第84話 メレンゲの気持ちは複雑らしい
「なぁ、璃々亜、今日は部活で、何を作ったんだ?」
車に乗り込むなり、兄が期待に満ちた目で質問してきた。
「メレンゲです」
嘘じゃないよ?
「メレンゲを使って、何を作ったんだ?」
「今日は、メレンゲを作る練習をしただけです」
本当に嘘じゃないよ?
「じゃぁ、お菓子は作らなかったのか?」
「ええ。ずっと卵をあわ立てていましたわ。腕がだるくなりました」
「そうか……」
がっかり顔の兄。
何か食べられると思ったのか。残念だったね。
まぁ、あわ立てたメレンゲを使って先生がシフォンケーキを作ってくれたけどさ。
それ、もう全部田中くんに上げたし。
田中くんは、運動部で体動かした後で、お腹ぺこぺこだったのか、おいしそうにぺろりと食べてくれた。
兄に上げたとして……はたして、あんなにおいしそうに食べてくれただろうか?
……。
うん、なんかすごいものが作れるようになるまで、兄にはあげるのやめよう。やっぱり、せっかく作ったらおいしそうに食べてほしいもんね。
お世辞でおいしいとか兄なら言うだろうけど、お世辞なんて嬉しくないやい!
夕食時に現れた嘉久。
「璃々亜、今日は部活で、何を作ったんだ?」
「メレンゲらしい」
と、兄が答える。
「メレンゲ?それをもう敦也兄は食べたのか?」
……。
嘉久、メレンゲが何か知らないのか。
「いや、食べてない」
「そうなのか!」
嘉久が嬉しそうな顔をする。
「俺が一番に食べてやるよ!まずくったって気にするな!ちゃんと食ってやるから!」
ドヤ顔の嘉久。
まずい前提で話を進めるな!
なんと、デリカシーのない男だ!こりゃ、もてないぞ!
あ、もててるけど。くそっ!何でだ!
男は顔なのか?家柄なのか?
「まずいわけないだろう。璃々亜が作ったものなら世界一おいしいに決まってるさ」
と、兄のフォローが入るが……。世界一とか余分な単語をつけるから、逆に単なる慰め臭が半端ないです。
兄も、私が失敗すること前提にしてません?
いいさいいさ。
「私、先生から家でもメレンゲの練習をしなさいといわれておりますの。嘉久様さえよろしければ、練習で作ったメレンゲをいただいてくださいますか?」
にっこりと微笑んだ。
メレンゲだけもらって嘉久どうするんだろうなぁって、ちょみっと黒い顔になってませんよね?今の私、ちゃんと笑顔ですよね?
「お、おおうっ」
嘉久が、顔を赤くして言葉に詰まる。
私?黒い顔出てた?
「嘉久、言ったからには、おいしくいただけ」
「ああ、もちろんだ」
いや、兄も、メレンゲはお菓子の材料になるんであって、完成品じゃないって教えてあげなよ……。
「欲しいって言ったって、食べさせてやらないからな!」
何!ちょ、ちょ、ちょ、その台詞、脳内録音!
欲しいって都キャプテンが言うの?
京様は食べさせてあげないの?
あはん。なんて隠微な……。うふ、うふ。今日もおいしいボイスをありがとう。
お礼に、嘉久にはメレンゲを使った簡単なお菓子を作ってあげましょう。
砂糖を入れてあわ立てたメレンゲを焼くだけの、メレンゲクッキー。
ココナッツを入れるとまたおいしいんだ。
「食べたいって言ってもだめだぞ!」
「ああ、食べたいとは言わないさ」
ぐはっ。
何二人とも、食事前に、隠微な会話続けてるのさーっ!録音、録音、録音。
はふぅ。こりゃ、兄にもお礼にメレンゲクッキーあげなくちゃね。う腐っ。
揚げナスの、ひき肉餡のせ。
うわー、初めてだよ。揚げナスといえば、大根おろしが定番だったから、ひき肉餡、どんな味だろう。
ナスを箸で一口サイズにして、たっぷりひき肉餡をのせて口に運ぶ。
まず口の中に広がったのは、ごま油の香り。
「ああ、そうだ璃々亜。明日なんだが、一緒に過ごせなくなった」
それから、肉のうまみ。揚げたナスをかめば、揚げ油が餡にまじり、ナスを包み込む。餡からは鶏のうまみ。鶏のひき肉だけじゃない。鶏がらスープを元に餡が作られているんだ。
おいしい。
「聞いているのか?璃々亜?」
だから、何度言ったら分かるのだ、嘉久よ。
ん?
あれ?
一回も言ってないか?
きょとんとして首をかしげる。
あ、しまった。
嘉久が、ぼとっと箸からなすを取り落とす。
「璃々亜!」
と、兄がちょっと焦った声をだす。
そうでした。食事中にしちゃだめな顔でしたね。失礼。
何度言われても忘れちゃいます。てへり。
ご覧いただきありがとうございます。
えー、お正月ですが、小説内ではまだ4月です。入学してから10日ほどしか経っておりません。でも、84話らしいです。
だ、大丈夫。説明部分が多かっただけで、ここから先はきっと、もうちょっとスピードアップするはず・・・




