第40話 兄はバスケ部に入ろうと思ったらしい
夕食はいつものように、私と兄と嘉久の3人。今日は洋食。
春の野菜をふんだんに使ったテリーヌの色鮮やかなこと。
キャベツの薄緑、ニンジンのオレンジ、アスパラの緑と白、ズッキーニの赤と、海老の白。
そして、少しつぼみが膨らみかけた菜の花をあえて使い、黄色を足している。
料理は目で食べるとはよく言ったものだ。見ているだけで、食欲をそそる。
「部活は決めたのか?」
ナイフで切っても、野菜たちがばらけないようにとゼリーで固めてある心遣いがにくい。
一口大に切り、あらびきマスタードメインのソースをたっぷりとつけて口に運ぶ。
ピリッとした中にほんのり感じる甘みと酸味。蜂蜜とレモン汁だろうか。
「まだだなぁ。候補は5つあるんだが、最終的にどうするかは分からない。璃々亜は?」
二口目には、別の野菜の甘みと海老のぷりぷりが口の中で溶け合い、これまた美味しい。
「璃々亜、部活は決めたのか?お前がもし運動部のどこかのマネージャーをするんであれば」
ああ、もう、うるさいですね!
こんなに目にも舌にも美味しい料理、黙って食えよ!
……って、すでに皿は空ですか。次の料理が出てくるのを待っているところですか。
ん?あれ?
「マネージャー?璃々亜、そんな危険な真似は、あ、いや、璃々亜がどうしてもというのなら……うん、そうだな、何部だ?」
兄はまた、一人百面相。心の中で何があった?思考スピードが速すぎて、とても付いていけない。
いや、兄の心の中なんて知りたくないけどさ。
運動部のマネージャーねぇ……。
「バスケ」
の王子様には、女子マネージャーはいないんだよね。
怪我をしてプレイできなくなった子がマネージャーとして皆に尽くすんだよ。ああ、もちろん、BL同人誌ではその尽くす姿にあんなことやそんなことが含まれて……いたり、いなかったり。だけど、京様だけは、マネージャーに尽くしてもらわないんだよー。だって、都キャプテン一筋なんだもん。ふふふの腐。
「バスケ部か?バスケ。明日にでもバスケ部に顔を出すか」
「はぁ?敦也兄は、バスケ部じゃないだろう?」
「嘉久、まさかバスケ部に入る気じゃないだろうな?いいだろう、先輩として厳しく指導してやる」
え?やだっ!
都キャプテンが、京様を厳しく指導だなんて!
バスケ部の部室とか、練習後の体育館とか、用具室とか、早朝の教室とか、どこで厳しく指導するつもりなの~!!
ああ、妄想でおなかがいっぱい。腐。
「えーっと、何のお話でしたっけ?そう、部活でしたわね。私、運動部に入るつもりも運動部のマネージャーをする気もありません」
もし、芽維たんがやると言っても、やらない。
友達と一緒の部活を断念するのは残念だけど、やっぱり、前世オタ暦15年。生粋のインドア派としては、運動には……拒否反応がある。
その時はおとなしく、皐月たんと一緒に茶道部入るんだ。
あ、これ、和装フェチな父と、対立する洋装フェチの母に知られないようにしないとなぁ。
和装するなら洋装も!って白熱した母に、お茶会部にでも入部させられたらたまったもんじゃない。
あそこは危険。
攻略対象らしき、剣崎徹がいるんだからね!
あ、攻略対象といえば……。
「お兄様は何部ですか?」
「映像部だ」
え?
あの、日本人出演なのに、フランス語で撮影されたあの、謎映画……。
まさか、兄の……趣味?
「生徒会が忙しくて、名前だけの幽霊部員だがな」
「あの、生徒会長になる前は映画を作ったりしていらっしゃったのですか?」
「いや、1年から生徒会書記として活動していたから、残念ながら映画をいくつか鑑賞しただけで撮影まで出来なかった」
ああ、そうですか。
じゃぁ、いったい、あの映像を作ったのは誰だ?誰なんだ?
はっ。兄のお勧めの映画だといって、フランス映画を見せられた兄のファンの一人が、兄に気に入られようとフランス語映画を……。
うん、もしそうなら、その努力の方向性は間違っていると思います。
「で、嘉久、お前も1年から生徒会へ入らないか?」
「は?今、忙しくて部活に顔出せないとか言ってたよね?なのに、生徒会に誘うとか無いだろう!」
ん?
あれ?
「お兄様はバスケ部ではありませんの?先ほど話しに出ていましたけど?」
「それはもういい。もう少し情報を集めてから別の部にする」
ん?別の部?3年から入るということかな?
「忙しくて部活が出来ないって言ってましたけど……?」
「ああ、大丈夫だ。有能な人間が増えれば一人の負担は減るからな」
なるほど。
「お兄様は有能なんですね。だから、剣崎様も部活をする余裕があったということですね」
私の言葉に、兄がグラタン皿にスプーンを置いた。
「どういうことだ?剣崎に会ったのか?お茶会部に入るつもりか?」
兄が嫌そうな顔をして、嘉久が嬉しそうな顔をした。
「お茶会部か。しつこく勧誘されていたが断るつもりだったんだ。璃々亜が入るっていうなら」
そうか。嘉久は勧誘されたんだ。
「入りませんわ。入部資格がないと言われましたから。いえ、入部資格があっても、入るつもりはありませんけど」
私の言葉に、兄は驚き、嘉久はがっかりしてる。
「入部資格がない?私の自慢の妹に、入部資格がないだと?」
正確には、皐月たんが芽維たんと友達なら何人推薦者がいても入部できないって言われたんだよね。私も芽維たんと友達だし、友達やめる気もないから、つまりは入部資格がないってことだよね。うんうん。
「そっか、璃々亜はお茶会部には入らないのか。じゃぁ、断ろう。で、璃々亜は何部に入るんだ?」
にこにこして聞いてくる嘉久。
答えをわくわくして待つ兄。
あれ?もしかして?
「嘉久様、部活動も含めて学校ですからね?近寄らないでくださいませ。お兄様も私の女子会の夢を壊したりしませんわよね?」
嘉久、「わ、分かってるよ!」
兄、「と、当然だとも」
そか。ただの杞憂だったか。
ありがとうございます。
兄、まさかの映像部!
これ、こっそり妹の成長ビデオとか撮ってるパターンですか?大丈夫ですか?!




