第441話 それだ!らしい
あら、まぁ。
KHTのルール変更にまで話が飛んでいる。
まぁ、そうだよね。寄付寄贈募金……。お金が直接絡んだ活動が評価を左右し始めたら……「今日は〇〇に募金するからお金を持ってくるように」とかリーダーみたいな人が生徒に強制したりなんかするとまずいし。
ノルマ課せられたりしても問題ある。
義久の活動は……そうか。掃除道具、いろいろ集めてたもんなぁ。
深夜の通販番組見て、ほしいなぁと一度は思ったことのある、あれやこれも、そろえてたし。
そうそう、洗剤系も結構金かけてたよね。トイレ掃除ボランティアで、どれだけきれいにしたのかで印象が変わるなら、確かにお金をかけて掃除道具を買いそろえられる学校が有利になっちゃう。
うーむ。
社会貢献はもともと心。
心技体の、心だもんなぁ。
善行だけど善意じゃないか。
皐月たんはうまいことを言うな。
そりゃ、炎上するか。……この場合は、偽善でも善行しないよりした方がいいじゃんでは済まないか。
その先にKHTがあるが故の……はー。
なんだかな。
そもそも、善意って「いいことしてるんだぞ(ドヤッ)」っていうよりも、ひっそり行う方が「おおお!」ってなる感じがあるもんなぁ。
……。むつかしい。
『ほかの高校生が真似できないことは評価しないってのはむつかしいんじゃないか?』
『あー、確かに、工業高校が自作の太陽光ミニ電車を祭りで走らせてるのも評価されなくなるな』
『確かに、普通科じゃ真似できない』
『雪かきボランティアもダメになるか!』
『雪国ならでわだな!』
『体力ある学校は体力勝負の社会貢献、技術がある学校は技術勝負の社会貢献、金がある学校は金勝負の社会貢献ってか?』
『こうなりゃどんどん寄付してもらえばいーんじゃね?手始めに、5000億ほど俺にくれ!』
『おう!儂には5兆円寄付してくれ』
『俺は現実的に10万でいいや』
『現実的って、おま、もらえるとか本気で思ってる?』
『募金箱持って鳳凰学園の校門前に立ってみる。募金の記事見ました。ご協力お願いしまーすってやれば完璧』
『それだ!』
『それだ!』
『それだ!』
『それだ!』
『それだ!』
『あなたたちより恵まれない子供に愛の手をって言っとけば間違いない』
あー。
この巨大掲示板というのは遠慮ないからなぁ……。
「これは、まずいな……」
兄が眉根を寄せた。
こんな風に困った顔の兄の顔は初めて見たかもしれない。っていうことは、そうとうまずいってことか。
「今後、募金や寄付などすれば、そのたびに言われ続けるということだろう……金かと」
まーた、金出せばいいと思ってって、確かに言われるだろうなぁ。
でもなぁ、出せるなら出さないより出したほうがいいじゃん。
同じだけ儲けてても、出さない人は出さないわけだし。
芸能人の〇〇さんは〇円寄付とか話は耳にしてもさ、もっちゃ設けてるだろう何億部発行の漫画家とかがどこそれへ寄付したとかいう話は聞いたことない。
……使い切れないほどのお金があるなら、寄付すればいいじゃん。たとえ売名行為と揶揄されようと……。
金出せばいいと思ってると言われようと。金すら出さない人間もいっぱいいるんだからさ。
この巨大掲示板で叩いている人の気持ちもわかる。
分かるけど……。
鳳凰学園の生徒たちは、将来経営に携わるであろう人間もたくさんいる。
高校生の間に、寄付する習慣を持つことができたら。
寄付したことで、相手から感謝され、感謝されることに喜びを得る体験をしたら。
そうしたら、経営者となったとき、自分でお金を稼ぐようになったときにも、積極的に寄付する人間になれるんじゃないだろうか?
子供たちが寄付している姿を見て、親たちも動くことがあるのではないだろうか?
「寄付を全面禁止にするか……」
兄がぼそりとつぶやいた。
「お兄様、それは反対ですわ!」
立ち上がって主張する。
寄付や寄贈を禁止にするなんて!
確かに、善意を競うなんて馬鹿げてる。偽善でしかないこともあるかもしれない。
でも、寄付額を争うことで寄付が増えて、助かる人が増えることがまるっきり悪いとも思わない。
まぁ、善意を競い合わせるっていうのはどうなのとは思うけれど……。非難されるからって、善意……いえ、善行を禁止してしまったのでは……。
「寄付や寄贈は続けるべきです」
私の言葉に兄が皐月たんのスマホに視線を落とす。
「いや、しかし……」
分かっていない。
巨大掲示板の声は、ひと際大きく映るけれど……。そこにない声もあることを。
きっと「お小遣い、自分ならもらったもの全部使っちゃうよなぁ、いくらたくさんもらっていても、やっぱり寄付しないだろうなぁ、この子は立派だなぁ」って思っている人だっている。「写真を載せられて叩かれることをわかっているのに、記事の許可をしたって、この子は勇気があるな。みんなも募金しようって呼びかけたかったのかな」とか「先頭きって募金する姿を見せることで、募金者が増えると助かる人がいっぱいいりだろうな。よく考えた行動だよ」とか……。いい風に取ってくれてる人だっているはずだ。
かつて、大好きだった同人作家さん。
私と魂の姉か!と思うほど弱小サークルだったときからカップリングはそうかぶり。好きシチュエーション、萌えポイント、もう何もかも、私好みで……。マイナージャンルの本を書いていた時から大ファンだった。
ある日、メジャージャンルの本を出したら、あれよあれよという間に準大手にまで人気が出てしまった。
有名になったとたんに、大手掲示板でその作家さんの名前が上がり始め……。心ない誹謗中傷がかかれるようになった。
そう、作家さんは……筆を折ってしまった。ブログの最新更新は「辞めます」だった。
……。
辛かった。
ご覧いただきありがとうございます。
今回の内容は……あれですよ、あれ。次回に続く




