第76話 手芸部には宝箱が落ちているらしい
「持ち物……エプロンじゃ、駄目なんですよね?」
芽維たんが素朴な疑問を口にした。
うん、分かるわ。今時、割烹着って……。どこに売ってんの?って感じだよねぇ。
「エプロンですと、制服が汚れてしまいますので」
先輩の言葉に、ハッとなる芽維たん。
超高級制服が汚れたら大変だよぅ。
「パティシエの服は注文もできますよ?どうなさいますか?」
んー、部室を見渡して考える。割烹着姿の先輩とパティシエ服姿の先輩は半々だ。
章子先輩はパティシエ服着てた。で、それに見合った腕してた。
私は……。お菓子作り初心者だ。格好だけ立派なのって、ちょっと恥かしい。
……実力伴ってないと、コ・ス・プ・レ♪みたいだし。ああ、それもいいかもしれない。
コスプレ。ふふふ。コスプレ。えへへ。
「私は、割烹着にいたしますわ」
コスプレもいいけど、やっぱり着替えるのもめんどくさいからいいや。割烹着は上から着るだけだしね!
「わ、私も璃々亜さんと一緒で」
と、芽維たん。
ふあ?それって。私に合わせてってこと?
だ、だったらパティシエの服にすればよかった。黄色のスカーフとエプロンとか似合いそう!見たかったよ!
「割烹着でしたら、この後手芸部にお立ち寄りになるとよろしいですわ」
え?手芸部?
「こちらを持って行けば分かりますわ」
と、籠に入った焼き菓子を手渡された。
焼き菓子を持って手芸部の部室に顔を出す。
手芸部も、新入生への説明をしているようだ。そのうちの一人が私たちに目を止めて席を立った。
「あなた方は、お菓子部の進入部員ですね?どうぞ、こちらへ」
?
「少々お待ちくださいね。割烹着はどちらにしまったかしら?」
手芸部の奥には、準備室のような小部屋があり、そこに通された。毛糸や布など、手芸の材料が入り口の左側のスチール棚に山と積まれている。そして、その何倍も右側の棚や、正面の棚にダンボール箱や衣装ボックスが並んでいる。棚に収まりきらずに床に置かれたダンボールもある。
「こちらの箱だったかしら?」
ダンボールの一つを床に下ろし、蓋を開ける。
ふ、ふわぁっ!
こ、これ、見たことあるよ、ゲームで。
あのね、あのね、洞窟とか入ると、落ちてるの。開けるとね、中からキラキラしたの出てくるの。
うん、これ、宝箱だよね?
ダンボールの中には、キラキラが詰まっていた。
「うわぁ、素敵ですね!」
芽維たんもキラキラに目がキラキラ。おっと、駄洒落が。
「気に入ったものがあったら、差し上げますわ」
「「いいんですか?」」
私と芽維たんの声がハモル。きゃはっ。シンクロ率100%ですね!流石親友!
……あ、まだ親友ではありませんでした。先走り!てへりっ。
箱の中のキラキラに手を伸ばしす。
それは、高そうなビーズで作られたアクセサリーだった。
たかがビーズと侮ることなかれ。スワロフスキーをはじめ、高級ビーズってすごいんだよ!
本物の宝石みたいに繊細にカットされて磨かれたガラス。それが金属に止められてるのなんて、ぱっと見じゃぁ、本当に宝石みたいなんだから。
指輪だったり、ネックレスだったり、ゲームの中の宝箱、いや、海賊の隠した財宝みたいに、ダンボール箱にあふれてる。
私も、芽維たんも、たくさんある中から、気に入ったものを一つずつ手にした。
「本当に、いただいてもよろしいんですの?」
確認すると、逆に質問された。
「本当に、もらっていただけるんですか?」
え?
ま、まさか、これ、呪いのアイテムじゃないよね?
