第53話 乙女のたしなみ、靴は下駄箱じゃなくロッカーに入れるらしい
月曜日の朝食にも、嘉久の姿はなかった。
お祖父様がまだいらっしゃるので、一緒に食事を取っているらしい。
「どうした、璃々亜?」
「嘉久様が居ないと、少し寂しいですわね」
わずか数日だけど、いつも当たり前のように食卓を囲んでいた顔がないのは寂しい。こんな風に感じるのは、私も璃々亜としてこっちの世界の生活になじんできたせいだろうか。
「何?璃々亜は私だけでは満足しないのか?」
うえええっ?
お兄様の声だけで満足?
そうなの?私ってば、嘉久の声も聞かないと満足できないってそういうこと?
そっか。だから寂しいのか。
「お兄様と嘉久様がお話をしているのを聞くのが好きなのです」
ぐおおーっ。
だって、BL成分摂取してないんだよ?
深刻なBL不足なんだよ?
せめて、せめて、京様ボイス&都キャプテンボイスの、いやらし……じゃない、麗しい声を聞いて楽しまないと。
私、死んでしまいますわ!(大げさ)
いや、もう一度BLに囲まれた生活するまで死ねないけどね!いいんだ。
高校卒業したら、遠くの大学に進学して一人暮らしするんだ!関東から離れた場所ならどこでもいい。
あ、だめだ!おっきな同人誌即売会が定期的にある場所で、同人誌の委託販売しているお店がある場所で、それから、そうそう、腐女子的漫研がある大学っていうのは最低条件だわ!
こうしちゃいられない!
高校生活送りながら、希望の大学を選んでおかなくちゃ。
それも、できるだけ早めに……。
だって、あの両親にこの兄だよ?
一人暮らしなんて許しませんっ!ってなる可能性もあるよね?もしくは毎週末やってくるとか……。
下手したら……。「じゃあ引っ越そう」とか……。一家で大学の近くに引っ越すみたいな……。
金持ちは予想の斜め上の行動するからなぁ。高校三年間を上手く使って、大学進学の根回ししとかなくちゃ。
まずは、腐女子的漫研が充実した大学探しからスタートしなくちゃ。あ、それが国立大学でも進学できるように、勉強がんばらないと。……。
えー、無理。国立大学なんて……無理。ああ、いや、兄に家庭教師してもらえば何とかなるかな?教え方上手だったし。
教え方が上手……。
くふふっ。
ぜひ、兄には嘉久にも色々教えてあげて欲しい。二人の掛け合いの声を聞いてニマニマさせてもらいたい。ぐふふの腐。
おっといけない。またよからぬ妄想に突入するところでした。
正気を戻して兄を見れば、兄は「好きか、私が話をしているのが好きなのかぁ……」とぶつぶつ言っていました。
早く食べないと、遅刻しますよ?
「おはようござ、ごきげんよう璃々亜さん!」
昇降口で芽維たんが元気に挨拶してくれる。相変わらず、ごきげんようは言いにくそうだ。
まぁ、私もだけどね。
「ごきげんよう、芽維さん」
ただ、璃々亜の体が色々なことを覚えていてくれるので、緊張しなければ割りと自然に口が回ってくれる。体が覚えていることというのはありがたくって、文字を書く手も、璃々亜の筆跡を覚えている。頭を使って行う動作じゃないかぎり、自然と璃々亜のしぐさが出てくるわけだ。
だから、姿勢も、ちょっとした動きも、お嬢様っぽくなっているよ?
つい、グラスを持ち上げたときに小指が立つのも、璃々亜がしていたしぐさだからであって、決して私が意図しているわけでは……。
顔より少し低い位置の下駄箱を開き、上履きを取り出し靴を仕舞う。
芽維たんは手にしていた巾着袋から上履きを取り出して置いた。
あ、持ってかえって洗ったんだ。じゃない、手入れをしてきたんだ。上履きに履き替えると、芽維たんは靴を巾着袋から取り出したビニール袋に入れてから巾着に入れた。
んん?
