第4話 攻略対象?その3 剣崎徹は、生徒会書記らしい
入学式。
やはり乙女ゲーの定番というのか、校門も校舎もごてごて飾りのついたいかにも名門お嬢様お坊ちゃまが通う学校という感じだ。
学費、高そう。
それだけのお金があれば、どれだけの同人誌が買えるか……。お金さえあれば自分用の他に、保存用と布教用も買えるのに!
正門の西側には送迎車用のロータリーがある。
か、金持ちすげー。黒塗りのでっかい車が次々やってきては高校生を吐き出し去っていく。ま、私もその一人なんだけどさ。
「では、お約束通りここからは別行動で」
嘉久氏が寂しそうな顔をするが、知らん。
破滅フラグ要員のお前とは距離を置く!
……明日からは一緒の車で登下校もやめたほうがいいかもしれない。ロータリーで乗り降りしてたら、絶対すぐに噂が広がる。
今日の帰りから別の方がいいな。
お兄様と正門まで並んで歩く。
「璃々亜、すまない。一緒にいてやりたいが、生徒会に顔を出さねばならないんだ」
生徒会……。やはりか!
こうなってくると、生徒会の他の人も攻略対象キラキライケメンである可能性は高いな。
「一人で大丈夫か?」
「大丈夫ですわ、お兄様。今日から高校生なんですもの」
安心させようと、にっこり笑うとお兄様はうっと息を止め、そして額に手を当てた。
「いつもの璃々亜ならここまで心配しなくても良かったのに……いいかい、璃々亜、知らない人に話しかけられても無視するんだよ?」
なんだそりゃ。
高校の入学式っつったら、知らない人だらけでしょ。無視したら友達できないっていうか、悪い噂が立って、悪役令嬢まっしぐらだっつぅの!
攻略対象になりそうなキラキラ要員は無視するとしても、それ以外にはフレンドリーになるよ!
っていうか、もしかしていつもの璃々亜って縦ロールのこと?縦ロールが人を寄せ付けなかったってこと?
「こんなことなら、虫除けに不本意だが、嘉久を付けておくんだった……今からでも遅くな」
「お兄様、生徒会に遅れては問題ですわ!私に恥をかかせるおつもりですの?入学式ですから、お兄様の活躍する姿を楽しみにしておりますのよ?」
心にも無いことがぺらぺらと口から出てくる。
もー、目立つ目立つ。
キラキラお兄様と二人で校門に立っていると、人の視線がびしびしと……。目立ちたくないんだってば!攻略対象とかかわりたくないんだってば。
こんな風にお兄様と居たら、
「生徒会長、おはようございます。そちらの方は?」
んぎゃっ!
何か、いやな予感……。
「ああ、徹。おはよう」
生徒会長と呼ばれて返事をしたのは、お兄様だった。
そうか。やはり生徒会長だったか……。
「璃々亜、生徒会書記をしている剣崎徹だ」
兄がしなくてもいいのに、私を紹介するもんだから、仕方なく声のしたほうを振り返る。
攻略対象破滅要員の可能性大の生徒会メンバーとは関わりたくないんだって!
ぐあっ!
少し長めの薄い茶色の細い毛はさらさらだ。日本人っぽくない色は染めているのか地毛なのか。少し西洋風の顔つきなのでハーフとかかもしれない。右耳には、赤く丸いピアスが一つと、シルバーのイヤーカフを2つ付けている。
目じりが少し下がった優しい目元。薄い唇はすごくきれいなピンクをしていて……。チャラいその容姿はまさに
「東クン……」
「え?東?」
うはっ。思わず口に出しちゃったよ。
「バスケの王子様」で京様の幼馴染で悪友でもある東クンに剣崎徹はそっくりだ!
京様と都キャプテンに告ぐカップリング人気は京様と東クンだ。
通称「東京」……。
い、いやーん。さ、さ、三角関係!生徒会室で京様をめぐって火花を散らす二人とか。うほほほほほっ!腐っ。
「あ、いえ、はじめまして、剣崎様。いつも兄がお世話になっております。妹の璃々亜と申します」
妄想していたのをごまかすために、にっこり笑って優雅に挨拶……した、つもり、なんだけど……。
剣崎様が驚いた顔をする。
「君から聞いていた話とずいぶん違うな。こんなかわいい妹さんだなんて言わなかったじゃないか!」
あー、縦ロールのこと言ってるよね?ごめんね。期待を裏切って。
「手を出すなよ!」
ぐふっ。都キャプテンが東クンに京様には出を出すなですって!きゃはーーっ!
やばい、悶え死ぬ。なんて楽しいんだろう!みっきゅんにみっきゅんに報告したい!ああ、ああ、ああああーーっ!
二人はおっとこんな時間だと言いながら腐妄想を繰り広げる私の元を去っていった。
って、腐妄想してる場合じゃないわ!攻略対象っぽい人にもう3人も遭遇しちゃったじゃない!
破滅フラグ回避がんばらないと!
【情報整理】
敦也お兄様:生徒会会長(都キャプテンに声がそっくり)
剣崎徹:生徒会書記(東クンに顔がそっくり)
嘉久:幼馴染(京様に声がそっくり)