第400話 デートじゃないらしい
「璃々亜ちゃん、会長とデート?」
うううっ、章子先輩がちょっと首をかしげて笑顔を見せる。
笑顔に他意はないって分かってるけど、分かってるけど……。
この強烈ペアルックを笑われている気がしてならない……。
「ちっ、違います!あの、章子先輩こそ、剣崎先輩とデートですか?」
うわぁぁぁっ!
勢いに任せて、つい、デリケートな質問を正面からぶっこんでしまったぁぁぁっ!
「ん?」
章子先輩が、ちらりと剣崎徹を見てから、嫌そうな顔をした。
「徹とデートなんてありえないよ」
そうなの?
なんか、本当に嫌そうな顔してるから、嘘をついているようには見えない。
……うーん。
「そうだね、章子とデートするより、璃々亜ちゃんとデートしたいな」
剣崎徹が、章子先輩のきつい一言をさらりと流して、チャラ発言。
あ、背中が冷たい。
兄から冷気が……。
まったく、シスコン兄め。単なる軽口じゃないか。チャラ男の言葉など、右耳から左耳へとすぽぽぽーんと流すがよい。
……あ、でも、東先輩が京様をデートに誘うのを、都キャプテンが許すわけないか。
そうだよな。うん、なら仕方ない。そういうキャラなのだから。
章子先輩が、仕方がないなぁという表情で剣崎徹を一瞥してから、私に視線を戻した。
「急に生徒会の仕事がなくなったからね。視察も兼ねてここに来たわけ」
視察……?
急に生徒会の仕事がなくなったっていうのは……。
「申すわけありません……」
私のせいだ。兄に休んだらと提案したの、私だもん……。
そうか、生徒会の他のメンバーのことまで考えてなかった。予定とか狂っちゃうよね……。
「何で璃々亜ちゃんが謝るの?」
章子先輩がイケメン笑顔で首をかしげる。
くっ。やばい。男装女子の、女心をくすぐる仕草は半端ないな。本物の男よりも、男らしい……というか……。
宝塚の男役にはまる腐女子でなく、婦女子の気持ちが分かるよっ!
だが、私は婦女子にはなり切れない腐女子。
男装女子が、本当に男子だった方が美味しい妄想が膨らむのでありますっ!
章子先輩は、しょせんは服を脱いだらただの女子でありますっ!
あ、いや、違う。
現実の人間で妄想はしないから!2次元オンリーですからっ!
「あの、私が兄に……たまには生徒会をお休みしたらと……。GW中ずっと頑張っていらしたのですからと……」
章子先輩がふっと笑った。
「璃々亜ちゃんはお兄さん思いのいい子ね」
うわー、よしよしされた。
きゅぅーん。章子おねぇ様!
おっと、いけない。
「だろう?」
兄がドヤってるわ。
いや、まぁ、妹褒められて喜ぶ兄は普通だよね?
シスコンでなくても、普通だよね。
っと、そうじゃなくて……。
「生徒会の皆様のご予定もあるのに、ご迷惑をおかけしてしまったようで……」
って口に出して言うと、兄のことしか考えてないブラコン発想だったみたいになってないか?
うおおおっ!
違うんだ、違うー!
兄はシスコンだが、私はブラコンじゃないっ!
こんなお揃いのTシャツ着てちゃ説得力ないかもしれないけど、ブラコンじゃないっ!
仲良く腕組んで歩いてたら説得力ないかおしれないけど、ブラコンじゃない!
休みの日に一緒にネズニーに来てたら説得力ないかもしれないけど、ブラコンじゃないっ!
噴水背景に笑顔で二人の記念写真撮ってもらってたら説得力ないかもしれないけど、ブラコンじゃない!
( ゜Д゜)
まって!
まって、まって!
説得力、どっかに落としてきた!
どこにも見つからないよっ!
ぐああああっ。やべぇ。ヒロインが兄ルートに入ったら、確実に私「ブラコンキャラ」ゆえに悪役令嬢だわ。
事実は違っても、周りからは100%そう見えるという……。
なぜだ、なぜこうなった!
どれだけ否定しようと、今日の写真とかが証拠として出てきて「これでもブラコンじゃないというつもりですの?」とか言われて。
「お兄様をヒロインに取られそうになるのを恐れて、いやがらせをしたのでしょう?」とか身に覚えのない罪をかぶせられるんだ。
免罪だー!免罪なのよぉ!
……怖い、破滅フラグ回避のむつかしさに頭を抱える。
くっ。
「迷惑なんかじゃないよ?会長は仕事しすぎだからね。休みはありがたいよ」
章子先輩は、そういうけど……。
「でも、急すぎて、結局お二人で視察になってしまったのですわよね?」
くすりと、章子先輩が笑った。
「視察は二人で出かける口実よね、徹?」
と、章子先輩が剣崎徹に話しかけた。
え?二人で出かける口実?
視察だから一緒に行こうぜって、素直にデートに誘えない剣崎徹の口実?
ええ?
だから、デートじゃなくて視察だけれども、やっぱり、二人は……。
二人は……そういうご関係予備軍で?
ご覧いただきありがとうございます。
兄ターンあっけなく終了。
次は、誰ターン?




