第26話 学食と呼ぶには豪華すぎるらしい
朝の会に遅れるところでした。
妄想が楽しすぎて、一般常識テストどころか実力テストがあるというのに……。
1時間目英語、難なく終了。
2時間目理科、3問鉛筆転がした。
3時間目数学、兄に教えてもらったところ出た!
4時間目国語、楽勝!
入学してから、今日は始めての昼食です。
「食堂へ移動しましょう」
後ろを振り返る。
もちろん、芽維たんに声をかけたのだ。だって、友達だもん。一緒にご飯食べるの当たり前だよね?
「ごめんなさい」
ぶおうっ!
こ、こ、こ、断られ……断られた……。
な、な、なぜ、何故なの芽維たん……あたしたち、友達よね?ぐすすすんっ。
「私、お弁当を持ってきたから……」
ふおっ、お弁当?!
そっか、一緒に食べたくないとかじゃないんだよね?よかった。
あれ?でもじゃぁ、私は誰と食堂へ行けばいいの?
ハッ!
「皐月さん」
私にはもう一人お友達がいたんだわ~!
皐月たんの席に目を向ける。い、いない!
「あら、食堂はお弁当の持ち込みも大丈夫ですわよ?ご一緒しましょう?」
背後から声。
皐月たん、ちゅごい。
「本当?よかった。実は、一人でお弁当食べないといけないのかなって、ちょっと寂しかったの」
きゅぅんっ。
芽維たんが、少し恥かしそうににこっと微笑んだ。
かわゆす!
そして、自分のことだけ考えてごめんね!そうだよね、私と皐月たんが食堂行ったら、芽維たん一人でお弁当になっちゃうところだったよね。
教室の真ん中あたりでお弁当箱を取り出す田中の姿が見えた。
いや、見なかったことにしよう。
田中ルートイベントを一つつぶしてしまった気がするが、気のせい気のせい。
って、まてまて、田中ルートを反れたってことは、別ルートイベントが食堂で起こるかもしれないんだよね?
そもそも食堂って……他クラス、他学年が集まるわけで……。
なるべく攻略対象と接触しないように学校生活を送ろうとする私には危険ゾーンなわけで……。
油断めさるな、野郎ども!
ぎゅっと気を引き締めて食堂へ向かう。
「璃々亜様、張り切っていらっしゃいますわね?」
「本当。なんか、肩で風切って歩いてる」
ん?
前行く人が避けていく。
やだ、私ったら、悪役令嬢みたいじゃないのっ!
何で?何がどうなって、こうなってんの?
食堂のつくりは、フードコートに似ている。
似ているが、共有の食事スペースのテーブルや椅子は、フードコートのソレではなく、高級レストランのアレ。
すべてが同じテーブルや椅子ではなく、ゆったりとしたソファに腰掛けられるブースがあるかと思えば、丸太を切っただけの椅子が並んだアウトドア風ブースもある。
私たちは、おしゃれなカフェ風ブースという無難な席に腰掛けた。
テーブルには、タブレット型のメニューが置いてあり、注文をすると、食事スペースの周りを取り囲んでいるレストランから食事が運ばれてくるというシステムだ。
もちろん、共有食事スペースの他に、各レストラン内で食事を取ることもできるようだ。
「何になさいますか?」
メニューのトップページにはレストラン一覧が載っている。全部で8つ。
Argent ASA☆
二凛(京料理)☆
emuM☆
紀々風(割烹)☆
端雪(広東料理)☆
喜色(寿司)☆☆
播磨もりみ (ラーメン)BM
一西庵BM
「噂通りミシュラソガイドに載っているお店ばかりですわね」
え?そうなの?もしかして、☆ってミシュラ……んじゃなくて「そ」の☆の数?でもMBって何?
「ええ、ミシュラソですか?うわー」
「璃々亜様、何にいたしますか?私は、もう一度食べたいと思っていた二凜にしようかと……」
もう一度ってことは、過去に食べたことがあるってことだよね?さすがお嬢様。
皐月たんが、お店を選んでメニューを開く。
「まぁ!この学校用の特別メニューばかりですわ!短い休み時間に食べられるようにと、お弁当や定食になっています!ああ、素敵」
メニューを見ると、百貨店のおせち料理か!といわんばかりの豪華な弁当の写真が。
松、竹、梅とメニューがあり、5000円、8000円、12000円。
ぶほっ。
おせち料理か!
値段がまるっきり高校生の学校の食堂じゃないよ!
「わー、すごぉい。卒業までに一度は食べてみたいなぁ」
って、芽維たん。うん。そう、普通はそうだよ。高校生どころか、OLの身だって、そんなランチなんて3年に一度食べるかどうかだよ!
むしろ、5000円あれば、BL同人誌が5~8冊くらい買える!って、結局食べない可能性のほうが高いけどね。
「くすくすっ、かわいそうに、庶民はお昼さえまともに食べられないようですわね」
芽維たんの後ろで笑い声が起きる。
「私、お腹いっぱいでもう食べられませんのよ、よろしければお食べになる?」
制服のタイの色を見ると、2年生のようだ。
こぶし大の花のモチーフのついた髪飾りをつけた女性徒が、二凜の竹のお弁当箱を差し出した。半分くらい箸がつけられている。
「もう、食べないのですか?」
芽維たんが驚いた顔を見せる。
分かるよ。分かる。8000円も出したお弁当なのに、半分も残すなんてもったいない!
もったいない!
確かに、駅弁の倍くらいのボリュームはあるよ。でも、ご飯物少ないし、順番を考えて食べれば8,9割は食べられると思うんだよね!
「そう、もう食べないから、ゴミですのよ。どうぞ、お食べになって」
「ご、ゴミ……」
芽維たんの顔が青くなる。一方、皐月さんは顔を赤くしていた。
「私も、注文しすぎてしまいましたの。お食べになります?」
こぶし花女性徒の隣の席に座っていた眉毛の薄い女性徒……麿眉女性徒がほぼ丸々残っているステーキを差し出した。
テーブルの上には、シチューの皿とオムライスの皿がのっている。
注文しすぎって、注文するときに、食べられないの気が付くよね?気が付かないわけ?
「捨てるだけの品ですが、庶民のあなたであれば、まだ食べられそうですから。くすくす」
ばっかじゃないの!
いつもありがとうございます。
次回、先輩方が逃走します。
話が地球規模だからかな?
それにしても、なかなか前世日本とのつながりが出てきません。説明になりすぎないように設定をちょこちょこ盛り込んで書いているので進みが遅いです。あううっ。




