第86話 嘉久の格好はおかしいらしい
同人誌即売会(夏コミ、冬コミ)に興味のない人にはごめんなさいな話が2話続きます・・・。
ふんふんふふんっ。
明日は、イベント、イベント。あ、同人誌即売会じゃないけどね!トイレなんとか展だけどね。
それでも、行き先は……。
東京ピックサイトだよー。
はぁ。荷物の準備しなくちゃ。夏コミは暑さ対策、冬コミは寒さ対策が必須だけど、今は春だ。
春なので、対策もそれほど必要ない。
水分補給のための飲み物と、栄養補給のための携帯食。食事の時間ももったいないからね!おなかが空いたらもぐもぐ気軽に食べられるもの必須です。
って、この家にないものばっかり!いいや!会場付近で買い揃えよう!
さてと、次。
カメラ……は、スマホでいいか。もともと、コスプレ撮影あんまり興味ないし。
え?大丈夫ですよ。同人誌即売会じゃないのは分かってますよ。
だけど、ほら、そういう展示会って、商品PRのために、綺麗なおねぇさま方がコスプレチックな服着てたりするよね?
え?それはゲームの祭典限定?いやいや、車の祭典のときのニュース映像とかでも見たことあるよ?
何?トイレなんて、せいぜい、プロレス超人的なベンキー男くらいしかいないだろうって?マジか!
それから、戦利品入れる袋。これ大事。
あ、そうだ、買ったじゃん。私、百貨店で買ったよね!
タイヤころころついた、スポーツバックみたいなやつ!ナイス!ナイスだ私!
それから、えっと、スケブ。スケッチブックのことね。
って、ないよ!あきらめるか。ちっ。
って、いらないじゃん、いらないよね?イベント(同人誌即売会)行くんじゃないんだよ!
カバンも要らないジャン!戦利品って何よぅ!BL同人誌とか、BL同人誌とか、BL同人誌とかだけどね!
いくらトイレのことならなんでも分かるってトイレなんとか展だって、トイレでいちゃいちゃBL本は置いてないに違いない。同人誌描写用トイレ3Dデータの販売すらないだろうな。ま、私は読み専だから、描かないけど。
さて。もしかして、東京ピックサイトに行くのに、特別な荷物って必要ないとか?
うそっ!ナニソレ、聞いてない!
あ、うん。誰とも会話してないから、聞いてないんだけどね。
次の日、朝食が終わった。
「じゃぁ、荷物を用意して、9時に来るからそれまでに璃々亜も準備しておいてくれ」
嘉久が帰っていった。
準備ねぇ。着替えて、軽く化粧しておしまい。
そうだ、会場でかなり歩くだろうから、靴だけは歩きやすいのしっかり選ばないと。
「早川さん、長時間歩いても疲れない靴を出してもらえるかしら?」
まぁ、最悪、田中くんに選んでもらったランニングシューズがある。
ん?あれ?
せっかく選んでもらったのに、まったく使ってないよね?……。
田中くんに、履き心地とか聞かれても答えられないよ!ああ、どうしよう!
今からちょっと走ってくる?着替えて走ってきてまた着替える時間には微妙だ……。
ごめんね、田中くん。ちゃんと使うからさ。本当だよ?3日坊主でもなんでもちゃんと走るから。
ん?あれ?
変装用だったよね?なんで、走ることに?
「待たせたな」
やってきた嘉久の格好がおかしい。
「その、首から提げた立派なカメラはなんですの?」
まるで、コスプレイヤーの写真をばんばん撮るカメコみたいですけど……。
「もちろん、資料用の写真を撮影するためだ」
なるほど。資料用ねぇ。トイレの写真集を作るつもりですね。
「では、その胸に抱えたスケッチブックはなんですの?」
同人作家さんに「スケブお願いします!」て頼む人みたいですけど……。
「もちろん、メモをとるための紙だ。ノートではぺらぺらで使いにくいし、図表や簡単な設計図、見取り図など色々と使いやすいだろう?」
うん、まぁ、合理的と言えば、合理的なのかな?
