第334話 西と東どちらでもいいらしい
「璃々亜……」
嘉久が、立ち止まってじっと私の顔を見た。
何?その、言いたいことがあるけど、言えないって顔は……。
まさか、私のこと、食いしん坊めっ!とか思った?それでも貴族令嬢か!とか思われた?
あ、いや。私は貴族令嬢ではない。れっきとした悪役令嬢……いや、それも違うっ!えーっと、ちょっと金持ちの令嬢だ!
「そうして、俺の失敗も笑って許してくれる……」
は?
何が失敗?
「嘉久様は失敗などしておりませんわ!このお店、本当においしくて、とても幸せな気持ちになれましたものっ!兄にも自慢できますわ!」
にこにこ。
自慢したら、シスコン兄だ。対抗して、もっとおいしい店を探して連れて行ってくれるような気がする!
ふっふっふ。なんという素晴らしいアイデア!
あ、あれ?ちょっと私、腹黒くない?……悪役令嬢の素質がどんどん開花していって……げふげふっ。
いや、これは、単なる妹属性。妹らしい単なる計算。そう、そうですわ!世の中の妹はみんなこんなことを思いながら兄をいいように扱っている。
……あ、ごめんなさい。違うよね。うん、一緒にしてごめん……。
「璃々亜……俺……好きだ」
「ええ、私も。このお店好きですわ」
おいしい物大好き!
「……うん、そうだな。今はそれでいいか」
嘉久がにかっと笑った。
今はそれで?
何だそれ。
好きじゃだめか。大好きにならなくちゃ。いや、まてまて。嘉久ってさ、好きな気持ちが暴走しすぎて、修行するっ!弟子入りするっ!
もっとおいしい物を自分で作ってやるっ!とかなりそう……。
「このままで、今のままでいいと思いますわ」
にっこり。
「うっ、」
嘉久ががっかりした顔を見せる。
「いや、璃々亜……がんばるから。その……俺のこと……」
頑張るのは構わないけど、頑張る方向性を間違えなければ……。
「見ていてほしい」
は?
方向性を間違えたら注意してくれってこと?めんどくせっ。
嘉久が、私の両手をぎゅっと握った。
真剣な目。
攻略対象らしい、イケメンに、正面から真剣な目で見られ……。少しだけドキンとした。
ああ、もしかして、私はこのゲームの中で嘉久のことを幼馴染以上の気持ちで見ていたのかもしれない。それがヒロインの登場で嫉妬心に火がついて……。
私、嘉久を好きになったから悪役令嬢になっちゃったのかもしれない。
……万が一、好きになったりしたら、私は悪役令嬢になって破滅しちゃうんじゃないだろうか……。
そう思うと、急に嘉久のことが怖くなった。
怖くなったけれど……。
嘉久とこれ以上距離をとろうとは不思議と思わなかった。
「じゃぁ、行こう」
嘉久が、私の手をとって歩き出す。
繋がれた手を振り払って、もう二度と会いませんと言って、ご飯も別にして……なんて、考えられない。
知らない人たちばかりのこの世界に放り込まれた私。
せっかく親しくなれたのに……今では、幼馴染として当たり前のように私の生活の一部として存在しているのに……。
それを手放すなんて、できないよ。
兄と嘉久の時々謎だけど、二人の楽しいやり取り。
京様ボイスと都キャプテンボイスの至高のやり取りであるということを除いても……。
声がもし、平凡だったとしても、やっぱり二人のやりとりを見ることができなくなるのは悲しい。
「あのね、嘉久様……」
私、嘉久のこと、大切だよ。
口に出して言おうとしたけれど……。言えないや。
……なんか、ほら、改めて「お母さんありがとう」って恥ずかしくて言えないみたいなそんな感じ……。
「なんだ、璃々亜?」
「また、一緒においしい物食べに行きましょうね!」
「お、おう、そうだな」
次は、下賀茂神社へGOですよっ!
つくと、さっそく嘉久が資料を紐解き説明をしてくれる。
「世界遺産に登録されている」
うほっ!世界遺産っ!
ひゃほーっ!世界遺産にきちゃいました!すごい!
「正式名称は賀茂御祖神社といい、御祭神は西殿が、賀茂建角身命。東殿が玉依媛命だそうだ。えーっと、何々……賀茂建角身命は、農耕をひろめ民生の安定につとめらたらしい。世界平和、五穀豊穣、殖産興業、身体病難解除のご利益がある。その他、『古事記』『日本書紀』には、賀茂建角身命を金鵄八咫烏として表わされた御功績が伝えられ、導びきの神、勝利の神、方除、厄除け、入学、就職の試験などの合格、交通、旅行、操業の安全等多方面に利益があるのか。御子神である玉依媛命は、『風土記』によると、婦道の守護神として縁結び、安産、育児等。また、水を司られる神としてとても力があるそうだ」
……さ、さすが世界遺産。
なんだ、古事記、日本書紀、風土記ときたか。確か、奈良時代だよな。古事記とか……。
はー、もうさっぱりなんだか嘉久の説明は頭に入らない。
何言ってんの?こいつ。ってなっちゃった。せっかく説明してくれたんだけどさ。ごめん。
「璃々亜は、西殿と東殿と、どちらがいい?」
どちらがって?
ご覧いただきありがとうございます。
作品を書くにあたって、知らないことをいろいろ知ることができて楽しいです。
いつか実際に行ってみたいです(^_-)-☆
ところで、璃々亜さん、嘉久は勇気を出して尋ねてるんですから、ちゃんと聞いてあげましょう?
縁結びの神様のところに一緒に行きたいらしいですよ?
神社の説明は公式サイト様を参考にさせていただいております(*'ω'*)




