表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/563

第9話 自己紹介タイム1 芽維たんはサラリーマンの娘らしい

 教室の前のドアが開き、担任が入ってくると、皆きちっと正面を向いた。

 定年間近と思われる、小柄で人のよさそうな男性教諭は、簡単に自己紹介をした後

「では、順に自己紹介をしてもらいましょう」

 と、窓側の一番後ろの席を指名した。後ろから前に行って、次の列後ろから前って順番。ってことで、私は芽維たんの後。っていうか、一番最後だわ!

 何言おうかな。名前と、出身中学でも言うのかな?あと趣味とか?

 ちょっと待て!

 璃々亜である私の趣味って何だ?

 ま、まさか、BLが三度の飯より好きです!一押しカップルは「京×都」です!

 とか、自己紹介できるわけもない!

 っていうか、そもそも、このお嬢様お坊ちゃま軍団に対して「アニメ」や「漫画」が好きですとすら言えるのか?


 ……。運よく私は最後。他の人の自己紹介を参考に考えよう。


「私、皐月幸子と申します。父は世田谷で開業医をしております」

 緊張も見せずに堂々としたものだ。

「世田谷で皐月といえば、あの大病院の?」

「お祖父様は確か医師会の会長でいらっしゃられますよね?」

 ひそひそと話し声が聞こえます。

「何かございましたら、何なりとご相談くださいませ」

 と、閉めの言葉がはいる。ふむ。「お客様の中にお医者様はございませんかー?」的なときは皐月幸子を呼べってことだな。


「相模洋平です。父は文筆業、母は音楽家です」

 シルバーフレームのメガネを押し上げながら二人目の自己紹介。

「芥川賞候補に何度もお名前があがる、あの作家だよ」

「じゃぁ、母親はあの有名ピアニストか」

 また、ひそひそと話し声が聞こえます。

 皆、物知りだなぁ。


 次は、国会議員の娘、次はパイロット、飲食店チェーン社長、弁護士、アナウンサー……、アパレル社長、自動車関連副社長、アナウンサー、再び医者、裁判官。田中は自衛官の息子らしい。階級的には海将補だって。それ、偉いの?将がついてるから偉そうだけど、補がついてるから偉くなさそう。


 っていうか、何で皆出身中学じゃなくって、親の職業言うわけ?この学校のルールなの?

 さーっと、青ざめる。

 私、両親の職業知らない。

 ちょ、白川璃々亜の親って何してんの?

 言わなくてもいいかな?

 あわあわしてる間に、芽維たんの順番になった。

 ぐあっ、次、私だ。どどど、どうしようっ。


「鈴木芽維です。父はサラリーマンです」

 芽維たんの自己紹介に教室が一瞬静まりかえった。

「サラリーマン?どこの会社の?役職は?」

 誰かの質問に、芽維たんは答えている。

 そ、そうだよね?普通は父親の職業知ってるよね?どうしよう……

「知りませんわ、そんな会社。どこの中小企業ですの?」

「係長ですって、もしかして、私たちと住む世界が違う方かしら?」


 お嬢様お坊ちゃまたちから、ヒロインへの定番「庶民のくせによくこの学校によく通えますわね」が始まった。

 くすくすとあざけるような笑い声と、馬鹿にした目が芽維たんに注がれる。

 青ざめる芽維たん。

 かわいそうだけど、ごめん、今は自分のほうが顔が青い自信がある。


 どーぉしよぉーーーっ!自己紹介できないぃぃ~!


 無常にも、芽維たんが椅子に座ってしまう。

 ソレを見てのろのろと立ち上がる。

 教室は、まだ芽維たん庶民いじりが続いてざわついている。よし、こ、この隙にさっさと終わらせよう。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