「では、その両手に下げてる紙袋はなんでしょうか?
かろうじて、アニメ絵じゃないからましだけど。それ、戦利品を袋いっぱい入れて両手に持ってる戦士見たいな絵面ですけど……。
「ああ、パンフレットなど色々ともらう予定だからな。丈夫な袋を用意した」
あー、そうなんだ。パンフレットか。確かに、パンフレット類って無駄にいい紙使ってるから、集まると重たいよねぇ。
ん?なんか、今、いやぁな想像が……。
「璃々亜、ちょっと持っていてくれ。メモを取りたい」
スケブを片手になにやらメモを取り出す嘉久。
私に手渡される、パンフレットぎっしりの紙袋。
「すまん、頼む。撮影したいからな」
でっかい一眼レフデジカメを両手で構える嘉久。
私に手渡される、パンフレットぎっしりの紙袋2号。
「おお、次は、あれを見に行こう!」
張り切って歩き出す嘉久。
両手に紙袋を持って後を追いかける璃々亜。
まてーい!
女性に荷物を持たせるとかありえないから!いや、別にいいけど、攻略対象である真摯な男であるべき人間としてあるまじき行為!
って、まぁ、想像だけど。でも、なんか、猪突猛進っていうか、目標物見つけたら、すぽっと色々忘れそうな嘉久だし……。
私もそうみたいだけど、荷物は普段お付の物が持つことが多いみたいだから……。
ぐぬぬっ。その先の未来は、紙袋の底が抜けて、立ち尽くす私の姿しか見えないっての!
「嘉久様、少しお待ちいただいてもよろしくて?」
玄関に嘉久を待たせて、部屋にダッシュ。あ、いや、お嬢様はダッシュはしません。心持早足。
「何だそれは?」
戻ってきた私の手には、ころころ付きのスポーツバック。
「ご存知ありませんか?カバンですわ」
「それは見れば分かる」
あ、そう。
「パンフレットをいただくと、重たくなるでしょう?それをこのカバンに入れて運ぶのですわ」
「いちいち、カバンの口を開いたり閉じたりしなければならなくて不便じゃないか?紙袋なら、その手間が省ける」
ああ、なるほど。嘉久も嘉久なりに考えた末に紙袋だったわけね。
……って、金持ちが紙袋って……。他になんかなかったんかい!
「重たい荷物をずっと持ち歩くのは大変でしょう?このカバンは、こうして、縦にして取っ手を引き出し、タイヤを転がして持ち運ぶことができるのですわ」
嘉久が、紙袋をぽいっとしやがった。
おい、投げ捨てるな!
「すごいな。スーツケースみたいに移動できるのか!確かに、重たいものを入れても楽に運べるな。それに、取っ手を収納すればスポーツバックのように肩にかけて運べるのか。なるほど。すごいな!」
裏に向けたり表に向けたり、嘉久が、カバンを隅から隅まで確認している。
ふっ。まだまだいろんな便利カバンを私は知っていますけどね!
イベント(同人誌即売会)には、ツワモノが大勢いますから!
「璃々亜、よくこんな素晴らしい物を持っていたな」
!
「え、ええ、まぁ……。先週、百貨店で見つけて買ったのですわ」
「だが、璃々亜は何に使うつもりだったのだ?」
もちろん、戦利品(BL同人誌)を入れて運ぶために決まってるじゃないの!
……。
あ、うん、イベント(同人誌即売会)に行く予定はないけどね……。
「いざと言うときのためですわ」
「でかした、璃々亜!」
……。嘉久にとって、トイレうんぬんがいざなのか。それはそれは……。
ご覧いただきありがとうございます。
衝動的に買ったカバンが役にたってよかったね。
次回、璃々亜の言動に嘉久の心乱れる!
璃々亜、初めてのコンビニで買ったものは?