そのまま持って教室へ。
教室の後ろには、生徒一人一人にロッカーが用意されている。
駅においてあるロッカーで言えば、小・中・大・特大のうちの、中くらいの大きさが一人分。暗証番号のロックがかかる。
そこに芽維たんは靴入りの巾着を入れてた。
あれ?もしかして、すでに誰かからいやがらせ受けてる?
私の知る限り、まだ兄とも嘉久とも進展してないよね?
「芽維さんは、生徒会書記の剣崎様をご存知ですか?」
まさか、知らない間に接近してる?
「け、剣崎様って、あの……。お茶会部にいらっしゃった……いえ、あの、知ってないです。ちょっと知り合いというか知っている人に似てるなぁと思ったけど、全然ご存じないです!」
うお?
芽維たん、何をそんなに動揺している?
もしかして、お茶会部で不愉快な思いしたから?だとしたら、話題に出して申し訳ないことしたなぁ。
でも別に、剣崎徹との接点もないわけだ。
じゃぁ、攻略対象と親しくしているから嫉妬した誰かにいやがらせされてるわけじゃないのね?
「おはよう!」
「あ、田中くんおはよう。土曜はありがとうね!」
「ごきげんよう田中くん。日曜日はお世話になりました」
私の言葉に、芽維たんがびっくりして私の顔を見た。
「え?日曜日?」
「偶然百貨店で会ったんだよ」
「それで、トレーニングウェアと靴を選ぶアドバイスをしていただいたんですわ」
芽維たん、大丈夫だよ。偶然会っただけだからね?約束して会ったわけじゃないよ?
初めての「高校のお友達とのお出かけ」は芽維たんとって、私、決めてるからね?
「そっかぁ。田中くん、運動馬鹿だもんね!」
「鈴木、馬鹿ってのは余分だ!」
「あっは、ごめんごめん」
二人が軽口を叩いて笑っている。
……。
もやっ。
んんんっ?
まさか!
二人が仲がいいのに嫉妬した誰かが、芽維たんにいやがらせを?
田中くん、普メンなのに、実はすごい人気者だったりする?野球界の期待の星?中学野球で輝かしい成績残してるとか?
「ん?何?」
真剣なまなざしで観察していると、田中くんがちょっと焦った声を出した。
ごめんごめん。見すぎたわ。
「ごきげんよう、田中様、璃々亜様、芽維様」
皐月たんが来た。
ん?皐月たんも、シューズケースを持ってローッカーに入れています。
あ、あれ?もしかして、乙女たるもの、下駄箱に靴を入れるべからず的なローカルルールとかある?
……。ラブレターを下駄場に入れようと蓋を開けて、ぷぅーんと香るなんともいえない靴の匂い……。
あ、うん。たしかに、下駄箱に靴を入れるのは乙女としては悪手だ。
いやまてまて、それはラブレターをもらえるというのを期待した行動であり「ははーん、お前がラブレターなんてもらえるわけねーのに、靴を下駄箱じゃなくてロッカーに入れてるとか自意識過剰じゃねぇの!」みたいなことに?
「なーに期待してんだよ、あーふぉーっ!」みたいな……あああ。
そ、そうですよね。
ボッチをやっと脱出しようっていう私に、ラブレターなんて来やしませんよね。ぐすん。
あ、もし来ても、攻略対象とかだったら困るので、ヒロインと揉めて破滅エンドなんていやですから、いりませんけどね!
ラブレターなんていりませんけどね!
ほ、本心なんだからね!ほんとだもん。
涙目。
いつもありがとうございます。
そもそもだ、今の時代、ラブレターってまだ残ってる?
メールとかラインとかなんか別の方法で告白するんじゃないのかしら?
璃々亜は経験不足のため、その辺は分かってなかったりします。
次回は、生徒会のほかのメンバーについて明らかになります!




