第78話 食堂に自動販売機を入れるらしい
「相談なんだが」
夕食中に兄が口を開いた。
今日のメインはカツの卵とじだ。
カツ丼を、ご飯とカツを分けたようなメニュー。丼にしないのがセレブ流なんだろうか?
私としては、カツの油が溶け出し、いい具合につゆと交じり合った汁を、たっぷりご飯にしみこませて食べたいのですが……。
皿から箸で救い上げた、玉ねぎと卵ののったカツは、どうしても汁が少ない。
はー。
相談って、茶碗を丼に変えて、カツ丼にしてもいいかって話でしょうか。
でしたら、両手を挙げて賛成するんですが……。
「相談?何、敦也兄が珍しい」
「まぁ、相談というか、意見を聞かせてほしい。放課後に、食堂で何かを食べることについてどう思う?」
ん?どう思うか?
「別に、よろしいのではありませんか?食堂なんですし、もともと何かを食べるための場所でしょう?」
それ以外にどう答えろというのか!
「もしかして、ゴミの問題か?」
と、嘉久。
ふあっ、ゴミ?
そういえば、昼食ではゴミ減量運動絶賛開催中でしたね……。よくそこに思い至るなぁ。
確かに、昼食でゴミを一生懸命減らそうとしてるのに、放課後に食堂を使った人間がゴミをばんばん捨ててては駄目だろうけど……。
今日の、放課後の食堂の様子を思い出す。
カップラーメンをおいしそうに食べていた先輩がいたなぁ。
カップ焼きそばを食べようとしていた先輩もいた。
それから、せいぜいパンとか栄養補助食品的なものだよねぇ。食べてたのって。
ゴミって言ったって、せいぜい、カップラーメンですくいきれなかった短い麺や具などの生ゴミが少しと、カップやパンの袋などのゴミが少々だよね?
「ゴミがさほど出るようなものを食べてはいなかったようですけれど……。もし、問題というのであれば、持って帰れるものは極力持ってかえっていただくようにすればよろしいのではありませんか?」
流石に、スープが入ったままのカップラーメンを持って帰るのは難しいけど……。
……ああ、今なら、スープも全部ごくごくいただける自信がございますわ!
底に残っている、1センチにも満たない麺のかけらまでもぐもぐしたい!
「いや、ゴミの件ではなく……。特待生の一部から、食堂で勉強中に小腹を満たすために、持ち込んだ食料を食べたいと……」
ああ、やっぱり、彼らは特待生さんでしたか。学校に残って勉強って熱心ですよね。
まぁ、分からないことは先生にすぐ尋ねられるし、冷暖房完備だし、テレビとか気が散るものないし、公立の図書館のように席取り合戦しなくていいし、塾と違って無料だし、いい環境ですよね。
「見苦しいとか、匂いが深いとか、食べていない人に思われることはないだろうか?」
え?だから、食堂で、それって思う人がだめだよね。
それとも、お嬢様お坊ちゃま方は、勉強しながら食べるというお行儀の悪さを目にするのがいやなの?
もしくは、私のように……。うらやましすぎて、目に毒だとか?匂いをかぐとお腹が空くからやめてくれとか?
うん、まぁ、お嬢様が、匂いにつられてお腹がぐぅ~とか、羞恥プレイかもしれないけど。
私?私は、食堂に行く前にお菓子部で焼き菓子をつまんでいたから助かったよ。あ、今度からどうしよう……。
「なるほどな」
って、嘉久、何がなるほどなのだ!
私が、お菓子部に入部したのはお菓子をつまむのが目的だとでもいいたいのか!
「大方、体に悪そうなものを食べてるのを見るのは目障りだとか、貧乏くさいものを目の前で食べるなとか、学園に相応しくないとか文句を言う奴がいたんだろう」
体に悪い……確かに、カップラーメンは……良いわけではありませんが……。
「食事として毎日いただくには、確かに体に悪いかもしれませんが、おやつ代わりではありませんか。お腹が空いては頭が働きませんもの。少しでも効率よく勉強をするために、お腹を満たして勉学に励む。そこまで熱心に勉強している方々に対して学園に相応しくないなんていう人など、放っておけばよろしいのですわ!」
はっ!
すっごく、すっごく、すっごくいいこと考えちゃった!
あー、もう、私ってば天才!
「お兄様、いっそのこと食堂に軽食の自動販売機を置いてはいかがですか?」
「自動販売機?」
ふふふ。私の口は、兄を言いくるめるために全力疾走です!
「カップラーメンやパンなどの自動販売機を置けば、学園が彼らが食べているものに文句をつけないというアピールになりますでしょう?売っているのに食べるなとは変な話ですから」
「そんなものを置くなという反対があるんじゃないのか?」
嘉久、うるさい!
私がカップラーメンを食べるためのアイデアをじゃますんなっ!
「一般常識のテストがございましたでしょう?そこで、皆様、散々だったではございませんか?社会勉強のため、小銭を使って自動販売機で品物を買う経験は必要でしょう?もちろん、買うという行為を経験できるだけではありません。物の値段を知ることもできますし、庶民の味を経験することもできますわ!そういった、貴重な経験を学園内で出来るのです。路上に置かれた自動販売機で戸惑って恥をかくこともございません」
私の口は、まだまだ止まりませんよ?
嘉久も兄も、そうだなーって顔してるけど、どうかなーって感じで、もう一押しってとこだ。
「例えばですわ、クリスマス。イルミネーションを見に行こうと、意中の女性を誘ったとします。流石に街中のイルミネーションですから、二人で歩いて見て回りますわよね?寒いです。ホワイトクリスマスになりそうな日です。寒くて、手袋をしている手も指先が冷たくなっています。そこで、『ちょっと待ってて』といって、自動販売機で暖かい缶コーヒー、いえ、ココアでもなんでもいいのですが、買って、手を温めるために手渡すなんて、素敵だと思いませんか?それを、自動販売機で買った経験がなかったばかりに、1万円札が使えず買えないとか、間違えたボタンを押して冷たい飲み物が出てくるとか、そんな恥かしい思いをしたいですか?」
ふんっ!
冷たい飲み物を間違えて押しちゃった場合はだな!
都キャプテンなら「こっちの方があったかいよ」って、京様の手をとって、そのまま手を繋いで自分のぽっけに入れるけどな!
失敗は最大のチャンスなのだよ、ふふふの腐。
「で、で、デートか……」
「璃々亜は、クリスマスにイルミネーションを見に行きたいのか……」
二人とも、論点違う。
私はたとえ話をしただけで、クリスマスの話などしていない!
「そうだな、自動販売機の設置を検討してみよう」
「ああ、敦也兄、暖かい飲み物をちゃんと自動販売機に入れないとな」
……あの、暖かい飲み物は、重要事項じゃないですよ?
「カップラーメンを食べていた生徒が睨まれることも、これでなくなるだろう」
兄が、うんうんとうなずいた。
誰ですか!カップラーメンを食べただけで睨むとか心の狭い人は!
いつもありがとうございます。
璃々亜ーっ!おまえだ!おまえ!
・・・・と、何人が心の中で突っ込みをいれたことか。
あ、でも結果オーライですね。自動販売機でカップラーメンを買って食べられる日がくるかもしれません!ふふふふふふっ!




