第34話 学校指定の靴は高いらしい
テニス部の見学へ行く途中、グラウンドに野球部が居た。
「あ、田中くんだ、おーい」
芽維たんが大きく手を振ると、グラウンドでキャッチボールをしていた田中が気が付いて手を振り返してきた。
田中、やはり野球部だったか。
ぐえっ。
ユニフォームに身を包んだ田中を見て、心臓が跳ね上がる。
普通枠攻略対象じゃない……、あいつは、ユニフォーム姿になるととてつもなくかっこよく見える枠だ……。
何、あの、野球帽をかぶったユニフォーム姿の破壊力。
芽維たんに手を振ったあと、私に視線を向け、眼鏡どうしたのみたいなジェスチャーをして笑った。
ドキン。
リアルスポーツマンとか、前世でまったく関わりが無かったから、本当に笑顔がまぶしくて……。
すいません、2次元スポーツマンでいらぬ妄想しまくって、本当にすいません……。
フライング土下座したいくらいの後ろめたさを胸の奥に押し込めて、早足で通り過ぎる。
テニス部には王子様っぽい人はいなかった。婦人的な人もいなかった。ただ、熱い人が一人いた。
先輩に攻略対象やヒロインもしくはそのライバル候補も無しと。
「では、次は文化部棟へ見学に行きましょうか」
「皐月さん、もういいの?テニス部?」
「ええ、つき合わせてしまって申し訳ありませんでした。どうやら、私には少々レベルが合わないようですわ」
レベルが合わない?上に?下に?
文化部棟へ移動する途中、グランドのあっちの方で女性徒が集まって黄色い歓声を上げているのが見えた。
……。くわばらくわばら。
首をすくめて小走りに進むと、向かい側にも黄色い声の女性徒の集団が。
中心には、嘉久……。
おまえ、男子会への道が遠そうだな。
私は順調に女子会への道を進んでるわよ!
ほーっほっほっほっ!
勝ち誇ったような目を向ける。
おっと、学校では他人でした。他人。
ふいっと顔を逸らして、渡り廊下の端に寄る。嘉久を中心とした一段とすれ違う。
「広がって歩くと迷惑だろ」っと、女性徒に注意している嘉久の声が聞こえました。
嘉久も大変そうだなぁ……。お兄様もあんな感じなのかな?
「彼が高円寺様ですわね。噂通り、女性徒に人気のようですわね。」
皐月たん噂をどこで仕入れてるの?私の耳には噂とか全然入ってこないんだけど?
「高円寺様……?あの人、高円寺様って言うの……」
芽維たんが、嘉久含む一段をぼーっと目で追っています。
ふわっ!
ら、ら、ラブ?ラブなの?
嘉久ルートに乗っかった?あわ、あわ、あわ、えーっと、どうしよう、応援?
ちょっと待って、応援って、何すればいいの?前世でも、恋話の渦中にいたことなんてないから、応援されたことも、応援したこともないよっ!
友達の恋を応援ってどうするのさ!「○○が、あんたのこと好きらしいよ」って思いを伝えてあげるとか?
悪手だろ!それ、応援するふりした、いやがらせだろう!
んじゃ、何?告白するときに、そばについていてやるってやつ?……ない、ないわ。
ぐおおおおっ。下手に応援しはじめたら、邪魔しちゃう気がしてならないっ。
……。えっと、とりあえず、様子見に徹しましょう。
……。
運動部の部室が入った運動部棟は靴に履き替えてから移動しなくちゃならないけど、文化部棟は、校舎と渡り廊下でつながっているため、上履きで移動する。
「正面玄関には、靴箱があり、別に上履きを用意している方がほとんどだそうですわ。帰るときに、校舎に戻る必要がなくなりますから」
皐月たんは、なんでそんなに色々知っているんだろう。情報通だなぁ。
「あ、そっか。部活終わってから、また校舎に戻って昇降口で上履きから靴に履き替えてて大変だもんねぇ。だけど……上履き二つ用意するのも……大変だなぁ……」
芽維たんが眉根を寄せた。
ああそうだね。うちの学校の上履き、白いバレーシューズとか、便所スリッパみたいなのじゃないもんねぇ。
箱に入っていた上履きを取り出したときに、品質保証書とかお手入れの仕方とか書いてある紙があったけど、目を疑ったもん。
前世では外履きでもそんな立派な靴履いたことないよって。外側が牛革。内張りにはしなやかな馬革。……。女子生徒は少し赤みの強い茶色い上履きで、男子生徒は少し濃紺だ。
絶対に高い。
2足も3足も簡単に用意できる価格じゃないと思う。
特待生は授業料免除以外はどうなってるのか分からないけど、本人の都合で制服とか靴とかぽんぽん支給はしてもらえないと思う。
ちなみに、靴も当然学校指定。
その辺でよく見かけるローファーなんだけど、やっぱり素材は、本革。
その辺で売ってるデザインだから、市販の合皮のローファーでよくない?と思うけど、よぉく見ると、靴の外側に小さく校章が型押しされてるんだよ。でもって、学校指定の靴履いていないと、校則違反とか……なんじゃそりゃです。
学校指定の靴は、箱に入っていた保証書と、取り扱い説明書によると、靴のどこどこの部分はカーフで、どこどこはブルみたいに、なんか靴1足に色々な牛革が使われてるらしい。牛革に、そんなに種類があるのかとびっくりした。本当、牛は、肉にも部分によって細かく名前つけられてるし名前王じゃない?水牛だの和牛だのホルスタインだの、飛騨牛だの神戸牛だの、どんだけ種類あんねん!って感じだし。
あー、こっちの世界の高校の授業が普通でよかった。もし、「牛学」みたいなのがあったら、名前覚えるの大変だよ!
「一流のお嬢様、お坊ちゃまになるためには、一流のものを見分ける力が必要でございます」とか言われても困りまする。
いや、だが、授業内容が「では、本日は松阪牛と、近江牛を食べ比べをしていただきます」とかだったら嬉しいかもぉ……。
おっと、よだれが。焼肉食べたいな。
「部活で使う上履きは何でもいいそうですよ。運動部も、スパイクだったりスニーカーだったりそれぞれ部活に合ったものを履きますから、文化部も活動にあったものを用意すればいいみたいです」
皐月たん、本当に情報通だなぁ。
あれ?もしかして、皐月たんって、ヒロインじゃなくって、ヒロインをサポートする情報通のナビゲーター的な立ち位置?
今日もありがとうございます。
高い靴ってどんな靴なの?と、調べて書きました。でもって、これ、後の伏線なので、一見無駄話のようで、必要回です。
あ、焼肉の話は無駄話です。
最近「ポメラ」っていうワープロみたいなものに興味が出たのですが、この作人について言えば、調べて書く部分が多いので、インターネット環境がないと辛いと気が付きました。




