第74話 白川様、調子に乗りすぎると痛い目を見ますわよ?らしい
「田中様、ちょっとよろしいですか?」
皐月たんが、田中くんの背を推して、教室の隅へ連れて行った。
え?何?
「あの、芽維さん、それは……?」
芽維たんが田中くんの手からとった封筒を指差す。
「あ、うん、なんでもないよ?」
芽維たんの目が落ち着き無く動く。明らかに動揺している。
芽維たんは封筒を背中に隠すと、ごまかすようにえへへと笑った。
何、本当にラブレターなの?
でも、それを何で田中くんがわざわざ「心当たりはあるか」なんて尋ねるの?
……。名前を書いてなかったとか?
ううん、それにしては真っ直ぐ芽維たんに尋ねに来たよね?
知りたいけど、無理に聞き出していい話じゃないよね?ああ、気になるけど……。
教室の片隅では、皐月たんと田中くんがひそひそ話をしている。
何話してるのぉ?
ぐしゅり。
私も知りたいよぉ。
ぐしゅぐしゅ。
という気持ちを抱えながら、あっという間にお昼休みになりました。
「さ、お弁当をいただきましょう」
いつものように、机を後ろに向けて芽維たんの机とくっつける。そして、皐月たんは、食堂へ移動したクラスメートの机を借りてくっつける。
よく考えると、いつも借りる子は同じ。名前は、まだ覚えてない。
あ、うん、ほら、前世オタ、ややコミ障な私、基本的に周りの人に興味が薄いんだよね。
クラスメートの名前を覚えるのって苦手なんだよ。だからね、相原さん、相良さんの名前を覚えたのは、我ながら立派だと思う。
相模くんと相撲くんこと轟くんの名前も覚えてるよ。ドヤッ。ただ……。もう一人、もう一人が……、相なんとかってことは分かるんだけど。
ごめん。忘れちゃった。そんな残念脳ですから、席が近い人といえども名前が覚えられないんですよねー。そもそも、小学校みたいに名札付いてないから、名前を知るチャンスなんて先生に当てられたか、友達同士で名前を呼び合っているところとかしかないわけで……。
この学校、出席番号順とかで並んでないから、余計分からないのよね。……と、言い訳しとく。
皐月たんが、絞りの風呂敷包みを机の上に置く。風呂敷を広げると、ピンクのグラデーションで3段になった保温弁当箱が出てきた。
うお、保温弁当箱を風呂敷にって、意外性がありすぎ!
「今日は体育があったからお腹空いたねぇ!」
お弁当の時間がよほどうれしいのか、芽維たんは尻尾をふりちぎれんばかりに振っている(ように見える)。
カバンの中から、お弁当箱の入った保温袋を取り出すと、ひらりと何かが机の上に落ちた。
取り出すときにうっかり出てきたそれは……。
朝、芽維たんが田中から取り上げた封筒。何がどう引っかかってカバンから出てきたのか、机の上に落ちた封筒は蓋が開き、手紙がすべるように出てきた。
「あわわわっ!」
「はっ」
芽維たんと、皐月たんがまるで競技カルタの選手のようなすばやさで、手紙に手を伸ばす。
な、な、なんてこと……。
必死に私の目から隠した二人の努力もむなしく、私には手紙の一部が目に飛び込んできた。
「え、へへへ」
「あははは」
芽維たんと皐月たんが「見てないよね?」って顔するから、私も何とか平静を装って見てないよって顔をする。
今日もおいしいはずのお弁当の味が全然分からなかった。
手紙……。芽維たんと皐月たんが必死に隠そうとした手紙。そこにみえた文章の一部……。
そこには『白川』の文字と『いい気にな』という文字が見えた。
他は読めなかったけれど、それだけ見れば、何が書かれていたかなんて明らかだよね。
『白川璃々亜、いい気になるな』だろう。
見えなかった部分に何が書いてあるかは分からない。「兄が生徒会長だからっていい気になるな」かもしれないし、「食堂の提案が褒められたからっていい気になるか」かもしれない。
もしかすると……「一般教養のテストで満点だったからっていい気になるな」かな。
もしそうだとすると、満点だったっていうことを知っている人間、このクラスの人間が手紙を書いた犯人の可能性が高くなるから、あまりそれは考えたくない。
これは、やばい。
今は、兄がいるから、手紙での忠告程度で済んでいるが……。
兄が卒業したらどうなるんだろう。
……。もっと、直接的な嫌がらせをされる?
何か裏から手を回して、私を破滅ルートに乗せる?
……。どうしたら、いいんだろう。
なめられないように強気に出る?「この私に対して、何のおつもりかしら?」みたいな?
……おい、それ、悪役令嬢ルートだ。駄目駄目。
じゃぁ、どんどん味方を増やして、一大勢力を形成する?「白川派に逆らうおつもりですか?」
って、だから、それ、悪役令嬢ルート!
えっと、目立たないように教室の隅で一人おとなしくしてる?
ボッチになってどうする!
一つずつ問題を片付けるしかない。
えーっと、一般教養で満点だった件については、クラス皆で一般教養を身につける何かを考えたらいいよね?
次に食堂の件は……。うっ。KHTでキングになれなかったらそれこそ「生意気に提案しといて無駄だったじゃないか」みたいな嫌がらせ受けそう。いやもう、本気で兄、そして嘉久、キングのためにがんばってくれ!あ、うん、私も出来ることはやらなくちゃだよね。
最後に、兄が生徒会長だからいい気になるなといわれてもなぁ。確か6月で交代するわけだから、それまでは……。兄の名を出さない、学校で兄と一緒にいないようにするくらいしかできない。
よし、相チームからまず、一般教養を身につけようプロジェクトをはじめてみるかな?シミュレーションで作った計画でも実行してみる?
KHTの件は、何か思いついたら兄に提案してみよう。ただし、私の名を出すなと釘を刺さないと。
で、最後。兄には学校で近寄るなと頼む。
以上!
「白川璃々亜いい気になってないよ」計画です。
ありがとうございます。
うきゃーっ、兄が涙目になる計画が!




