魔族に繋がる何かがないかと思ってね……」
以前魔族が居た時、フィトが集めた冒険者達によって追い払われた。
その時、アマンドは他の依頼をこなしていたので参加していなかった。
「……それを探しに行くって事か?」
「あぁ!」
この10年位前から、このペラ・モンターナ大陸では魔族が各地で頻繁に問題を起こすようになって来た。
魔族の目的が何かもいまだに分からず、被害を受けた国々は後手に回っているのが現状である。
まだ小さい村が幾つか潰されただけだが、国としてはそれでもかなりの痛手だ。
少しでも多くの情報を集めてほしいと、グレミオにも依頼が来ているのが現状である。
「丁度今その事を彼らと話していた所なんだ」
そう言って、フィトはアマンドが部屋に入ってくるまで俊輔達と話していた事を教えた。
「へえ、君たちも行くのかい? それは丁度いい。道案内もかねて僕も一緒に付いて行っていいかい?」
俊輔達も同じ場所に行く事を知ったアマンドは、思いついたように提案してきた。
「……どうする?」
普通のAランク冒険者であるならばSSSランクの冒険者と行動を共に出来る事は嬉しいのだが、俊輔達は観光ついでの目的で魔族を調べているので、あまり真剣に調べている訳ではない。
そこをSSSランクの冒険者の調査の邪魔になるような事になっては、ランクアップなんて出来る訳がない。
その為、アマンドと一緒に行くかどうか悩んだ俊輔は京子に意見を求めた。
「調べるなら人が多い方がいいんじゃない?」
「そう言えばそうだな」
京子に言われ、俊輔は納得した。
フィトに聞いた魔族の拠点らしき場所は結構広範囲だった。
調べるとなると手間が掛かるのは分かり切った事である。
足手まといにもなりそうにないので、ならば人が多い方が楽が出来るのでいいかもしれない。
「アマンドさん、一緒に行きましょう」
俊輔はアマンドの提案を受ける事にし、軽く頭を下げた。
「良し! じゃあ、明日朝6時頃に西門に来てくれるかい?」
「分かりました。それではまた明日」
明日から調査に向かう予定だというアマンドに合わせる事にした俊輔達は、簡単に集合場所を打ち合わせて、まだフィトと話があるというアマンドを置いて室内から出て行った。
◆◆◆◆◆
「…………っで、どうだい? 彼らの印象は……」
俊輔達が去った室内では、フィトがアマンドに興味津々に尋ねていた。
Sランクへのランクアップを査定するのに丁度良いと思ったフィトは、俊輔達と一緒に行くついでにアマンドにその査定を調査ついでに任せる事にした。
その為、フィトはまずはアマンドに俊輔達の第一印象を聞いてみた。
「…………まぁ、握手だけで何もかもが分かる訳ではないけど、ありゃ相当なもんだな……」
「そうか……」
俊輔同様アマンドも握手をした時に俊輔から何かを感じとっていた。
フィトとしても、良く知ってる2人のマエストロが認めた一行なので実力はあるとは思っていたが、アマンドが認める程だという事に認識を改める感じになった。
「まぁ、明日からの調査でもっと深く実力を見るつもりだが、取り敢えずランクアップの用意をして待っててくださいよ」
俊輔達の印象を話し合った後、アマンドも帰る為座っていたソファーから立ち上がった。
そしてまだ調査が終わっていないにも関わらず、俊輔達のランクアップが決定したように言って出口の扉に向かって歩き出した。
「あそこは結構危険だ。お前なら大丈夫だとは思うが、念の為気を付けろよ」
「はいよ!」
フィトの注意に軽い口調で返事を返してアマンドも部屋から出て行ったのだった。