「念のため言わせていただければ、本物ではありませんよ?」
「え?」
「本物の宝石ではございませんけど、よろしいのですか?」
な、何?意味がわからないよ。
「本物だったら、逆にもらえませんよぉ」
と、芽維たんが至極もっともなことを言う。
そうだ。本物の宝石をほいほいもらうとかないから。いくらくれるって言っても、もらえないから……。
「そうですか、安心いたしました。これらは、卒業した先輩方の作った作品です。自由にしてよいということなので、どうぞ」
「こんな素敵な作品なのに、なんで置いていったのですか?せっかく作ったのに……」
芽維たんの言葉に、手芸部の先輩が苦笑する。
「作るのは楽しいのですが、その……、身に着けることもできず、誰かに差し上げることもできず、飾っておくわけにもいかず、かといって捨てるには忍びないと部室に置いていかれたものなのです……」
くっ。金持ちめ!
本物の宝石じゃないと、身につけるのが恥かしいっていうのかい!
本物の宝石じゃない物を、人にプレゼントするのは恥かしいってのか!ぐぬぬっ。
なんか、お嬢様も大変だね。本物の宝石なんてさ、色にも大きさにも限りがあるじゃない?
ガラス玉の方が、色も形も自由。こんなに、かわいいのがいっぱいあるのに。オシャレアイテムとして使えないの?もったいない。
「えっと、もしかして、このダンボールの箱の中は、全部?」
「ええ、先輩方が置いていったものですわ。そちらには確か、編みぐるみ、そちらの箱にはテディベア。あちらは確か……レースにキルト。そちらには革細工のキーケース。3ヶ月ごとに先生が変わるので、色々なものを作るのですわ。作るのはとても楽しいのですが、実用に向くものを作る機会は少ないのでこのように作品がたまってしまうのです……」
うわー、そうなんだ。
私なんて、作ったら全部自分で使いたいけどなぁ。
璃々亜の部屋を思い浮かべて、手作り品で飾った姿を想像してみる。
あ、インテリアに合わない……。う、ううう、ううううう。
オタ部屋には似合いそうなんだけど、なんだろう、璃々亜の部屋では浮いちゃう気がする。な、なんで。
あ、あれだ。幼稚園や小学生の子が作った物を、モデルハウスみたいな部屋に飾ったときの違和感みたいな感じ?
「ああ、ありましたわ」
先輩は、先ほどのダンボールの上に別のダンボールを重ねて置いた。
「これは、毎年4月~6月に新入部員が作るものなのですが……」
箱の中には、どっさりと割烹着が詰まっていた。
「少しでも使っていただければと、お菓子部や料理部にもらっていただいているのですわ」
なるほど。部同士での助け合いということですか!
「お好きなものを選んでお持ちください。洗い替えも必要になるようでしたら、何枚でもお持ちください」
そう言って、先輩は準備室を出て行った。
「なんか、手芸部の先輩たちって豪快だねぇ」
豪快?芽維たん、ちょっと言葉の選択間違ってる気がするよ。
「割烹着買わなくて済んでよかったね」
にこっと笑う芽維たん。
「そうですわね。手芸部に感謝ですわ。どれにしましょう?割烹着にはサイズはありませんわよね?」
一つ出して広げてみる。
「わぁ、色々ありますね!」
言われてみれば、白いシンプルな割烹着もあるけれど、保育園の先生が見につけそうなピンクの割烹着もある。
大きなポケットがつけられたものもあるし、ポケットには赤と白のチェックの布が使われて、リボンがあしらわれたものもある。
「うわー、これ、猫ちゃんついてる」
と、芽維たんが広げた割烹着を見て、動きが止まる。
猫?
それ、猫に見える?
あ、うん、猫、猫だけどね、猫。私には、その猫の額の三日月が気になるんですよ?
それ、アニメのキャラクターじゃないですか?
やだ、他の人に気がつかれないように、猫のキャラクターを仕込むなんて……。
こ、この学校にも、いるんですね!
ナカーマ!
BL好きじゃなくてもいい。オタクでありさえすれば……。
って、卒業生の作品でしたね……。
いえ、現役でもいるかもしれませんよ!だって、前例があるんですから!ちょっと希望が沸いてきましたよ!
メリークリスマス!
璃々亜さん、サンタさんからプレゼントもらったらしい。
「この学校にもオタクいるかもよ」っていう素敵な情報を!
よかったね?




