閑話 相原さん視点
私はとてもいびつな存在だと思う。
鳳凰学園中等部に通っている私は、世間では「お嬢様」だ。
だけど、鳳凰学園の中では「似非お嬢様」と言われる。
お嬢様になり切れない、でも、どこかお嬢様な存在。
高等部に入って、それを自覚した。
一般常識テストの結果で、世間的に「お嬢様」と呼ばれる理由が分かったからだ。
確かに、常識知らずだし、金銭感覚もおかしい。
かと言って、やっぱり本物のお嬢様のような生活をしているかと言えば、そういうわけでもない……。
学校までは、運転手付きの車ではなく、両親や祖父母の運転する車で通っている。
両親は、周りの子との違いを気にして、運転手のふりをしてくれる。車も、不便だと言いながら、セダンを選んだ。
どれだけメッキを施したって、本物のお嬢様には慣れないのに、両親の気持ちを考えると裏切るようなこともできなかった。
「どこどこの有名店のお菓子が美味しいのよ、今度ご一緒しませんか?」
と、名前も知らない店に誘われて行ったこともある。
お菓子一つが、お札を出さないと食べられないような店だ。
でも、それが当たり前で、誰も「高い」なんて言わないから、そういうものだと思っていた。
両親は、私を庶民的な店へ決して連れて行こうとはしなかった。
学校でうっかり「この間ファミレスで食事をして」と言っていじめられるんじゃないかと思っていたようだ。
いびつな私。
お嬢様にもなれず、世間からも遠ざかった存在。
「テストの打ち上げに行きませんこと?」
お嬢様の中でも飛び切りの家柄の璃々亜様の提案に、どうしようかと一瞬迷いが心に生まれた。
中等部でお嬢様方とお出かけした場所といえば、どこも場違いな感じがして落ち着かなかったのだ。
それが、とびぬけたお家柄の璃々亜様が選ぶ店など、いったいどれほど緊張するのだろうと……。
「打ち上げ?ふふっ、いいですわね。ですが、今日は委員会で遅くなりますわ……」
と、皐月様が残念そうな顔をした。
「そっかぁ、せっかくだからみんなで行きたいよねぇ。別の日にしようか?」
「ええ、そうですわね。いつでもよろしいですわ。ふふふ。模試の打ち上げなんて、タダの名目ですもの。皆様と一緒にどこかへ出かけられたらと思っただけですから」
璃々亜様が、はにかんだ笑顔を見せた。
私たちと一緒に出掛けたい?そう思ってくださるなんて……。
璃々亜様が、どういった店を選ぶのか分かりませんが……、私の心は決まりました。
似非お嬢様の私が不釣り合いな店でも、璃々亜様についていこうと。
「金曜日はいかがですか?次の日、学校が休みですし」
皐月様の提案に、璃々亜様が顔をこちらに向けてきた。
「相原さんと相良さんは、金曜日にお時間は大丈夫でしょうか?」
「ええ。ぜひご一緒させてくださいませ」
「楽しみですわ」
二人で参加の意思を伝える。
「どこにしようかぁ、やっぱりフリードリンクある場所がいいよね?」
フリードリンク?自由に飲み物が飲めるというのは、立食パーティーみたいな形式のお店?
「そうですわね。お時間があるようでしたら、そのまま夕飯もいただいてしまいますか?」
璃々亜様は、芽維様の提案にすぐに答えた。
あれ?
芽維様は、確か普通のご家庭でいらしたはず……。
「もしかして、ファミリーレストランでお食事も取られるのですか?」
皐月様がびっくりして声を上げた。
「ええ、少し帰りが遅くなりますから、皆様は無理かしら?」
「いえ、遅くなるのは問題ありません。塾がある日はもっと遅い時間の帰宅になりますし。ただ、その、璃々亜様が、ファミリーレストランで食事をするイメージがなくて……」
皐月様の言葉に、やっと理解できた。
ファミリーレストラン……ファミレスのことだ。
中等部時代、ファミレスで夕飯を食べたというクラスメートが陰口を言われていたのを思い出す。
「くすくす。あの方、レストランではなくファミリーレストランでお食事ですって。いったい、何のお肉を召し上がったのかしら?」
「だめよ、だめですわ。人にはそれぞれ味の好みがございますから、彼女には、そういう味が合うのでしょう」
安い店は悪い店、まずい店。
高い店が良い店、おいしい店。
「もしかして、皆さまファミレスをご利用になったことがないのですか?」
璃々亜様が逆に驚いた顔を見せる。
「ファミレスと一言で言っても、ピンからキリまでございますわ。国産の提携農家から仕入れた厳選された材料を使っているファミレスもございますのよ?一流レストランと比較しても引けを取らないようなデザートを開発しているお店もございますし……」
璃々亜様は、一切ファミレスをバカにしたような発言をされない。それどころか、すばらしさを教えようとしてくださいます。
ああ、そうか……。
私は「似非お嬢様」と呼ばれていたけれど、そう呼んでいた彼女たちもまた「お嬢様ごっこ」していただけなのだろう。
璃々亜様のように、真のお嬢様は、表面だけで判断なさることはしない。
きちんと、良い物は良い。値段で決めたりはしないのだ。
「消しゴムでもしょうでしょう?同じ100円の消しゴムでも、良く消えるものと、消えない物がありますでしょ?」
くすっ。
思わず笑いが漏れる。
そうだ。
あれだけ、ファミレスを貧乏くさいとバカにしていた彼女たちも、確かに消しゴムは庶民とバカにしていた子たちと同じようなものを使っていた。
ある時、1万円を超えるプラチナグリップ付きの消しゴムを持ってきた子がいたけれど、他の消しゴムに比べてとてもよく消えるというわけでもなかった。筆箱には入れにくい上に重たくて少し大変そうだった。
鉛筆や定規やノートだってそうだった。
学習用に特化した庶民の手が容易に届く物の方が断然使いやすそうだった。
「璃々亜様、金曜日がとても楽しみです。ファミレスのお食事も」
いつもありがとうございます。
えー、裏側が先になりまして。
次回は、この表側の璃々亜……。いや、容易に想像つくね。




