閑話 とあるサークルブースにて
「聞いて、聞いて、聞いて!」
息がゼイゼイ、そんなの気にしてられない。
「何?どうしたの?」
トイレからブースに走って戻るなり、興奮気味に口を開く。
あ、もちろん、普段は走ったりなんてしないよ。会場内を走っちゃダメっていうのは知ってるし。
でも、でも、どうしても、この興奮が抑えきれない!
相方に伝えなくては、もう、私のこの興奮の行き場がなくて、暴れそうです。
「それが、私、あそこ、あっちのトイレ行ってたじゃない?」
「うん、何?まさか、スマホを便器の中に落としたりしたの?」
「違う!まぁ、落としたらそりゃびっくりで聞いて!ってなるけど、そんなことより、もっとすごいことがあったんだよっ!」
はぁー、少し息が落ち着く。
興奮は覚めやらぬが、少し冷静さも取り戻せた。
サークルブースの前に陣取って、中にいる相方と話していては通行人の邪魔になるので、裏に回って相方の隣に腰かける。
「ほら、すごく似合ってる姉と弟レイヤーいたでしょ?」
「ああ、いたね!いた!本を渡した人でしょ?ほら、見て!」
相方は、手に持っていたスマホを操作して、画像を見せてくれた。
ん?
ツイッターにあげられた写真。
「ふおっ、あの二人の写真?」
抱き合ってるポーズの写真がアップされてる。
背景からすると、西館屋上で撮った写真だろうな。
「うわー、うわー、やっぱり、いいわぁ!最高!」
色んな人が写真を撮っていたようで「私も撮りました!」とたくさん写真がアップされてる。
コメントには「見たかった~」「いい画像ありがとう」「創作意欲が沸きます!」って、創作意欲が沸くっていうのは、相方のコメントじゃないか。
写真は、抱き合ってるもの、手をつないでいるものが全てだった。
ああ、やっぱり、あれは特別だったんだ!
「で、この二人がどうしたの?」
「そう、そう、そうなの、そうなの!見ちゃったのよっ!トイレに行った帰りに、あそこ、あの、電話のマークんとこ!」
「壁で隠れた裏側?何、もしかして、そこで、二人っきりでいたの?それは萌えるシチュだね!いいなぁ、こっそり見守りたかった!まだいる?見に行ってみようかな?」
「もういないよ。っていうか、二人っきりだけでも萌えるけど、違う、見たのはもっとすごいの……」
「え?何?壁ドンでもしてた?」
壁ドンか。それも見てみたいが、私の見たものはもっと心ぎゅーっとわしづかみだよっ。
「チューしてた」
「はぁ?!」
相方が大きな声を出す。
「それも、タダのチューじゃないよ、マスク越しなんだよ!」
「な、な、な、何それ!超隠匿的じゃない、廃退的、背徳的、姉と弟がマスク越しのチューとか、やっば、やっば、やっば!」
「そうでしょ、そうでしょ!超やばいでしょ!もうやばすぎて、創作意欲半端ない!」
「写真は?写真、写真撮ってないの?」
「もう一瞬で、撮れなかった」
「じゃぁ、ちょっと、その様子描いてよ!」
おおそうだね。
目に焼き付けた二人の姿を、忘れないうちに書き留めないと。
スケッチブックを取り出すと、二人のキスシーンを描く。
手はどうなってたかな……そうだ、スマホで自撮りしてたんだ……。
ちょっ、キスシーン自撮りとか、えええっ、それをどうするつもりなんだろう?うわー、想像じゃない、妄想が膨らむわ!
背徳だ、背徳!
さらさらと、あたりを撮ってから二人を描く。
「うわー、すっご、やっば!」
相方が私の手元を見ながら口元を抑えている。
うん、分かる。もう、興奮して叫び続けたいくらいだもん。
「あのー、見てもいいですか?」
隣のブースの子から声が掛かる。
「話が聞こえてきて……本当なんですか?」
結構大きな声で話をしていたから、聞こえたらしい。
「そう、本当なのっ!他のレイヤーじゃなくって、正真正銘あの二人だった!」
「えー、私も見たかったです!」
「え?何?何?」
周りのサークルの子たちにも、話が伝わっていく。もう、お客さんそっちのけで、姉弟ブースは大騒ぎ。
「写真撮ってアップしていいですか?」
スケッチブックに書いた絵を撮影して、一人がツイッターにアップした。
「え?もしかして、貴方が……」
どうやら、フォロアー同士の再発見もあったようだ。
「あ、はじめまして。ツイッター上ではお世話になっています」
「私もお世話になってます」
なんて挨拶が交わされている。
「ふわぁ、リツイートといいねが……」
か、拡散が止まらないようだ。
私の描いた絵がこんなに拡散されるなんて初めてのこと。
コメントの数もすごい。
あの二人は今どこにいるんだ、後を付けていれば、そういうシーンに出会えるのか!と、ストーカー宣言してる人間までいる。
見られてたー(笑)しかも、やばい人にー!




